表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/118

6話 ホワイト企業?

 


 約束の土曜日がやってきた。

 父さんにはハルに連絡した日に、アルバイトを始めると伝えてある。

 理由は恭弥達に伝えたのと同じだ。


 あの日相当追い詰められた顔をしていたのか『そんなことなら早く言いなさい』と逆に怒られた。それに、『子供が親の家計の心配をするな』とも……。


 僕の家は裕福と言えないまでも、決して貧乏ではない。

 後で失礼なことを言ったな、と後悔したが本当の理由を言うわけにはいかなかった。

 それに母さんのこともあるから、神隠しに関わるなんて言うと、許可をもらえなくなるかもしれない……。



 朝ごはんを食べ終え家の外で待っていると、家の前に黒のSUVが到着した。

 父が乗っている白の軽自動車の横に駐車すると、中からハルが動きやすいGパンと長袖のシャツ一枚といったシンプルな服装で現れる。


「おはよう、久遠。覚悟は出来てる?」


「おはよう、ハルさん。覚悟は今の言葉で揺れたところ」


「それは大変ね」


 朝の挨拶を交わし、すぐに向かうのかと思いきや、父さんに挨拶してから行くらしい。

 ハルがチャイムを鳴らすと、中から小走りで走る音が聞こえてくる。


 扉が開くと父さんはハルと僕を交互に見た。

 状況が理解できていないのか、しばらくそれを繰り返すと少し下がり……ゆっくりと扉を閉める。


 バタバタと足音が遠ざかっていき、僕とハル、二人の顔が見合わせる。

 ハルは理解できていないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。


「……ええっと、とりあえず挨拶だけして出て行こう」


 肩を落としながらハルに伝える。

 僕の予想がどうか外れてくれ、と祈りながら。


 嫌な予感しかしないが、諦めるしかない。

 家に入り、母さんの仏壇に向かうと、父さんは仏壇に置いてある写真立てを持ちながら、話しかけていた。

 ……やっぱり。何でこういう時だけ当たるんだろう。


「母さん、息子が女の子を連れてきたよ。どうしよう? お赤飯を用意しないと。でも僕、お赤飯あんまり好きじゃないんだよね……」

 

「父さん! この人はアルバイト先の代表の方。変な勘繰りはしないで、恥ずかしいから」


 僕の声に反応して父さんが勢いよく振り返る。

 

「えっと……息子が欲しければ、この私――」


 しょうがないので叩いて止めた。



「…………なんだ分かった」


「分かったよ」


 僕の説明を聞くと、すごい驚いていた。

 美人に騙されてるじゃないかと心配されたが、何度も繰り返し伝えると信じてくれた。


「初めまして、ハルと申します。この度は息子さんを預かるに…………」


 挨拶を終え、車に乗り込む。


 運転席に背中を預けたハルは、難しそうな顔をしている。

 言いたいことは何となく分かる……。


「……写真のこと考えてる?」


 僕の言葉にを聞くとハルも同じことを考えていたのか、肩をビクッと震わせる。

 父さんが語りかけていた写真立て。

 ……その中には何も入っていなかった。



「僕の母親は物心つく前に居なくなったんだけど……その時に、写真やらパソコンのデータやら全部無くなったの。父さんが捨てたのか、母が出ていく前に処分したのかは分からないけど……」


 怖くて理由は聞けていない。

 もし母親が処分していったのなら、僕を捨てたことになる気がして……。


「……そう、なの」


「だからあんまり気にしないで、知らない人が見たら少し怖いよね」


  車を走らせる。ハルも切りかえたように明るく振る舞っていた。

 

「聞きたいことがあるんだけど……」


「何かな?」


「白船って政府直属の企業?」


  僕の質問を聞くとハルはケラケラと笑い出した。


「噂を聞いたんでしょう?  違うわよ。ちなみにどんなことを聞いたの?」


「能力者のバッジが国の基準で評価されてるって……」


「それは本当ね」


 やっぱり、政府の天下り企業なのだろうか?


