帝都へ赴く
帝都、つまり帝国の首都。
王国と帝国の違い、統治の規模の違いと権力者の呼び方の違い。
土地が大きければ問題も多いとアキトは仕事内容と自身の旅を終わらせられるのかという期待を抱く。
日暮れ前に大きな堀を見つけ街に入る事を悟りブレーキを掛ける。
「人目の無さそうなルートで飛んできたが…さーて、王都からどのくらい離れたかなぁ」
自分が情に流され問題を自己満足で終わらせてきた事に自分の事ながら微妙な顔をしながら街へ入りポケットに入れた少量の金貨の入った銭袋を指で転がしてハッとする。
(しまった王国の金貨使えないんじゃねぇのか!?)
国が変われば発行されている通貨も変わる。手切れ金で渡された1000枚だって使えない事を承知で渡されたんだと気付いてアキトは自分の頭をコツンと叩く。
(為替がどうなってるか分からないが金貨は共通だよな…?)
しばらく生活には困らないはずと高を括っていたアキトもお約束な嫌な予感を感じつつ紹介されている冒険者組合に顔を出す。
通信機器は無いから高速移動の事は大丈夫だと書状には日付も無いことに安心しにこやかというよりヘラヘラした顔で受付に顔を見せる。
「王都から紹介された冒険者です」
レベルがここでも見えるのか渋い顔をされつつ書状を確認して革製のタグを見せられ名前を尋ねられる。
「冒険者の身分証です。冒険者を名乗る不届き者、流れ者が居ますので…えーっとお名前は…ア、キ、トっと」
焼印を入れられたそれを渡される。
紹介状貰っておいて良かったとアキトはホッとしてタグを受け取りベルトに括り付ける。
「無くさないで下さいね?各施設で顔パスは通らないので…」
帝国の印があるタグをチラッと見てアキトは大丈夫と指で丸を作る。
アキトは続いて王国の貨幣を見せる。
「両替とか出来る?」
「それは…王国の金貨ですか?結構持っていますね…」
「一仕事終えてね。何で俺の頭の上を気にするんだよ!?」
レベル1の仕事でこんな量は不自然と睨まれるがアキトは真面目にやったと少しウソをつく。
「貨幣は各国家の保証がなされていますので金なら金、銀なら銀とどこも同等の価値を持ってます。大きさは元首達の取り決めで決まってますので」
(国は分かれているが不仲じゃないって事か。まぁ俺みたいな根無し草が簡単に出入り出来るくらいには平和…か)
お金には困らないなとアキトはまた了解と丸を指で作る。
受付嬢は本当に大丈夫かと腰の木刀を見てまた怪訝な顔をする。値踏みされているようでアキトは居心地の悪さを感じてさっさと仕事をあてがってもらう事にする。
「えーっとアキトさんにご紹介出来る仕事は…」
「一番ヤバいのでいいぞ?モンスター討伐とか」
「はい?…香草集めからして下さい。まずは信用をですね…」
近くの草原での採取を見せられる。他の冒険者はクスクスと良い年して低レベルだと笑われてアキトは不機嫌になりながらも受け取る。
「夜は危険なので明日のこの時間までに規定量納品して下さい」
(確かに押し付けられた激ヤバ任務と違ってコッチでは真面目にやるべきだな)
香草の特徴とスケッチの描かれた依頼書を受け取りアキトはやれやれと夕食を取りに行こうと組合を後にするのだった。
何を食べようかとランタンで照らされた夕暮れの道を歩くアキト、帝都と言うだけあって活気もあり屋台も出ていて行儀は悪いが食い歩きも悪くないと焼き鳥の様な串物やケバブの様な巻き物を食べてグルメを堪能しながら宿を探す。
どこが宿として受け入れがあるか聞いておくんだったと頭を掻きながら暗い路地の先も確認する。
ふと足を止めて呆れたように背中を向けたまま追跡者に声を掛ける。
「…ほら、道外れてやったぞ?」
「へへ、甘ちゃんが。金を見せびらかすなんて間抜けが。有り金寄越しな」
