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百科涼蘭

ランコ推参! ~キャンプ場での一幕~

最近のキャンプ場では、日帰りでの利用も人気があるようです。

デイキャンプと言いまして、キャンプ場で自炊して食べて遊んで、その日のうちに帰ります。

テントも張りますが、休憩場や荷物置き場として使います。


このお話はXI様主催の『男前ねえさん企画』の参加作品です。


「ミキオくん。今回は無洗米だから、軽く洗うだけでいいからね。洗ったら、そのお米は一回ザルに上げておいて」


「わかったよ。ランコちゃん。オレにまかせといて」


 ミキオくんがボウルに入れたお米をシャカシャカと洗っている。

それを見ながら、ランコさんはあたしの方を向いた。


「ソヨカちゃんは、水をその容器に入れておいてね。線にぴったり合わせるんだよ」


「うん、わかったよ。ランコさん。この線だよね」


 あたし達は町内会のみんなとピクニック……じゃなかった、デイキャンプに来ている。

テントは張ったけど、お泊りはしない日帰りキャンプだ。

今はこのキャンプ場の炊事場で、お昼ごはんを作っているんだ。


 あたしとミキオくんは小学生で同じクラス。

ランコさんは大学生って言ってた。

あたし達三人はご飯を炊く係だ。

飯盒炊爨(はんごうすいさん)っていうらしい。


 ミキオくんが洗ったお米と、あたしが汲んだお水を飯盒に入れていく。


「ランコちゃん。無洗米だと()ぐのに時間をかけなくてもいいから、キャンプの時は楽だよね」


「そうだね。ミキオくん。それに無洗米は研ぎ汁を出さないっていう利点もあるんだ。このキャンプ場では下水処理されるけど、山でキャンプをするときは、川の水を汚さない方がいいからね」


 飯盒はぜんぶで4つあって、全部にお米とお水が用意できた。


「飯盒って、なんか変な形をしているよね」


 ミキオくんが言った。あたしもそう思う。


挿絵(By みてみん)


「そうだね。上から見るとソラマメみたい。なんでこんな形しているんだろう?」


 あたしたちの言葉を聞いて、ランコさんが少し笑った。


「いくつか理由があるみたいだよ。中まで熱を通しやすいとか、ベルトにぶら下げて運ぶときに揺れないとか、たくさんの飯盒を棒でぶら下げて運ぶときに揺れないとかね。一番大きな理由は、この形がごはんがおいしく炊けるからだよ」


「うそだぁ。ランコちゃん。オレんちの炊飯器はこんな形してないよ」


 ミキオ君は疑わしそうに言った。


「ミキオくん。電気の炊飯器じゃなくて、焚火で炊くときの話だよ。飯盒を火にかけると、温まった水は上の方にあがるんだ」


「あたし知ってる。おばあちゃんちの古いお風呂は、沸いた後は上の方のお湯だけ熱くなって、下の方がぬるいんだって」


「ははは……。よく知ってるね、ソヨカちゃん。昔のお風呂って、最初に入る人がお湯を混ぜないといけないみたいだね。()()()っていうらしい」


「でも、オレんちの風呂はそんなことしなくてもいいぜ」


 あたしの家のお風呂もだ。どうなっているんだろう。

ランコさんがその疑問に応えてくれた。


「最近の家のお風呂は、熱いお湯が浴槽の下の方に出るからね。沸き上がったときにうまく混ざるように作られているんだ。で、飯盒に話を戻すけど、ふたりとも水の対流(たいりゅう)って習ったかな?」


「なんだっけ。もしかして海の話? 親潮とか黒潮とか」


「ミキオくん。それは海流。飯盒の水を温め続けると、熱くなったお湯が上にあがって、上の方の水が下におりる。飯盒の中でお湯がぐるぐる回るんだ。これを対流っていうの。飯盒がこの形だと、炊いている間にお米がうまいぐあいにかき回される。それでおいしいご飯になるんだ」


「ふーん。わかったような、わかんないような……」


 ミキオくんは首をひねっている。

大丈夫。あたしもよくわかんなかったから。


「家で使う炊飯器も、(かま)の中でちゃんと対流が起きるようになっているんだ。正しく炊ける時間でスイッチが切れるようになっているから便利だね。あ、そうだ。二人とも、軍手をはめてこれを持ってみて」


 あたし達は(まき)で使う細い棒きれを渡された。

なんだろう?


「じゃあ。その棒で飯盒のフタをおさえつけてみて。ぐっと」


「「??」」


 言われるまま、飯盒のフタを棒でおさえてみた。

なにも起きない。


「ランコちゃん。これって何かのおまじない?」


 ミキオくんが棒で飯盒のフタをぽくぽくとたたいた。

なんかお坊さんみたい。


「今のはただの練習。後でごはんを炊くときにこれをやるからね。火傷(やけど)しないように注意してね」


 それからあたし達は、かまどの方に飯盒を持っていった。

4つの飯盒の向きが互い違いになるように置いて、長い棒を通す。

ランコさんとミキオくんが協力して、棒をかまどにかけた。


 飯盒の下に(まき)を積み上げて、その下に新聞紙を巻いたものを差し込んだ。

ミキオくんが火をつけるのをやりたがったので、彼に任せた。

マッチで新聞紙に火をつけている。あたし、マッチって使ったことはないんだ。

やりたかったなぁ。


「飯盒での炊き方は、人によって違うんだ。最初は小さい火で、沸騰してから火を大きくする人も多いよ。でも、あたしのやり方は最初から強火。飯盒全体が炎に包まれるぐらいでやるよ」


「うわぁ。ランコちゃん、豪快(ごうかい)だね。オレもその方がいいや」


「ミキオくん。薪をどんどんくべていってよ」


「わかった。まかせてっ」


「ソヨカちゃんはウチワであおいで火を強くして」


「うん」


 ウチワでパタパタすると、かまどの火が大きくなった。

あたしたちはしばらく、燃えるかまどを見ていた。


「そろそろいいかな。じゃあ、二人とも棒を持って」


「「??」」


 またさっきの細い棒を渡された。

ランコちゃんは自分の棒で、かまどの飯盒のフタをおさえた。

一度離して、隣の飯盒をおさえる。順番に4つの飯盒のフタをおさえていった。


「ふたりともやってごらん。どれでもいいから、飯盒のフタをおさえつけて」


 あたしとミキオくんは、言われたとおり棒の先を飯盒のフタに置き、ぐっとおさえた。

あれれ?


