幼馴染との訓練
シャルロットに連れられて大騒ぎの訓練場を後にしたベリアは
「おいラヴィ、テメェふざけてんのか?」
「いいじゃん別に〜」
「お、落ち着いてください…」
ラヴィアを締め上げていた。
お茶会用に設置されたテーブルに片手をつき、もう片方の手に拳をつくり、前傾姿勢で向かい側のラヴィアに睨みを聞かせていた。
額には青筋が浮かんでいるので、
かなりご立腹である。
「シャルロットさんパシって俺を呼ぶな。
クラスの連中の目がまた鬱陶しくなる」
「シャロ可愛いもんね〜」
「ヴィア…」
シャルロットからも呆れた目を向けられるラヴィア。
「それはそうだがそういうことじゃねぇ」
「ふぇっ!?」
…シャルロットの顔が微妙に赤くなったがそれは置いておこう。
「『全能の魔女』に加えて
『無垢なる聖女』まで手篭めにしたとか言われてんだよ。マジでそろそろキレるぞ俺」
「酷い噂ですね…」
「…どのくらい怒る?」
「汎用魔法を《《使う》》ぐらい」
それを聞いた瞬間、ラヴィアの顔色が変わる。先程までのポヤポヤした雰囲気から、少し焦るような雰囲気となる。
「ダメ!死人出ちゃうでしょ!」
「死人!?」
「俺がミスるとでも?」
少し不服そうにベリアは言う。
「命が無事でも心が無事じゃないの!」
「だったら少しはお前も気をつかえ」
必死の訴えに、ため息を吐きつつ応える。
「は〜い…」
反省したように下を向くラヴィア。
物騒な会話をする2人の間でオロオロしていたシャルロットも安堵し、息を吐く。
「そろそろ要件を言え。さっきからシャルロットさんが気まずそうだろうが」
「何?
もしかしてシャロみたいな子がタイプ?」
「そ、そうなんですか!?」
…なーんで嬉しそうなんですかねぇシャルロットさん。
「アホかテメェ、
俺は釣り合ってねぇ人に
一方的に好意を抱けるような
考えなしじゃねぇよ」
「私とずっと一緒にいるリアが言っても何の説得力もないよ?」
「お前はそっちから近づいて来てるだろ。
関わってる相手がどうであろうと、
俺の価値が上がるわけじゃないだろ」
間髪入れずにそう言うベリアに、
思わずため息を吐く2人。
「あのねリア。
確かに貴方は順位は私達と比べて低いし、
〈賢者の杖〉にも
今は所属してないのは事実だよ。
でも学園の生徒達に意見を聞いた時、
貴方が釣り合ってないなんて言える人が
何人いると思う?」
「ベリアさんの成績は数値上よくありませんが、それが明らかに手を抜いてることはこの学園においてとても有名です。
戦闘技能なら私達を超える結果を出すことも
珍しくないのに釣り合わないと言われても、
なんの冗談かと思いますよ?」
「めっちゃ言うなぁ…」
少し怒ったような様子で説教する2人に、
苦笑いをするベリア。
「まぁそれはともかく、要件は?」
「今日の討伐班、
リアはどうするのか聞こうと思って」
「あぁ、それか」
学園の創設目的からも分かる通り、
魔物の脅威はいつでも存在する。
当然対処が間に合わない事も多く、
学生だろうと駆り出さなければならないのだ。
「いつも通り単独行動だよ。俺は」
「またそれ!?危ないから
ちゃんと班に入ってって毎回言ってるじゃん!」
「私としても、
出来れば集団で行動して欲しいのですが…」
「俺の戦い方に
他の連中が合わせられんだろ」
俺の戦い方を簡単に言い表すなら、
高速機動と瞬間火力による
即殺離脱のゲリラ戦だ。
「…それでも心配だから
こうして説得の場を作ったんだけど、
どう思う?」
「お前の幼馴染を信じろ、としか言えんな」
こればっかりは変える気はない。
魔物を殲滅するにしろ、
裏で暗躍するにしろ、
単独行動の方が色々と都合がいい。
「ほんっと、頑固だよね」
「そんなに俺が大事かよ?」
「当たり前でしょ」
…そこは冗談として流して欲しかったんだが?
