(2)風の噂
手帳の何も書かれていなかったページに、淡い光とともに文字が浮かび上がった。
「このページが開かれたということは、君たちが七不思議の一つ目を見事に踏破したということだね。おめでとう!」
唐突なメッセージに胸が高鳴る。思わず手帳を見つめ、ページをめくると注意書きと警告が続いていた。
「踏破された不思議に蓄積されていたマナは解放され、他の不思議に集約されていく。難易度は徐々に上がる。慎重に進むことだ。」
その一文に息をのむ。試練がこれからさらに厳しくなる──その事実がずしりと胸に響いた。次に目に入ったのは、不思議の起源についての記述だった。
「逆さ彗星という現象を知っているかい? 逆さ彗星が現れる時、七不思議もまた姿を現す。その彗星は膨大なマナを纏い、学院内のマナに影響を与えて七つの属性に収束させていく。」
逆さ彗星──入学当初に話題になった天文現象の記憶がよみがえる。あの光景が、七不思議と繋がっていたとは。
さらにページをめくると、次なる不思議へのヒントが浮かび上がった。
「さて、それはさておき、この手帳を手にしている君が最も欲しいものは、次なる不思議への手がかりだろう。例えば水の不思議なら、池や水にまつわる事件や噂を探してみるといい。幸運を祈るよ。また次のページで会おう!」
その一文を読み終えた瞬間、隣でページを覗き込んでいたミレーユさんとヴィクター先輩の表情が目に入った。二人とも少し驚いたような面持ちでこちらを見つめている。
「なかなか凝った仕掛けだな。」ヴィクター先輩が腕を組みながら興味深げに言う。
一方、ミレーユさんは小さな声で呟いた。「アタシ、学園中を走り回って幽霊教室をやっと見つけたのに…。こんな便利な手帳があるなんて知らなかった…」
申し訳ない気持ちで手帳を握り直し、慌てて謝った。「ごめんね!偶然見つけたもので、伝えるのが遅くなっちゃって…」
ミレーユさんは苦笑いしながら「ううん、大丈夫。アタシが知らなかっただけだし…」と返す。その控えめな優しさに胸が少し軽くなる。
すると、ヴィクター先輩が口を開いた。「属性に関わる噂なら、一つ気になる話がある。」
「気になる話?」私は身を乗り出す。
「…妹から聞いた話なんだが、学院のあちこちで突風が突然発生する場所があるらしい。サザーランド家が何か実験をしているんじゃないか、とも噂されているが…」
「突風…?」
私は眉をひそめながら呟いた。「それって、風の属性に関連しているのかしら?」
ヴィクター先輩は目を閉じて考え込むと、低い声で続けた。
「確かに、風の魔法に関係している可能性はある。サザーランド家は風の魔法研究に力を入れているし、俺もその誇りを持っている。だが、無断で実験なんてしていない。どうやら学院内で何らかの風の異変が起きているのは確かだ。」
ミレーユさんが微笑みながら提案してきた。「そ、それなら放課後、中庭で調べてみませんか?次の手掛かりが見つかるかもしれないし…」
その提案に私は頷いた。ヴィクター先輩も「いいだろう」と言い、話はまとまった。
次なる不思議への挑戦に胸が高鳴る。この先に待つ未知の試練に向けて、私たちは一歩を踏み出した。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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