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3話 語られる真実

 

 ……どうしてこうなったんだろう。

 僕は美しい内装で装飾された部屋を見回し、ため息をついた。

 正面に座る白衣の女性は、僕の視線に気がつくとにこやかに笑いかける。

 美女からの笑顔なんて思春期の学生から考えるとご褒美でしかなさそうなものだが、これっぽっちも嬉しくなかった。

 足音が聞こえ左を見ると、室内なのにサングラスをつけた熊のような大男が机にお盆を置き、グラスを配る。


「はい、アイスコーヒーお待ち。お嬢には水ね」


 あの後『二人きりで話がしたい』と頼んでくるお化け女に、理由をつけて断ろうと考えを巡らせていた。

 だが現実は残酷で、放課後のこの短時間に周囲にいる歩兵達を仲間につけていたらしく、てめえが断んのかよ、という熱い視線をもらい渋々、頭を縦に振るしかなかった。

 苦し紛れに和馬も道連れにしようと手を伸ばすも、そこには『お父さんは旅に出ます。探さないでください』と書いた紙を持たされた伏兵Bが設置されており、謀ったな! という嘆きの言葉は宙に舞って消えていった。


 そうして連れられた喫茶店は看板もなく、明らかに堅気ではなさそうなマスターに出迎えられ、四面楚歌の犠牲者が一人。

 彼女の目的が新聞の勧誘程度なら、喜んで契約をするくらいに僕の心は弱っていた。

 

 女は大量の錠剤を飲み終え、話し始める。

 

「…………だ、聞いてないでしょ?」


「……指の一本くらいは、いや、待てよ、けじめはまだ早いか。金、はないから……僕が差し出せるのなんて、筋肉バカと……」


 ここから逃げ出すための犠牲を算出していると、突然手が伸びてきて頬を片手で挟むように掴まれてぐりぐりされる。


「私が喋ってた内容を復唱してみようか。さん、はい」


「聞いて無かったです。しゅみません」


 争いは先に謝ることで回避できることがある。

 僕の謝罪に先方はため息をつきながら……。


「いや、だから三日前、私と会ったかって聞いてるの」


 続く質問。やっぱりあれは気のせいではなかったか。

 これで分かった。……この女の正体が。

 

幽体(ゆうたい)りだ……嘘です。何でもないです。ごめんなさい」


 射殺すような視線で震え上がる。

 さっきので分かったと思うけど、すぐ謝れる人間なんだ、僕。

  ……だからそんな目で見ないでください。


「三日前と言うと場所は──」


「屋根の上」


 ですよね〜。分かってました。

 ……やっぱり本人だったか。

 それにしても何であんなところに登っているのか……いや、それよりも、何で半透明なのか聞いてもいいものなんだろうか?


「……その顔だとやっぱり見えてたか。まさかとは思ったけどわざわざ探しにきて良かった」


 女の言葉に納得する。そりゃバレるよな。目が合った後ダッシュで逃げて行ったんだから……。

 女は少し考え込むと、頷いてみせる。


「そんな君にお願いがあります。私、白船って会社を経営してるんだけど雇われてみない?」


 もちろんアルバイトで、と聞いてきた。

 小遣い稼ぎに親を手伝うくらいだから、気になるところではあるけど白船……どこかで聞いた名だ。


「まさかニュースに出てた白船? 確か神隠しから救助したって……」


「あら、知ってたの? じゃあ話が早いわ。そう、その白船。メインは神隠しだけど、実情は何でも屋ね」


 僕の言葉に女は嬉しそうな顔をして答えた。

 何でも屋って言われても……。


「僕にそんな器用なスキルはありませんよ?」


 誰かと間違っているんだろうか?

 もしかしてストレス発散の相手に僕を勧誘しているとか?

 サンドバッグが必要なら僕の親友に一人適任がいる。鍛え抜かれたあの体……こんな美女に殴られるのであれば、あいつも本望だろう。

 だが彼女の目的は違った。


「大丈夫! あなたにお願いしたいのは神隠しの方だから」


 女は冗談を言っているような感じではない。

  ……は? 神隠し? どうやらやばい人に目をつけられたのかもしれない。

 心なしかこちらを見るマスターの目が殺気を帯びている気がする。

 急いで逃げ出すために出口との距離をはかっていると……。


「このままだと、あなたのお父さん大変なことになるわよ?」


 女の言葉を聞いて、反射的に手が胸元に伸びた。女は抵抗することなく引っ張られ、マスターは欠伸をしながらグラスを拭いている。


「……脅し?」


「いや、忠告。このままだとあなたの犠牲になるわよって話」


 静かに聞く僕となんでもないように話す女。

 一言謝罪して手を離す。……どういうことだ?

 相手の真剣な瞳に冗談だと流せない怖さがある。

 すると女の様子に変化が……。その体が半透明になっていき、二本の指をゆっくりと前に突き出した。


「──危ない!」


 僕は両目を守るため、背もたれに体を押し付けて回避する。

 その反応を見て、女は嬉しそうに笑った。


「やっぱりそうよね。あなた、今まで神隠しに巻き込まれたことある? その様子なら、なさそうなんだけど……」


「神隠しなんてあったこともないです。それに救助されたらその時の記憶なくなっちゃうんですよね?」


 女の質問に嘘偽りなく答える。

 それが世間の共通認識であり、学校でも教えられる内容だ。


「一般人はそうね。でも適応者ならなくならないわ」


「……適応者?」


 女の言う適応者といった言葉は聞いた覚えがない。 

 能力者と何か違うんだろうか?

 

「世の中には神隠しを経由せずに能力を覚醒させるものもいるの」


 今のあなたのようにね、と女は長い髪を払い頬杖をつきながら言ってくる。

 

「そんなの聞いたことないんだけど……」


「理由はいくつかあるわ。神隠しにあって能力を手にした者の中には、能力者を嫌うものもいる。命の危険もなく力を手にした腰抜け野郎だと……。実際、それで過去に殺人事件にまでに発展した例もある。でも、一番の理由は……神隠しに巻き込まれやすくなること」


 

 女のその言葉は僕の肝を冷えさすには十分で……。


  「……怖くなった?」


 女はこちらを見上げるように聞いてくる。


 僕はごくりと唾を飲み込む。

 そんなの怖いに決まっている。

 でも聞いておかなくてはいけないことが……。


「今のままじゃ父さんを神隠しに巻き込むってこと?」


「正解!」


 僕に選択肢はなかった。

一般人の神隠しの認識は混乱を避けるため一部、情報を秘匿されております。

細かい内容はいくつかあるのですが分かりやすいので、能力者によって救助が確認されたらニュースになるなど。

これは能力に憧れた一般市民が神隠しの現場に殺到して、救助担当の能力者に迷惑をかけてしまうことが多発したことが原因です。


たとえ被害者の家族であっても結果がわかるまで情報を晒すような行為は禁止されており、場合によっては罪に問われることがあります。


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