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魔法学院の七不思議  作者: チョコレ
第二の不思議 風がさらう宝物
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(1)表と裏

「持つ側の人間が何もかも手に入れて、僕みたいな存在から奪い、そして裁こうだなんて…許せない!」


 怒りの叫びが裏庭に響くと、空気が冷たく重く変わった。彼の小さな体は憎悪に包まれ、盗まれた魔石やポーションが宙に浮かび上がる。それらは彼の感情に反応するように渦を巻き、不気味な冷光を放ち始めた。


 彼の姿が変わり始める。全身を包む風のヴェールは触れるものを引き裂く冷気を漂わせ、手足は鋭い風の刃となり形を成していく。背中からは風の翼が生え、荒々しい羽ばたきと共に空気を切り裂く音が辺りに響いた。その威圧感に、私は思わず息を呑む。


 先程までの面影は消え、顔には暗闇が覆い尽くされている。鋭く光る瞳には怨念が宿り、冷たい風が彼の体から四方へと渦を巻いて広がっていく。その風はまるで怒りそのものに意思が宿ったかのようだった。


 その瞬間、手帳に記されていた言葉が脳裏をよぎる。


「七不思議とは、時に危険を伴うもの。」


 その意味を痛感した。ひとりで挑むには、あまりに危険が大きい。だが、私はひとりではない。


 そう自分に言い聞かせながら杖を握りしめた。共に戦う仲間がいる。その存在に支えられ、私は覚悟を決めた。


──時は少し遡るわ。


 幽霊教室で七不思議の一つ「光」を踏破した翌日。その余韻を胸に残しながら、私はミレーユさんと一緒に学生食堂で昼食をとっていの。



 昨夜の出来事を語り合っていると、不意に鋭い視線を感じた。顔を上げると、学院の首席であるヴィクター先輩が険しい表情でこちらに向かってくる。その圧倒的な威圧感に、食堂のざわめきが一瞬で消え、空気が張り詰める。


 彼は私たちの前に立ち、断固とした口調で切り出した。


「デュフォンマル。前にも言ったが、俺と再戦する気はないか?」


 突然の申し出に、私は思わずミレーユさんと顔を見合わせ、内心でため息をついた。模擬戦で彼が敗れて以来、ことあるごとに勝負を挑んでくる彼には少しうんざりしていた。今は七不思議の挑戦に集中したい。それを断ろうとした瞬間、彼の視線がさらに鋭くなり、冷たい声が追い打ちをかける。


「それだけ優秀なら、時間の余裕くらいあるはずだろう?」


 隣のミレーユさんが小さく眉をひそめ、おどおどしながらも勇気を振り絞り、静かに口を開いた。


「あ、あの…私たちは今、七不思議に挑んでいるんです…」


 控えめな彼女の言葉に、ヴィクター先輩は冷ややかに嘲笑を浮かべる。


「七不思議?そんなまやかしに挑むなんて、ガキの遊びだろう。それが将来に何の役に立つ?俺は首席の座を守り、聖天の魔道師団や王立魔法研究所からも注目されている。それこそが本当に意味のある努力だ。」


 その言葉にミレーユさんは一瞬戸惑ったようだったが、やがて顔を上げ、静かながらも決意を込めた声で反論した。


「…全ての物事には、表と裏があると思います。もし表を求めるなら、裏も用意しておくべきだと…」


 その言葉に、食堂の空気がさらに張り詰める。私も息をのむ中、ヴィクター先輩の表情が一瞬曇った。ミレーユさんはさらに言葉を重ねる。


「アルマさんに再戦を望むなら、それはカードの表だと思います。で、では、裏は何になるのでしょうか?」


 ヴィクター先輩は驚いたように目を見開き、次の瞬間、苛立ちを含んだ声で言い返した。


「対価を準備せよ、ということか?まさか、我がサザーランド家の財宝が目当てか…!」


 ミレーユさんは呆れたように肩をすくめ、冷静に返す。


「そ、そんなことあるわけないじゃないですか…私たちは七不思議を踏破しようと思っているんです。も、もし七不思議の踏破を手伝ってくれたなら、アルマさんは再戦に応じてくれるかもしれません…」


「え、ちょ、ちょっと…」と思わず私は口を開いたが、ヴィクター先輩は私の動揺には構わず考え込んでいた。そして、意を決したように顔を上げる。


「つまり、この俺に七不思議の挑戦を手伝えと、そういうことか。」


 彼の言葉にミレーユさんは静かにうなずく。ヴィクター先輩はため息をつきながらも頷いた。


「わかった。ただし、俺たち三年次には春の終わりにクラス対抗の召喚競技会が控えている。失態は許されない。手伝うとしても、あくまで合間だけだ。」


 鋭い視線で私を見据え、冷たい声で続ける。


「そして、これが終わった暁には再戦を申し込む。その時は逃げるなよ。」


 そう言うと彼は隣の椅子を引き、堂々と私たちのテーブルに座り込んだ。その態度に気圧されつつも、隣のミレーユさんが小さく微笑んでいるのが目に入る。その柔らかな笑顔に、張り詰めていた場の空気が少し和らいだ。


 私は内心、(再戦って…)と考えながらも、なぜか奇妙に負ける予感はしなかった。今は七不思議の挑戦に夢中で、ヴィクター先輩との再戦よりも目の前の謎解きに心が躍っていた。


 その時、不意に制服の内ポケットにしまっていた手帳がかすかに光り始めた。驚いて手帳を取り出しページを開くと、そこには不思議なメッセージが記されていた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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