(2)幽玄の試練
満月の光が差し込む教室には白い霧が立ちこめ、その中に幽霊の教師が冷然とした眼差しで私を見据えていた。その視線には冷酷さだけでなく、挑戦者を試す厳粛な意志が宿っているようだった。
霧が濃くなり、圧迫感がじわじわと広がっていく。この重圧に負けるわけにはいかない。深く息を吸い、気持ちを整えた。
「無属性魔法が発展していない理由を述べよ。」
冷ややかな声が教室に響く。積み重ねてきた知識を掘り起こし、慎重に答える。「無属性魔法は他の属性に干渉されやすく、制御が難しいため安定性に欠けます。また、属性ごとの魔法体系が効率化したことで淘汰されたと考えられます。」幽霊教師の眼差しがわずかに揺れるのを感じた。
「魔法と親和性が最も高い金属は?」
「オリハルコンです。マナを増幅する性質を持ち、魔具の素材として知られています。」自信が胸に芽生える。
「魔石の純度を見極める方法は?」
「光を通して結晶構造を観察したり、特定の波長のマナを当てて反応を見る方法です。」確信に満ちた声が教室に響いた。
次々と投げかけられる問い。まだ一年生の私には習っていない内容ばかりだが、図書館で培った知識が自然と湧き上がる。孤独な努力が今、報われる感覚が胸を満たした。
「…見事だな。」
幽霊教師の冷たい表情に一瞬だけ驚きが浮かぶ。しかし、それは束の間。次の挑戦が告げられる。
「次は実技だ。」
冷たい声と共に教師が手をかざすと、光り輝く障壁が現れる。「この障壁を破ってみよ。」挑発的な言葉に、私は胸の奥で静かに笑みを浮かべた。
「影の深淵に眠る力よ、漆黒の闇より刃を生み出せ――闇影刃!」
詠唱と共に生み出された闇の刃が一直線に障壁を貫く。しかし、幽霊教師は片手を軽く振っただけで刃を霧散させ、何事もなかったかのように教室に静寂が戻る。その動作は簡単すぎて、まるで子供の遊びを扱うかのようだった。
「…教師に手を挙げるとは。では、さらに難しいものを準備せねばなるまい…!」
教師の指先が動くと、瞬く間に私の周囲を正八面体の光の障壁が囲んだ。冷たい輝きを放つそれは、四方から私を閉じ込め、圧倒的な存在感で空間を支配している。
「次は、この壁を突破してみせよ!」
光の壁がじわじわと圧迫感を増していく。拳で打ちつけても微動だにせず、その冷たさが息苦しさを伴って全身に広がる。不安が心を支配し始めたその時、視界の隅に一筋の光が飛び込んできた。
「…雷の表、展開…」
低い声と共に、一枚のカードがどこからともなく現れ、障壁へ一直線に飛び突き刺さる。ガシャン、と音を立てて障壁が粉々に崩れ落ちた。
荒い息を整えながら顔を上げると、そこには見慣れない制服を着た少女が立っていた。
彼女のショートボブの白髪は銀糸のように輝き、淡い紫の瞳がこちらを不安げに見つめている。控えめな制服のデザインに、小さなカードポーチが揺れ、手首には異国の文字が刻まれた布が結ばれていた。その神秘的な姿に胸の奥が静かに高鳴る。
彼女が誰で、なぜここにいるのか。すべてが謎だが、その瞳の奥に宿る決意が私を引きつけてやまないのだった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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