良い日旅立ち
「兄さん無一文になっちまったな今日は帰りなよ」
場末の賭場で全ての金を失った男の名はヒビキ。
この男、幼少期に親を失いホームレスぎりぎりの生活を送ってきた。
日雇いの馬小屋掃除、街の下水掃除、薬草や山菜採取。最近は身体も大きくなって稼ぎも増えてきた。
周りにいる大人や友人もろくでもない輩の知り合いしかいない。今日は小さい頃からの悪友のGTと二人で身ぐるみを剥がされる始末。
ちなみにGTってのは服に書いてあった文字で本名なんてお互いに知らず、ヒビキは声がよく聞こえるからヒビキなんて周りから言われていた。
そんな二人が過ごしてる国はジャパンノースという。
遥か800年前、昔まだ日本って国があったらしいが大国と戦争して負けて領土が奪われ今は北の一部に人口300万人程度の国として名を変え存在している。
この戦争は世界中を変える事になる大5次世界大戦だった。文献すらもわずかで当時のテクノロジーも多々失い、人類は再度文明を逆行しての再出発となる。
生態系にも沢山の変化があり、海には危険な生物が沢山存在し、丘では熊の巨大化、爬虫類の巨大化、毒を撒き散らす蛾や犬サイズの蜘蛛なども存在する。
そんな世界にだから命を落とすことなど日常茶飯事でヒビキの親もGTの親も運がなかったとしか言えない。
「GT、今日寝る場所と飯の確保ってしてある?」
「ねぇに決まってんだろ」
二人は無言になり賭場を後にした。
「10日分の稼ぎが…どうするよ、次の仕事まであと3日は待たなくちゃならんのに」
ヒビキが項垂れる。
ヒビキやGTはスラム街にいるので仕事は順番にしていた。みんな食うために必死だから殺し合いになるわけにはいかないのだ。
GTは開き直った顔になりヒビキに告げる
「なぁ俺達別に帰る家もないだろ、いっそこの国から出て、なんかやってみようぜ」
「なんかってなんだよ?」
「んな事は後から考えりゃいーのよ、目標や目的なんてもんに縛りつけられるのは良くねーよ、自分の行動を制限するための理由になっちまうだろ」
なかなかに鋭い事を言うとヒビキは思った。
「だけどよ、どうやって出てくよこの国」
GTは再び笑みを作り
「ハコダテによ、漁にでる船がある、ただ中華まで行く船で海の化物とやり合う護衛艦が二艦あるらしく、護衛艦で雑用に10人程度募集してる。条件は30未満の男、海洋生物との交戦経験、保険なし」
ヒビキは苦笑いしながら
「つまり、死んでも責任とらんけど戦うのが仕事だよってか。ちなみに日当いくら?」
「たしか1万」
「やっす、俺の命1万。まぁ飯は食えるし寝られるしいいか、じゃ今から行くかハコダテ」
二人は頷き街を後にした。
この時の衝動的な決断が後に二人が成り上がり者と呼ばれる行動になるとは誰も知らない。