焼き討ちと嫌な臭い
レックス達や農民達が柵の向こう見守る中、アキトが首切り兎の巣へと近付いていく。
道中もアキトの首を狙って兎が飛んでくるが素早く切返し迎撃をして「おお」と油で片手が塞がっているのにカウンターの手際の良さを讃える。
「巣が燃えて兎がそっちに逃げた場合頼むぞレックス」
「は、はい!」
緊張した返事に見学するならそれぐらいの覚悟を持てとアキトは注意してから油を巣に注ぎ火を放ち入口に蓋をする。次の巣穴に移動して同じ様に巣穴に油を注ぎ火を放ち蓋、その繰り返しをすると地中で爆発したようで地響きと共に正面の地面が盛り上がる。
「ガスか何か溜まってたか?へっ、今のは効いたんじゃないか?」
まだ火をつけていない他の巣穴から煙が漏れ出て死に物狂いで兎が飛び出してくる。
アキトが素早く討ち漏らさないように投擲で仕留める。また感嘆の声がするがここからが本番だと気を引き締めろとアキトは注意する。
その言葉通り次々に他の巣からも兎が飛び出してきて流石のアキトも手を焼く展開になる。
「コイツら新しい穴作りやがって!そっち行くぞ!戦えない奴は逃げろ!」
火から逃げる兎が柵に向かって突進して農民は慌てて逃げ出しレックス達は彼らをカバーするように下がりながら突っ込んでくる兎を狩る。
新しく掘られた穴に急ぎ火を放つアキトだったが窮鼠の如く追い込まれた兎達が襲い掛かる。
「っち、多いんだよ!」
想像以上に増えているモンスターにアキトは辟易としながらボコボコと迎撃していくが油が狙われて入っていた樽を攻撃されてぶち撒けて一気に燃え広がる。
大炎上待ったナシの状況になりレックス達がアキトの安否を心配して叫ぶ。
「アキトさん!」
「オッサン!」
ゴロゴロと転がって泥まみれにならながら火の手から逃げ出したアキトが立ち上がり燃える草原を前に大きく舌打ちする。
「クソッ、これだから獣は!不思議な旅行人!」
このままでは畑まで火に飲まれるとアキトは苦い顔をして奥義を叫びながら指を鳴らす。
旅行鞄が出現して目の前の火にビビッてコミカルに左右に跳ねて口を開けて三叉の青い矛を吐き出す。それをすかさず手に取りアキトが精霊の名を呼ぶ。
「洗い流せ!ネプチューン!タイダルウェイブ!」
下半身が魚の益荒男が現れて波を起こし眼前に迫る炎を水で押し流す。
油の炎に水は良くない等と言ってられないと柵まで到達出来ないように更にアキトは旅行鞄に指示を出す。
「神鳴!ティターンを出せ!」
旅行鞄はあーでもないこーでもないと跳ねながらやっとこさ斧を吐き出して岩石の巨人をアキトは呼び出し地面に堀を作り上げる。
農地を守るように作られたその堀にネプチューンの水が溜まり隔たりが作られる。
一仕事終えてアキトはホッとしながら腰を下ろす。
「はぁ…最初からこうしとけば良かったと思うよ」
一人で治水工事をする化け物にレックス達は呆気に取られ消えていく二体の精霊に好奇の目を向けるのであった。
酒場に戻りアキトは畑の外の様変わりを村民に、精霊の力についてをレックス達から質問攻めされててんてこ舞いになる。
「堀のお陰でもう簡単に侵入される事なくなったしいいだろ…?落ちたら危険だから近付くなよ?」
「勝手に地形変えるなんて!…確かに侵入者は無くなるかもしれませんが…」
報酬については油でチャラとアキトは無報酬でいいと謝りながら村民を引き下がらせる。
酒場の店主は昼食のポテトサラダをアキトに奢りだと振る舞い感謝する。
「正直言うと助かった…川と繋いでくれればもっと良かったんだがな?」
「流れない水は腐る…か、溜め池なら雨で何とかなると思うが…火事になって勝手な事した。すまない」
自然を歪めた事は悪く思ってアキトはもう一度店主にも謝る。柵の向こう側の事は村とは無関係と笑うのであった。
