機械的な社会
暗闇から抜けて日暮れでまた夜闇に見舞われるアキト。もうそんなに時間が経っていたかと頭を掻く。
一人駆け足になっても仕方ないと管理部隊と仲良く拠点に帰還しゆっくり休もうと伸びをする。
「新種のモンスターのデータは報告してください」
「あー、そうだった…報告って明日でもいい?」
「ちゃんと提出するなら構わない」
恐竜なんてどう説明すればいいのやらとアキトは困り顔になるがそんな面倒事は明日の自分に丸投げするのであった。
翌日、教師として朝のホームルームに立つと地下はどうであったかと生徒達から質問攻めに合う。攻略したという情報は隠してもらっているが元気に朝目の前に立つという事は事なきを得ているという証左でもある。
「先生!どんなモンスター居たんです?新種でした?!」
「やっぱり難しい敵だったんですよね?」
男子達は目を輝かせているのでアキトはどうせ報告するしと具体的な名前を出して答える。
「まずは雑魚のノーム、小さい爺さんだな」
海外の庭とかに置かれてる置物、妖精の一種である。
「じ、爺さん…?」
イメージ出来ないのか微妙な反応を返される。
「次に中型はベロキラプトル。んー恐竜だな」
「きょ、恐竜?!図鑑とかでしか見たこと無いような絶滅種!?」
「お硬い表現だな。普通に恐竜は恐竜だ。まぁ先史時代でも絶滅してるから間違っちゃいないが」
生徒の表現方法に苦笑いするがモンスターと古代生物は一緒なのかと言われると確かにとアキトは頷いてしまう。
「じゃあ恐竜に近い何かだな。うん」
面倒臭い説明になるから『近い何か』で表現する事にする。
「群れで狩りをする危険な奴らだ。気付いたら背後を取られてたなんて事にならないようにしないといけない相手だ」
「一人でそれ対処したんですよね?」
「俺は強いからな!…まぁ冗談は程々にして、兎に角数が多かったって印象」
探索の時間の大半をコイツラと戦ってたとアキトは語ると皆同情の目線を送ってくれる。
「んで、ボスに関してだが」
アキトの言葉に全員ゴクリと生唾を飲み込む。
「電気を放つ赤獅子。正直ダルかった、木刀にすれば良かったと思うくらいに」
電気相手にはブレードは良くなかったと反省する。
「それ自分達でも攻略できますか?」
ハジメが挙手して質問を投げ掛けてくる。アキトは少し考えてからラプトルの数を耐え切れるならボスは余裕だろうと答える。すると自分達でも行けると勘違いして次は連れて行ってくれと訴えてきてアキトは軽い気持ちで答えたことを後悔するのであった。
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生徒達に話した情報をそのまま報告書として提出すると流石に恐竜はどうなのかと管理部から睨まれる。
「だが恐竜以外に報告のしようがなくてな…」
「太古の原子生物の恐竜をモンスターに分類出来ない以上は…いやそもそも絶滅種が存在することがモンスターの…」
管理部は自問自答しつつアキトの報告書を受理して地下鉄の線路網を今後攻略していく算段を立てる。
「地上から行かずに直接線路を?」
「地上全てを解放している訳ではないからな、地下鉄網を使うほうが良いこともありえる」
暗いことさえ除けば確かに安全かつ確実なルートになるだろうと予測される。
アキトは次の探索までどれだけ時間を要するのかと確認するが流石にイレギュラーな事が起こりえるので正確な時間は答えられないとなるのであった。
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放課後、食堂でのんびりお茶をしているとエツコが探していたのかアキトの顔を見つけて駆け足で寄って来る。
「どうかしたのか?」
報告なりで少し疲れ気味のアキトにエツコは少し興奮した様子で質問をしてくる。
「先生って奥さんがいるとか何とか…話してましたよね?!」
周囲の目を気にしながら聞いてきてアキトはきょとんとした顔で「ああ」と肯定する。
「古い時代の書物には夫婦関係なるものがあると知って…コホン、具体的にどういうものなのですか?」
本の知識を深めたいらしく尋ねてきたようだ。
「俺は…特殊だから一般的な価値観で説明するとだな…」
ウンウンとエツコが食いつく。
「親交を深めた男女がパートナー契約をして共に生活する事を結婚と言ってな?まぁ契約…うん。そう契約だ」
「ほうほう、親交を深める…っと」
何かメモを取り始めるエツコにアキトは怪訝な顔をする。
「古い文化で廃れちまったんだろ?なんでメモなんて…」
「え?!あ、あはは…創作活動しようだなんて思ってませんよ?ええ!」
「隠すの下手くそか?…気になるならもうちょっと答えてもいいぞ」
エツコは色々と先史時代の情報等も覚えて創作したいと思っているらしくアキトは協力してやることにする。
「そ、そうですね…親交とは具体的に?」
「そうだな…一緒に買物に出掛けたり、食事に行ったり…口で説明すると結構ドライだな」
アキトは難しい顔をして答えると言った手前、的確にアドバイスせねばと真剣に考える。
「ドライ…?出掛ける以前に何か乾かない話でも?」
「あー、そういう意味で言うなら最終的な目的は生物的な話だしな…契約し合って子孫を残す事」
「なるほど、契約とはそういう目的で…」
アキトはまた色々と言葉が巡ってきて難しい顔をする。
「支え合って生きる為というのもある。人は一人では生きていけない、心の支えでありそういう信頼関係を築ける相手か見極める前段階という意味での親交というか…」
「複雑な人間関係の縮図ですね…私達の文化では集団生活が基本となって支えは不要となって子供も計画的に作る指示が政府からきますから…」
「恋愛なんて無いし人情や風情ってものが無いな…まぁ効率的で機械的な社会だな」
エツコはアキトの話をまとめてメモする。
「このご時世には禁書が産まれる気がしてきました」
「ああ、俺もそれは思ったが表現の自由として反社会的なものを書くのはいつの時代もあるものだ」
「はい、自信を持って書き上げます!」
応援していいものなのかアキトは判断できなかったが言葉ばかりの応援を贈るのであった。
何が正しいのか分からなくなる社会の話にアキトは小さく溜め息をつく。
(まぁ浮気だの何だのと言われることの無い世界で良かったよ…コレで任務終わったら休める)
二つ目の世界を攻略させられる原因になった事象が今回起きる事は無いと安堵しつつ生徒達の未来を憂う。
(産まれた時から消耗品として集団生活して、命賭けて戦って、それで退役したなら機械的な生殖か…効率的かどうか分からないが可哀想だな)
自分が如何に平和で自由な生き方を許されていたのかと理解しアキトはお茶をグビッと飲み干す。
(だからこそアイツ等には必ず平和になった世で生き残って自由の幸せってものを知って欲しい。その為なら俺一人努力を惜しまない姿勢でいかないとな!)
余計なお世話と分かっていても自分の知る幸せを少しでも感じて欲しいと願うアキトなのであった。
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地下鉄網について情報が集まるのを待つ日々、他の班の努力もあり色々とコアの収穫とエリア解放が続く。
F班は出撃はまだかとウズウズしているようでアキトは学長に行ける場所は無いかと尋ねる。
「地下鉄に他の地上からアプローチを仕掛ける予定だ。キミ達にはそこを頼みたい」
地下の調査を頼まれ、アキトはまだ少し地下への不安が残る中で出撃要請となる。
「数が多いとキミが報告した様に無理ならば引き上げてくれて構わない」
「生徒達を帰してでも自分は攻略しますから」
アキトは使命感に燃えるような瞳をしてそう言うと出撃の任が来たことを生徒達に伝えに行くのであった。




