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8話 黒猫の忠告

 


 どれくらい経っただろうか?

 携帯を取り出して確認すると十五時。あと一時間くらいで切りあげれる。

 今日の戦果は部屋に入り込んでいた全身真っ黒な蛇が、ネズミを捕食しているところを見れたことだろうか?

 小学生の探検なら二重まるをもらえるところだが、これは怪異調査である。

 ……終わりまで何もないことを祈るばかりだ。


「そういや久遠の能力って何なの?」


 ミラが僕の前に立ち。興味津々といった様子で聞く。

 彼女の疑問は当然だろう。戦闘になる可能性がある依頼に、新人をわざわざ連れてきたのだ。

 ……まさかただの足手纏いを連れてきているとは思うまい。


「まだどんな能力かは分からないって言ったでしょう? ……そういえばあの時すでにできあがってたわね。なら覚えてるわけないか」


「そりゃダメだよ。シラフの時に言ってもらわないと」


 ミラがカラカラと笑いながら告げるとハルが頭を抱える。

 言われた本人も開き直っているため、改善されることはないんだろう。


「ミラさんの能力は銃を創り出す能力ですか?」


「あたし? そうねえ、大体そん──」


 会話が止まった。

 不思議に思いミラを見ると背筋が凍った。


「……固まってる」


 体は踏み出す形で止まっていた。

 横を見ればハルも一緒に止まっている。

 ……これはドッキリなのか?

 ハルの肩に手を伸ばすと──


「やめておけ。そっちの娘ならまだしもそいつには触るな。せっかく時を止めたんじゃから」


 声がした方に目を向けると、あの黒猫がいた。


「……これ、お前がやったのか?」


「そうじゃ、一つ言っておきたいことがあっての」


 言っておきたいこと? それよりこれは元に戻るんだろうか?


「選択する権利はお前にある。お前の意思で決めろ」


「……それって、どういう──」


「なところかな。いちいち弾を入れる必要はないから便利なんだけど」


 何を言っているのか分からなかったため黒猫に聞き返そうとするが、ミラさんが話し始めたことによりそちらに反応してしまった。

 視線を下に戻しがそこには黒猫はおらず、首をかしげるばかり……。


「え?」


「え? ってあんたが聞いてきたんでしょうが」


 能力について質問してたな……。

 失礼な返答になってしまったとミラさんに謝罪する。

 意味が分からなくて頭がパンクしそうだ。

 これを二人に話すべきか……。


「っとすいません。ちょっと疲れたのかもしれないです」


「大丈夫? あんた少し顔色悪いよ?」


 僕の動揺を察してミラさんが心配そうに覗き込んでくる。

  その間、ハルはキョロキョロと辺りを見回していた。

 

「……気のせいか。久遠くん、無理そうなら帰る? 慣れてないことして疲れたでしょ?」


「いや、大丈夫です。心配かけてごめんなさい」


「敬語禁止! まあ大丈夫なら良いけど、あんまり無理しないでね?」


 制限時間、残り三十分を切ったところだった。

 大きな広場で帰りのご飯を話し合っていた時、それは起きる。


 少し離れた場所、別棟の方から大きな爆発音のようなものが聞こえてきた。

 さっきの能力者の仕業だろうか? ストレス発散に暴れているとか?

 胸の内に込み上げる不安が、都合のいい幻想を作り上げる。


「長くない? 久遠を外に逃しとこう」


「駄目よ。あの馬鹿が結界を張ってるから。仕留めるためにここまでするなんて……これは、注意案件ね」


 ハルが言い終わると同時、彼女の手が伸びてきて僕の体を引っ張る。

 体勢を崩し、ハルに抱きつくように倒れ込むと、僕がいた場所に何かが着弾した。


「……情熱的なお誘いするのは良いけど後にしとけ」


「――事故です! ごめんなさい」


 ミラのからかいに、急いで柔らかい感触から退避する。後ろに向きに後退りをしようとしたところ、何かに躓いて転んでしまった。


「なんだ……って梅田さん?」


 顔が腫れあがっていたので、最初誰かわからなかった。

 意識が朦朧としているのかうわごとのように、殺すと呟いている。


 仮にも能力者企業のエースの立場にいる彼が、こんなにぼろぼろにしてしまう相手。

 頭の中で膨れ上がっていく妄想が、おどろおどろしい化け物を創り上げる。

 