「まぁ諦めろ。俺の意見は変わらんよ」
それを聞いた2人は、コソコソと話し合う。
「…どうする?」
「私に振られましても…
ヴィアの言葉を聞かないなら、
誰もどうしようもないでしょう?」
…それはその通り
「だってリアは絶対無茶するよ?
前回なんて右脚が反対に折れ曲がってたんだよ?」
「治療する側としても見ていられないレベルのことを平気でしますし、
なるべくならブレーキ役の方が一緒に居て欲しいのですが…」
どうにか班を組ませようとメンバーを考えてみる。
「私の側は魔物の群れの中より危険だし」
「私は一番後方の支援部隊ですし」
「…二席とリアは犬猿の仲だし」
「〈賢者の杖〉の他の方は相性悪いですし…」
「かと言って他にリアに合わせられる人なんていないし…」
そこで2人でベリアに向き直り。
「「…どうしようもないので意見ない(ですか)?」」
「俺は単独行動でいいって言って側なんだが?」
…その後もラヴィアとシャルロットでどうにか説得しようとするも、涼しい顔で紅茶を飲むベリアを説得できず、討伐の時間が迫るのだった。
………………
「…んで、いつまで着いてくるんだお前ら」
お茶会が終わり訓練に戻った俺の後ろに、
ラヴィもシャルロットさんも何故か着いてきていた。
「だってリアの訓練は大抵危ない事するための準備だもん」
「私も何かお役に立てればと…」
「気持ちはありがたいが、
周りの目を気にして欲しかったよ俺は…」
人気者2人がいるもんだから、
周りの目が刺さる刺さる。
「美少女2人は目の保養過ぎる」
「見てるだけで癒される」
「過剰摂取で昇天しそう」
「なんだあれこの世の楽園か?」
「ベリアさんマジやべぇ」
「俺達の憧れだぜ」
「格が違うってああいうことだよな」
…なんか思ってたのと違う声も混じってるな?
「まさかのラヴィ×リアならぬ
シャル×リア!?筆が進むわ!」
「待ちなさい!
ラヴィ×シャルもありでしょ!」
「ラヴィ×リア以外のカップリングは邪道だ!」
「異端審問会だ!連れて行け!」
…大変だなぁ(白目)
「まぁいいや。俺は自分の鍛錬するけど、
2人はどうする?」
「手伝おっか?」
「あ〜…まぁ頼むわ。シャルロットさんは?」
「よろしければ見学させて頂いても?」
「退屈だぜ?好きにすればいいけど」
そう話ながら、ラヴィと訓練場の中央に移動する。
「お二人の訓練だ!」
「さっさと退くぞ!」
「邪魔するなど許されん!」
…もう何も言うまい。
障害はなくなったので
さっさとラヴィと向き直る。
「方式は?」
「固有魔法有り、武器なしでいいだろ」
「私はどれくらい本気でやった方がいい?」
「ちゃんと手加減してくれ。
本気でやられると訓練の範囲に収まらなくなる」
「ちぇ、了解〜」
「当たり前だからな?