「神隠し救助に急に首を突っ込むことになっても、無能に指示されると面倒くさいでしょう? だから政府基準でやってもらってるの」


「首を突っ込むってそんなことあるの? 依頼が回ってきて初めて仕事に出るものかと……」


 ハルは少し言葉に詰まる。


「解決できる依頼は、あなたの言っている通りだわ。私が行っているのは……救助するのを諦めた案件よ」


 ……それは今まで聞いたことが無かった。

 神隠し犠牲者の死亡が確認されたとニュースで流れていたのは知っていたけど、救助自体を断念したなんて一度もなかったと思う。


 ハルはそれ以上説明してはくれなかった。

 二度目となる喫茶店に到着すると、サングラスの店長に一番奥に案内される。


「まずは給料面を説明するわね。見習い期間中は時給二千円。その期間に戦闘することがあれば、レベルにもよるけど、戦闘ごとにボーナスがでるわ」


 ……多くないか? 戦闘なしで時給二千円。

 何か怖くなってきたんだけど……。

 高校生にそんなにあげていいものなのか?


「不思議そうな顔してるわね。これは当然よ、貴重な能力者を会社に拘束するんだから」


 あなたの能力次第では、ここから更に上がることもある、と怖いことを言ってくる。

 大丈夫だよね? 反社会勢力とかではないよね?


 色々話を聞いていくが、給与面での不満は全くない。

 てっきり、神隠しがない時はお金を貰えないものだと思っていたけど、時給の二千円の他に、戦闘訓練で追加の報酬が出るらしいので、本当に破格な待遇だと思う。


 自分から苦しい思いをして強くなるか、私生活を謳歌して、ある日突然絶望するか……。


 どうせ苦しむなら僕は前者を選ぶ。

 渡された書類に色々と書きこんでいると、店長がお盆を持ってやってきた。


「坊主、疲れたろう。たんと食え」


 机の上にご飯が置かれる。

 白ごはんとサラダ。スープとハンバーグ。ハンバーグは鉄皿の上でぐつぐつと熱されていた。

  ……あれ?


「ハルさんのご飯は?」


「私はいいの。気にせず食べなさい」


 ハルの言葉に甘えて、用意されたハンバーグを一口食べる。

 ……美味い。手作りでこねられたであろうそれは、レストランで食べるものよりも桁違いに美味かった。

 その割にボリュームが凄く、満足感がある。

 これは高いぞとこっそり値段を確認すると……。


「――五十円? これが?」


 前に来た時はアイスコーヒーだけで四百円払っていた。

 これは何か間違ってるんじゃないか?


「ああ、それ? この店って白船が経営しているの。だから社員割引が利くのよ」


「僕、アルバイトだよ?」


「アルバイトも対象内よ」


 それはすごい。見たらコーヒーとか飲み物類は無料だった。


 一番高いステーキでも百円程度。


 白船って結構すごいのでは?

 医療費、住居代、会社負担。

 大企業でもこんな福利厚生はない気がする。

 契約書に社長への敬語禁止と書かれていた時は、大丈夫かなこの会社? と不安になったが、それ以外は夢のような優良企業だった。




 ご飯を食べ終え、再び車に乗り込む。


「今日は、これでおしまい?」


「そうね、従業員のみんなに挨拶をって思ったんだけど、仕事に出ているのよね。これで終わりだとつまらないし……」


 ハルは残念そうに呟くと、何かを考え込んでいるようだった。

 ……嫌な予感がする。


「働く前に職場見学でもしましょうか? 大丈夫よ、何かあれば私が守ってあげるから」


 ハルが心変わりすることを願ってる。

 だが彼女は自身の提案を撤回することはないようで、僕の手を引いて車に乗せる。


 哀れな新人バイトを乗せた車は、目的地まで真っ直ぐに走り出した


 


能力者の平均値をとれば国に所属する能力者>民間の能力者になっています。

その差は大きな開きがあり、両者が神隠し救助で一緒になった場合、国に所属する能力者の指揮下に入ることが多いです。


民間の能力者の中には例外的に強力な力を持っている人が存在しており、ハルのいばら姫のような通り名で呼ばれています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