 ハルの後ろに隠れるようにして待機していると、前方からカタカタと物音が聞こえて顔を出す。

 別棟の方から一人の女性がこちらに歩いてきている。

 女は白い和服を着て、金のかんざしを二本つけている。

 物音の正体は女が履いている下駄の足音のようだ。


 日本人形のような綺麗な髪型で、紫紺の瞳をしている薄幸そうな女は足を止めることなくこちらに向かってくる。

 ……もしかしてこの女は、男性の元カノなのかもしれない。

 痴情のもつれならば第三者が割って入ることは野暮だと言えるであろう。

 希望とも言える僕の推測をミラさんが否定する。

 

「……参ったね、土地神クラスかな? ほとんど見えないや」


 言葉とは裏腹に、ミラさんは一人前に出て銃を二丁取り出した。


「手伝いはいる?」


「……相手次第だけど、危なそうだったらよろしく」


 まさか、一人で戦うつもりか?

 僕のせいでこうなっているのであれば、謝っても謝りきれない。

 しかも土地神なんて物騒なワードも聞こえてくるし……。


 和服を着た女は少し離れた位置で足を止めると、こちらを凝視している。

 何だ? 確かに僕がこの中で一番弱いけど、弱い者いじめはカッコ悪いよ……。

 ハルの背中に逃げるように顔を戻し、自分でも情けなくなるほどに無様を晒した僕に、ハルが「大丈夫よ」と声をかける。


「あんた、どこかの土地神なの? 何で降りて来たかわかんないけど、来た場所に帰るか、調伏師のところで平和に過ごすか決めて? このままあんたが街に出ると、退魔士の連中に襲われ続けるよ!」


『残念ですが、人間の下につくことも、帰ることもありません。私は私の目的を果たします』


 ……交渉決裂か。見た目は人間みたいなんだから隠れて暮らせそうだけど。


「……動きがない? 悩んでんのかな」


「あの人、断ってますよ?」


 ミラが的外れなことを言っていたので訂正してあげる。

 するとどういうわけか、三人の視線がこちらに集まった。

 

「え? 何か間違ったこと言った?」

 

「久遠、あなた、声が聞き取れるの?」


 何を言ってるんだろう? そんなに聞き取れないほど小さい声ではなかったような……。

 その疑問に答えるようにハルはミラに尋ねる。


「ミラはあれ、何が見える?」


「大きな影。形は結構長いわね」


「私は、巨大な大蛇よ。久遠には違って見えてそうだけど……」


 怖がってないから、とハルに男の子としてあるまじき評価をされる。

 話の流れから何となくわかった。

 三人で見え方が違っているらしい。


「どっちが正解?」


「多分、あなたね。私は声を聞き取ることはできないもの」


 ハルでも聞き取れないのか……。

 だったらなぜ僕が聞き取れるんだ?

 これが僕の能力なのであれば、戦う術を持たないということである。

 

 それが真実であれば大分ショックだが、今の状況で考えるとそう悪いことではない。


『そこの小僧、名前は?』


「空木久遠です」


「ちょっと待て! 久遠、お前土地神クラスに名前差し出すってどんな神経してんだ!」


 普通に返答してしまった。

 名前教えるのって駄目だったのか……。


「ざ、残念、さっきのは嘘でした……」


「もうおせえよ!」


 ミラの言葉通り、和服の女に動きがあった。

 和服の女の手元に金色に光る玉が現れる。


 ……何をする気だ?

 女性はそれを掴んで、割れ……ない?

 力を込めているようだが玉は欠けることなく握られている。


「おい! なんか圧力強くなったぞ! 何してる?」


「久遠には何やってるか見えるんでしょう? 教えてくれる?」


「壊れなかったけど、金玉みたいなの握りつぶそうとしてました」


 何か変な勘違いをしているのか、顔を赤くしたミラが黙り込む。

 ハルは鋭い目で、和服の女性を見ていた。


  和服の女性はじっとこちらを見つめると。


『やっと見つけた』


 和服の女性が聞き取れないくらい小さな声で、何かを呟いた。

 



 


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