護衛艦と艦長
18時になり元の場所へ向かった二人。
「全員の点呼をする、名前と乗り込む艦を読みあげる」
艦長の黄が読み上げていく
「ヒビキ1号艦、GT1号艦、」
二人は同じ艦だった。チョウも同じ艦だからチョウが気を利かせての計らいだろう。
整列が終わり再び黄艦長から言葉がでる
「これから乗り込む船へと移動してもらう、部屋や船での生活は担当の護衛長から説明を受けてくれ、解散」
「1号艦の雑用班集合あるよ」
チョウの前にヒビキとGT、それに長身で切れ長の目つき細身の割りにしっかりしている身体つきで髪を後ろで縛ったスタイルのTシャツに黒の作業用のパンツの男が来た。
「皆の紹介するね、私がチョウで左からヒビキ、真ん中がGT、右がシン」
チョウが皆を紹介した。
シンという男は物静かに二人へ会釈する。
「部屋だけど二階にある船員室を使ってもらうよ、3人部屋ね。それから主な仕事、ヒビキが洗濯係で毎日16時にロッカールームから回収して洗濯して乾燥。朝9時にロッカールームに返して終了。GTが調理補助朝5時に朝食準備して昼食の弁当作って朝9時終了16時から準備で7時終了。シンはデッキからモリでの迎撃部隊の下回りね朝9時から夕方までね、あと私の部屋は一階の船長室の隣あるよ、仕事は迎撃部隊長を兼任あるよ、以上、ヒビキGTは部屋くるよ」
チョウの部屋まで着くと弁当が用意されていた。
「いただきまーす」
二人は急いで弁当を開けた。
イカ飯に卵焼き、あじフライだった。
二人は久しぶりの飯に歓喜の唾液を垂れ流す。
その光景をチョウは一歩引いて見ていた。
「ヒビキもGTも飯に困ってたか?この国のスラムもヒドイ環境あるね」
こうなったのは二人の責任なんだが、それはあえて言うつもりはなかった。
GTは今後を考えてチョウに教えてもらおうと聞いてみた。
「チョウさん、中華は今どんな感じだい?」
「GTはしばらく中華にいるつもりかい?」
「そう考えてる」
「なら、食べ物に不足してる国だから使うとこに気をつけなさい、戦争で土地の1/3が避難区域に今でも認定されてる、開発不可は未知の生物と汚染によるもの、食べ物の半分を海に頼る中華に陸地だけの生活をしてる人々は苦労してる、知らない人間が行けば水、食料ともに足元を見られるあるよ、大陸の端の方はあまり情報が得られないあるよ、それならタイやマレーシア、フィリピン、なんかの小国が海外の人間には過ごしやすいと言えるかもあるね、それはノースジャパンにいるのと変わらないと思うあるよ、なんで中華に来たい?」
「理由なんかないさ、目的も目標もない漠然と生きてる今だからこそ場所なんて意味ないだろ?中華に行って苦労することがあるかもしれないが何もせずに生きていたらそれまでだ。前途多難じゃない人生に面白みってあるかい?チョウさん。漠然と生きてる今日を変えるには前途多難を乗り越える必要があると思い立った若者が中華を喰らう。格好よく言えばこんな感じです。」
チョウは笑いながら珍しいもんだと思った。作り上げられた世界は平和や秩序を柱に今や自然、地球との共存を考える世界世論に、退屈をぶつけている若者。チョウも若い頃に少しは抱いた感情ではあるが外洋にでるという仕事をしてそういった感情と上手に付き合うようになり今は薄れてしまい、この二人を懐かしくも微笑ましくも感じ同時に無鉄砲ともとらえる。しかし悪い気がせずに聞いていたのはあまりにこういう若者が減ってしまい希少生物を保護したい感情に浸ったからだ。
「黄艦長いるね?彼は中華の護衛艦組織の会社のお偉いさんあるよ、今は中華で3つ護衛艦会社あって中華海域内専門、内外両方の海域、中華海域外専門、黄さんの会社は内外両方の海域で仕事する会社あるよ、黄さんはそこの役員でもある。もし二人が仲良くすれば暫く食いっぱぐれないあるよ紹介するか?」
二人は顔合わせ渡りに船だと頷いた。
「じゃ今から、行くね」
チョウに連れられて隣の部屋へと足を運ぶ。
チョウが二度ほどノックして艦長から返事がくる。
「入れ」
「失礼します艦長。少し時間を貰えますか?」
チョウは改まり願い出る。
「あまり堅苦しいのは似合わんぞチョウ、用件はなんだ」
「実は今回雑用として登用した二人の日本人がいるのですが、航海が終われば中華に残るそうで何か港の仕事があれば黄艦長に紹介してもらいたく願いでました」
黄はチョウを珍しい目で見ていた、長い付き合いで苦楽をともにしてきたが他人の世話よりは自分の仕事を優先する愚直な面を持ち合わせる男である。異国の人間にこのタイミングで世話する理由がわからなかった。
「チョウ、後ろの日本人に思い入れでもあるのかい?」
「艦長、ふと小さな好奇心にかられまして若者二人の力添えになればなと」
「珍しいな、君達二人はいったい何ができるんだい?」
椅子に座った黄から問いかけられる。
GTはヒビキを手で制して一歩前へ進む。
「僕らは特に何も持ち合わせていません、スラムで育ちなんとか生き延びて来ました。中華に行こうと思ったのも思いつきで目標や目的なんてありません、ただ漠然と生きてることにジャパンも中華も関係なく新しい地で新しい何かに出会えたらと考えていました。艦長が考えるような高尚な事はひとつもありません。ただ動いてみたの一言です」
黄は笑っていた。チョウも笑っていたが、つまりは無鉄砲過ぎて邪な考えは見当たらないからだ。
「そうか、ではこの航海で君達二人になんらかの想いを私が抱けば港に着いたら斡旋しよう。今は無事に航海することを考えなさい、下がりたまえ」
3人が退出していき、椅子に座りながら考えた。チョウもきっと、今の時代に何の考えもなしに異国へ行き、生き延びる事ができると思っている阿呆二人に男として大切な何かを見たのかもしれない。しかし、それは意思だけでなく行動も伴わなくては二人の働きぶりを見てからにしようと黄は思った。