今度はレックス達から質問攻めを受ける。
洞窟で見せたサンダーバードを含めてとんだ食わせ物と魔法使いとしてのプライドが傷付いたシシーは怒る。
レックスは不思議そうにアキトにアレは何だったのかと尋ねる。
「あの時は見なかった事にしろって言ってましたが…」
出された食事を分けながらアキトは笑って答える。
「アレは精霊っつってな、俺の故郷では実力を認められた者だけが使えるヤツだ。因みに俺のは上澄みの特別製」
「僕らも使えるようになれます!?」
「悪いが技術の流出は固く禁じられててな…」
アキトはポテトサラダを食べながら冷たく答える。面白がって旅行鞄がアキトの背後から呼んでもいないのに躍り出てくる。
思い出したようにシシーが鞄をつついて尋ねる。
「そういえばカナリって何?この鞄の名前?」
痛いところを突かれたと顔を顰めてアキトは仕方なさそうに答える。
「監視者だよ。その鞄に意思を移して俺の旅を見ている」
声は出ないがその通りと鞄は胸を張るように体を逸らす。アキトは呆れたように鞄を小突く。
レックス達は自分達も精霊が使いたいと鞄に懇願するが「それはちょっと…」と言いたげに身を引いてアキトの背に隠れる。
アキトは小さく溜め息をついて三人に半分本当の話をする。
「悪いな、以前濫用して若者が精霊を暴走させた事件が起きてから完全に秘匿されてんだ」
「ぼ、暴走…」
アキトの使う精霊を思い出してそれが自分達に牙を向けると考えてブルッと震えてやっぱりいいと三人は引き下がる。
煩わしい事がなくなり食事が進むアキトだったがやはり気になることがあった。
「で、新入りちゃんは何者なんだ?」
高貴な服装と振る舞い戦いでもイマイチな動きだったとアキトは睨みを効かせる。
女性は恭しくお辞儀して自己紹介を始める。
「私は第二皇女のラーナフィーユ。視察で訪れていた地にて馬車が襲われて…レックス様達に助けられて…」
「馬車ぁ!?襲われたぁ!?皇女様がぁ!?」
何だそのご都合展開とアキトはポカンとしながら思わずスプーンからゴロッとしたポテトが転がり落ちる。
「そうなんですよ。それでラナを皆で帝都まで送るってなって今日はこの村で休もうってなって」
レックスがまた女性が増えた事を茶化されてると思って言い訳がましい説明を付け加える。
アキトはそうかそうかと頷きつつ内心で厄介事じゃないかと頭を抱える。
(皇女の乗る馬車が襲われただー?ウソだろ?すっげぇきな臭ぇ…第二皇女か、身内による暗殺かもしれないんじゃないか?うーむ…)
下手に帝都まで送り届けてレックス達が狙われやしないかとアキトは腕組して悩む。
暢気な雰囲気で和気あいあいしている若者達は裏で何か起きているかもしれない事に気付いていないようだった。
ここは年長者として、そして権力者と上手く繋がって世界に起こる危機を確認出来るかもしれないと腹黒い期待を胸に隠してアキトは若者達の帝都までの旅があと少しだと伝えて協力を申し出る。
「この村まで馬車でおおよそ半日、人なら一日かそこらだろう。明日一緒しよう。というか俺も仕事終わったし一度帝都に戻らないといけないしな」
「え!?アキトさん帝都に先に行ってたんですか!?早いですね!」
アキトは少し思考して彼等の知る由もない高速移動で数日前から帝都で活動していた事を隠して「色々あって」と誤魔化す。
(皇女の暗殺がもし事実なら…帝都に返さない方が良いこともあるが…当の本人はそんな事意識すらしてないな。天然か?いや俺の思い過ごしなのか…?)
表情が曇ることのないラナの笑顔に知人のお姫様の面影が被り護るのも仕事と割り切って翌日の朝村を発つと約束し食事を終えるのであった。