本気でやられたら俺普通に手も足も出ないからな?」
「分かってるよ〜」
話が終わり、緊迫した空気が流れる。
「では僭越ながら、
私が合図をさせて頂きます」
シャルロットがそう言い、少し前に出る。
「「…」」
「始め!」
………………
シャルが合図を出すと同時に、
リアが前に倒れ込む。
その傾きが45度を超えた辺りで
「ッ!」
リアの体が急加速し、こちらに迫る。
その目は空色に輝き、
魔力を活性化させてることを伝えてくる。
「…」
私はそれに対して、
20個ほどの魔法陣を自分の横に展開する。
だけど
「"断空"」
魔法陣が魔法を発動する。
そのコンマ1秒の間に全ての魔法陣が真っ二つになる。
魔法陣は展開から発動まで僅かにタイムラグがあり、その間に刻まれた式が破壊されると無効化される。
「むぅ…じゃあこう!」
今度はリアの周囲を半球状に囲むようにして、100個程の魔法陣を展開する。
「このっ…!」
リアは一瞬こっちを見て
「"換空"!」
瞬間、私は魔法陣で囲まれた中心に居て、
リアはさっきまで私が立ってた場所に立っていた。
「まだだよ!」
私は魔法陣を一度待機状態のままにして向きを変更。
再びリアを狙うも
「"断空"」
それらは発動する前に真っ二つとなる。
これこそがリアの固有魔法にして
『空絶の剣魔』の異名の由来の一つ
魔力特性【天空】
空間を自在に操り、何にも縛られない。
世界でリアしか持っていない空間属性の魔力だ。
それにしても、私は魔法陣の向きを変えるのにコンマ2秒しか掛けてないのに…
「…やっぱりリアの魔眼ズルいと思う!」
「お前の魔心よりマシだわ!」
………………
ここで俺とラヴィの言う魔眼、魔心とは何か説明しよう。
この世界の住人は魔力が強ければより長生きすることは既に説明したと思うが、
実は特に魔力が強い人は体の一部が普通の人とは違う構造に変質する場合があるのだ。
これを一般的に魔力器官と呼び、
変質した部位によって能力が異なる。
基本的にその能力は、
魔法の発動工程を短縮、または不要とするものとなる。
魔法は魔法陣展開、魔力供給、詠唱、発動の段階に分けられる。
また、発動できる範囲も自分から5m以内が基本だ。
俺の魔眼は文字通り目の変異だ。
魔眼は視界内全てが魔法の発動範囲となっている。
また、魔法陣展開が不要であり、魔力供給もほぼノータイム。詠唱は一言で即発動である。
ただしこれは視界内の話で、
視界外の場合魔法陣の展開が必要になる。
ラヴィの魔心は心臓の変異だ。
魔法陣展開は要るが、魔力供給はノータイム。詠唱は不要である。
何よりも酷いのは
発動範囲、及び能力の適応範囲が
魔力感知や空間把握までを含めた認識できる範囲全てであり、
尚且つ同時発動も連続発動も思うがままという点だ。
「こうなったらちょっとだけ本気を…」
「対処しきれん!やめろ!」
コイツの物量作戦は圧倒的であり、
それをされたらいくら短いとは言え詠唱が必要、そして視界に収めなければならない俺は対処しきれないのだ。
「というかリアの魔力って強いよね。
基本的に防御不能察知困難で、ノータイムで着弾だよ?理不尽にも程があるよね」
…そんなことを宣いながら200個の色とりどりの魔法陣を俺の周囲に展開し、
さらにそれを移動するたびに行うラヴィ。
「"断空" "換空" "断空" "換空" "断空" "換空" "断空"
…お前の魔力には負けるよ。」
空間の座標を入れ替えながら視界を動かし、
目に入った魔法陣を全て真っ二つにしながらそう愚痴る。
ラヴィの魔力は【万能】
簡単に言えば全属性に変換できる魔力である。
ただし知らない属性を使うのは不可能である為、基本はコピーのような使い方をしている。
また、属性ごとに難易度のようなものがあるらしい。
俺の空間属性なんかは最高難易度で、使おうとすると、他には二つ三つくらいしか属性が使えなくなる上、制御も難しい為肝心の手数が少なくなるらしい。