ならず者な冒険者かとアキトは落胆から深い溜息をつく。
「やめとけって、悪評が広まるぞ?」
「命乞いか?金を出せっつってんだよ!こっちはレベル27だぞ!」
アキトが振り返るとナイフをチラチラさせているレベルを笠に着る小物臭のするチンピラが立っていて一人かと肩を落とす。
「冒険者なら仕事した方が身の為だぞ?」
説得には応じそうにないので忠告しながらアキトは木刀に手を掛ける。交戦する意思にチンピラはゲラゲラ笑う。
「大人しく金出せば死なずに済んだのによぉ!?」
「負けたらパンツ一丁になってもらうぞ?」
アキトも最後に覚悟を尋ねると男はナイフを構えて「上等だ!」と勇ましく突撃してくる。
狭い路地で木刀を振り回す必要は無いなとアキトは直線的な攻撃をサッと躱して足払いで男をすっ転ばせる。
「転んだら自分に刺さるぞ?」
足を掛けたタイミングでアキトが言葉を呟いて男は慌ててナイフを手放し放り投げて地面に倒れる。
その背中を軽く踏んでアキトは勝ちを宣言する。
「俺の勝ち。ほら服脱げ、所持品全部置いて表通りに出な」
「ふ、ふざけんな!」
アキトは男の顔面の横に木刀をガっと突き立てて警告する。
「どうせ俺がレベル1で金持ってるカモに見えたんだろ?」
男の相手をしていると表通りから三人のならず者な男が入ってきて地面に這いつくばっている仲間を見て「油断したな」軽く笑って剣や棍棒を抜く。
「何?お仲間?やめとけって、ナイフどころか剣なんか抜かれたら…」
「っへ、今更ビビったのかよ?ほら金あるんだろ!?」
「殺すしかないじゃんか…」
アキトは木刀を肩に乗せて殺気を放ち床に突っ伏す男は悲鳴を上げる。
武器を構えていた三人は急に感じる悪寒と目の前の数字とは似つかわしくない威圧感に手足の震えが起こる。
「人一人殺すんだろ?ほら震えてないで掛かってこい」
挑発するアキトに先頭の男が破れかぶれな声を上げながら大振りに斬りかかる。その素人な剣筋に呆れながらアキトは横一線に男の頭を叩きつけ壁に吹っ飛ばす。
気絶したのかそのまま地面に崩れ落ち残る二人はそのやられっぷりに腰を抜かし逃げ出してしまう。
アキトは地面にいまだに倒れたままの最初の男に屈み込んで話し掛ける。
「ひでぇよな?見捨てて逃げちまった」
「い、命だけは…」
最初の威勢は何処へやらとアキトは舌打ちして男のナイフを拾い上げて確認する。何の変哲もないショートナイフ、それを軽く指で挟んで壁に向けて投げつける。
石壁に軽く刺さりアキトは「悪くない」と呟いてまた男の顔を見て質問する。
「あのナイフどこで買った?…あと宿、いいとこ知らねえか?話したら許してやる」
「ナイフはセラミ商店って裏通りの店です!宿は大通りの風見鶏亭が飯が美味いっす!」
アキトはメモを取って金貨1枚男の眼前に置いて無言で裏通りを立ち去るのだった。
アキトは話に聞いた大通りの風見鶏亭へ向かう。
直前のやり取り含めてレベル云々に嫌気が差してなんか誤魔化せる方法ないかなと悩む。
チンピラやバカ発見器になっている自分の見えない数字に苛つきながら風見鶏の看板を見つけて足を止める。
良い時間にいい匂いが漂ってきて食べ歩きした事を少し後悔しながら入店し宿の予約を取る。
「すみませんねぇ、お部屋は…」
やっぱり金を持って無さそうなレベルの低い奴と見られてアキトは金貨をポケットから取り出し見せつける。
「王国のき、金…貨…はいはい!お部屋ならありますとも!」
ゴマスリする店主に対して冷たい目を向けるが周囲の客から奇異の目をされる前にさっさと移動することにする。
案内された部屋に入りドアに閂状の鍵を掛けてふかふかのベッドに倒れ込む。
(やっぱり不便だ…個人情報ダダ漏れってレベルじゃねーぞ!)
誰かに消し方聞こうと思うアキトなのであった。




