君との会話
第二章 君との会話
高校初めての体育祭がやってきた。この高校の体育祭の時期は、七月で蒸し暑い日だった。やっぱり僕は相変わらず高校初の体育祭も救護テントにいた。救護テントには。養護教諭と保健委員の人がいた。その中で、彼女を見つけた。彼女は熱心に委員会の仕事をこなしていた。一時すると彼女が仕事を終えたのか、競技の入場門に向かっていくのが見えた。次の競技は、借り物競争らしい。何人かがスタートし、彼女の番が来た。彼女は借り物の書いた紙を見た瞬間、眉間にしわを寄せた。そのあと彼女は僕のほうへ走ってきた。「ねぇ、ちょっと来てくれない?」そう彼女が言った。僕は少し困ったが、言う通り彼女についていった。彼女と一回も話したことないのに、なんで彼女は僕を選んだんだ。そんなことを考えながらついていった。彼女は何を言わず、僕のペースに合わせてくれる。ゴールラインについて司会の人が、紙を見てにやついた。司会の人は彼女に尋ねる。「本当にこの人なの?」と聞かれると、彼女ははいと答えて、僕を救護テントまで送ってくれた。その時彼女が言った。「私の名前は立華詩よろしくね一真くん。それじゃぁ、またあとで。」そう言って彼女は去っていった。体育祭は、10点差で優勝。体育祭の後は、打ち上げをやろうと言って場所を決めていた。そんな時彼女は僕の傍に駆け寄ってきて、「一真くんもいかない?いや、一真くんも一緒に行こう‼」そう言われた。僕は断れずに、うんと返して彼女と一緒に行った。打ち上げは案外楽しくて、初めてだったこんなに楽しいの。最初は行くのは、怖かった。誰か死ぬかと思ったから。でも誰も死なずに終わった。少し内心ほっとした。打ち上げの帰り彼女と二人で帰ることになった。色々話した。彼女のことを少し知れた気がする。今はそう思っていた。体育祭が終わってからも、彼女と会話をするようになった。彼女との会話は毎回弾むようになった。好きな歌い手とか、色々なことを話した。でもある日彼女が口にした言葉で僕は、下を向いてしまった。「一真くん、このゲームの優って言うこのアカウント知ってる?私の知り合いなんだけど、二年前から連絡取れなくてー。」それを聞いた瞬間目の前が真っ暗になった。
二年前の夏。中学生だった僕は、彰のことを忘れられずにいた。僕は彰がいなきゃ誰かと話すのもためらってしまう。じりじりと鳴く蝉は、少しうるさい。でも夏は嫌いではない。彰がいるように感じるからだ。蝉を彰と重ねてる僕は、少し馬鹿だなと自分でも思うくらいだ。中学生になって僕はいじめにあうようになった。暴力とか目に見えるものじゃなくて、言葉の暴力だった。しんどかった。辛かった。でも頼れる人なんて誰一人いなかった。だから僕はネットの世界で作ろうと思った。一つのゲームを始めた。そこで出会った人がいた。それが彼女が言っていた優だった。優は何も知らない僕に優しく接してくれた。優には、いつのまにか心を開いていた。優は僕の話を聞いてくれる唯一の存在だった。彼女と沢山話していくにつれ、自分の気持ちは楽になっていった。彼女と会って数か月たったある日、悲劇が起きた。その日は何の特別感もない日で、ただただ天気が良い日だった。その日も優とゲームをしていた。珍しく優はボイスを付けて、通話した状態でゲームをしていた。ゲームはRGPで半数がリタイアしたあたりで、優がぼそぼそ何か言い始めた。僕の耳にちゃんと届いた言葉は、「ごめんね。」の一言だった。僕はどうしたのと君に問うが、君からの返事はなく、優のちゃんとした声を聴いたのは、それが最後だった。優がごめんと言った数秒後、変な声が聞こえてきた。小さな音だったけれど、鮮明に覚えている。彼女の、優の苦しそうな声がする。その音だけではない、何か縄の様な音でシミシミと音が聞こえる。僕は優の声を聴いた瞬間ー。
誰かがドアノブにベルトをかけそのベルトで輪を作り首にくぐらせる。一気に体重をかけ、苦しくなる。シミシミと音が鳴る。咳込む。ゼイゼイと声が枯れていく、いつのまにか、意識が朦朧としてくる。手が震える。痛い。苦しい。まだ生きたい。そう思った瞬間、ベルトと首の間に震える手を入れる。体重をかけるのを止めた。苦しい。なんだろう、この気持ち。誰の、いつの話だろうー。いや、誰のことでもない。これは紛れもない、僕の話だ。彰がいなくなって、絶望していた中学一年のころの記憶。なんで今思い出したんだけ。あ、優。僕は思い出した。優は優は!そう思ってスマホを開く。優と最後に話した日から、丸二日が経っていた。アプリを開くとメッセージが残っていた。優からだった。送られてきた時刻は、優とゲームをする前。つまり、優が死ぬ前だ。優が本当に死んだかは、わからない。でも、確かに優のあの声や音は、首を絞める音だった。自分の首を絞めて喘いでいる声だった。そんなことを思いながら、優からのメッセージを開く。三件のメッセージ。「一真、ごめんね。こんな私で。」「私が傍にいなくても、一真は生きていけるよ。大丈夫。」「一真はこっちに来ちゃだめだよ笑」そんな三件のメッセージ。僕はバカかよ!と叫んだ。いつの間にか涙が出ていた。また、人が死んでしまった。大切な人を失ってしまった。今回の場合、僕が気づくことが出来たはず。そう僕は感じた。自分の話ばかりではなく、優自身の話ももっと聞けば優は死ななかったかもしれない。自分のせいで優が死んでしまった。優が、優が、僕のせいで死んでしまった。そう思ったのだ。僕はなんて最低な人間なんだ。と優がいなくなった悲しみと一緒に自分の無力さで泣いた。
僕はその話と僕の思いをいつの間にか詩に話していた。詩は隣で泣き崩れていた僕を見ながら、静かに涙を流していた。「優ちゃん。私の親友だったんだ。でも優ちゃん途中で引っ越しちゃって。最初は連絡も頻繁にとっていたんだけれど途中で途切れちゃって。」詩は嗚咽を交えて話し始めた。「優ちゃんね、連絡が途切れる数日前ある人の話をしたんだ。その人はね過去に親友を亡くしてて、次はいじめにあって。それでも必死に生きている人でね。でも、生きる希望を無くしている人で、助けてあげたいと思える人だったって。でも優ちゃんは自分だけじゃその人を助けられそうにないからって私に託したんだ。詩ならこの子を託せるって言って名前とか特徴を教えてくれたんだ。その人の中学校も知ってて私と同じ学校だった。でも探しても見つからなくて、そしたら進路相談の時期に一真くんを見つけた。盗み聞きしたわけじゃないけど、一真くんの進路先を知って私には少し高いとこだったけど、同じところに行こうと思ったんだ。だから私は一真くんをもともとから知ってたの。でも話しかけなかった。一真くんが本当に優が言ってた一真くんか、わからなかったから。」そう詩はいった。詩は優の親友で僕の過去も何もかもをしっていた。僕はその話を理解した瞬間、ごめんと言って走ってその場を去っていった。
第二章 君との会話
終わり