「だってまだ余裕そうじゃん、リア」
「なわけあるか」
そう、余裕なはずがないのだ。
魔法陣の展開から発動までのタイムラグはほんの僅かであり、その間に視界内に収め、詠唱し、発動しなければならない俺は、いわば常に綱渡りをしているようなものだ。
一歩間違えばその瞬間魔法が発動され、その対処をしているうちに次の魔法が…なんてことになるラヴィとの戦いにおいて、この綱渡りがなんと危ないことか。
一つ一つが洒落にならない威力なのに、それを馬鹿げた数を一瞬で同時発動し、それを連発してくるのだ。やってられるか。
「というわけでペース上げてくよ!」
「あぁもう畜生どうにでもなれ!」
………………
「スゲェ…いや何が起こってるか分かんねぇけどスゲェ…」
「ベリアさんの方は超高速で動いてるし、
ラヴィアさんは動いてないけど魔法陣の数と展開頻度がおかしいし…」
「〈賢者の杖〉の方々は1人で一軍に相当するらしいけど、ラヴィアさんは別格ね」
「ベリア君って本当に〈賢者の杖〉でも
上位10名でもないの…?明らかに格が違うのだけど…」
「俺ベリアより順位上だけど、
あんな芸当絶対できない」
私だってそうだ。
そう言いたいのを私こと、
シャルロット・アルテミスは抑える。
目の前では親友であるヴィアと、
その幼馴染であるベリアさんが
訓練とは名ばかりの高度な戦争を繰り広げている。
これで2人とも訓練の範囲に収まる程度まで
加減してると言うのだ。
私達の立場を考えて欲しい。
ここで行われている『訓練』に、
一体何人が着いて来れると思っているのだろう。
私は戦闘向きでないとは言え、第三席で二位だ。
だが、おそらく戦ったなら即座に敗北するだろう。
二人はよくベリアさんが弱くなったと会話しているが、正直これを見ると信じられなくなる。
というか今でも充分強いのだから、
多少は弱くなったことの何が問題なのかと思う。
「馬鹿野郎!桁を増やしてんじゃねぇよ!」
「大丈夫大丈夫!ほらほら〜」
ヴィアが一度に作る魔法陣を一気に増やした。数としては2.000はあるだろう。
それらに対処するベリアさんだが、
処理が間に合い切らず、
とうとう魔法が発動してしまう。
「っ"遮空"!」
ベリアさんはおそらく防御系の魔法陣を展開、発動して魔法の着弾に備え身を守る。
自分自身の肉体は全体象が視界内の条件に入らず、全身を守る際は魔法陣が必要…というのは、ベリアさん自身に教えてもらったことだ。
発動したのはベリアさんを中心とした火炎の竜巻、それがベリアさんの視界を塞ぎ、
他の魔法陣の破壊を妨害。
次々に魔法が発動する。
「クソッ!"…"!」
ベリアさんが何か詠唱し、
足元に魔法陣が展開され、次の瞬間
「…えっ?」
発動した魔法によって視界が塞がれ、
転移が封じられたはずのベリアさんはいつのまにかヴィアの目の前に居て
「シッ!」
拳を突き出す。それはヴィアに迫り
「ッ!」
凄まじい衝撃とともに、
ヴィアが発動していた防御系の魔法に
叩きつけられた。
「…無駄だよ」
ベリアさんの拳は障壁を突き破るも、
何重にも張られた障壁を突破しきれず、
5、6枚の所で止まっている。
「クッ!」
ベリアさんは、追撃を入れようとして…
「…俺の負けだな」
既に発動寸前の魔法陣が足元を含め
そこら中に存在し、
全てがベリアさんを狙っていた。
ヴィアが止めなければそのまま発動し、
ベリアさんに魔法の洪水となって
降り注いだだろう。
「お前桁を変えるのやめろや。
対処できるわけないだろ」
「始めからその気なら対処出来たじゃん?」
「訓練で使う魔法じゃねぇんだよアレは」
軽口を叩く2人に対して、
私達観客は心を一つにした。
((あれでまだ訓練と言い張るのは無理があるでしょ…))
就職活動が忙しい…
でもどうにか描いてます。
良かったらコメント等して頂けるとありがたいです。