「え? なにこれー」


 ミキオくんも驚いた声を出している。

ビリビリとした振動が伝わってきたんだ。


「ミキオくん。ソヨカちゃん。飯盒の中でお湯が対流して、お米が飯盒にぶつかっているんだよ。今の感覚を覚えたら、棒を離していいよ」


 あたし達は飯盒から棒を離した。


「今回は4つとも振動してたからOKだよ。もし振動していない飯盒があったら、薪の位置をかえたり、飯盒の並び順をかえて調整するんだよ」

 

「あ、そうか。中がどうなっているかわからないから、棒を使ったんだね」


「そうだよ。ミキオくん。電気炊飯器だと全自動だけど、焚火の場合は火の強さも当たり方も違うからね。こういう技で確認するんだよ」


 しばらく見ていると、飯盒のフタのところでプツプツと泡がでてきた。

じゅわっと、液が垂れてきた飯盒もある。


「この泡が出なくなった頃にごはんが炊き上がるよ。だけどね。フタをおさえた方が確実にわかる。振動がなくなったときに炊き上がるんだ」


「ランコさん。炊けたらビリビリがなくなるの?」


「そうだよ。ソヨカちゃん。お湯が無くなって、お米が全部ご飯になったってことだよ。それ以上、火にかけたままだと焦げるからね」


 それからしばらくして、あたしはプツプツの泡が少なくなった飯盒を棒でおさえてみた。

ビリビリしないやつをミキオくんが棒から下ろした。

ミキオくんはランコさんに言われて、おろした飯盒をひっくり返している。


「炊き上がった飯盒は、ひっくり返して5分ほど置いておこう。中の蒸気で()らされて、ごはんがもっとおいしくなるんだ」


 やがて4つの飯盒が全部、蒸らしまで終わった。

これで完成かな?


「ミキオくん。しゃもじで飯盒を軽くかき混ぜてみて、それで余分な蒸気を飛ばすんだ。飯盒が熱いから気を付けてね」


「あ、あたしもやりたい」


 ミキオくんとあたしで2こづつ飯盒をまぜた。

ツヤツヤのおいしそうなごはんができてた。いい匂いだ。


「4つとも完成か。どれか1つは焦がすと思ってたけど、予想以上に完璧だ。ふたりともよくがんばったね」


「すげえ。なんか、炊飯器のごはんよりおいしい」


「ちょっと。ミキオくん。自分だけ味見してズルい。あたしも味見。……うん、おいしい」


「むしろ作りすぎたかな? あっちのカレーも作り過ぎたって言ってたし」


 町内会の他の人たちが、別のかまどで大鍋のカレーを作ってた。

あの量、みんなで食べきれるのかな。


 その時、少し離れたかまどで悲鳴があがった。

町内会とは別のグループで、家族連れで来ている人たちだ。

どうやら、ご飯を炊くのに失敗したみたいだ。

飯盒の中が真っ黒になっているのが見えた。


「ありゃ、ひでえな。あの家族。さっきミソ汁も失敗してたぞ。お昼ごはん、どうするんだろう?」


 ミキオくんがあきれたような声で言った。

まぁ、あたし達だってランコさんがいなかったら作れなかった。


「ちょっと待ってて。町内会長さんと話してくるよ。お裾分(すそわ)けした方がよさそうだ」


「「いってらっしゃーい」」


 あたしをミキオくんは、味見を続けながらランコさんを見送った。


挿絵(By みてみん)


ランコさんの炊き方はちょっとリスキーなので、マネをしないでください。

プロの指導者がついていない場合は、沸騰するまで小さい火で炊きましょう。

プツプツの泡がでてきたら火を大きくして、泡がでなくなったら火からおろしましょう。

多少、オコゲができた方が雰囲気があってよいものです。


登場人物の名前は適当につけています。

ドレミファソラシドの、ミ・ソ・ラで植物の名前っぽくなりました。


 ミキオ(樹生) ソヨカ(颯花) ランコ(蘭子)


挿絵(By みてみん)

ウバ クロネ様から蘭子さんのイラストを頂きました。ありがとうございます。


後付けですが、蘭子さんの名字は霧宮になりました。

(キャンプを意味する露営に似た字)


2024年3月26日追記:

挿絵(By みてみん)

貴様 二太郎様から蘭子さんのイラストを頂きました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
青空れんじです! 私自身もキャンプで飯盒を使ってお米を炊いたりしてて、とても親近感がわきながら読ませていただきました! 飯盒の形のことや、対流しているのを確認するのに棒を使うなど、とっても「へー!そう…
[一言]  カレーライスはキャンプの定番ですね。  つくって、食べたくなりました(笑)  苗字のつけかたが、素敵!
[良い点] 「男前ねえさん企画」から拝読させていただきました。 面倒見が良くて、しっかりしていて、優しくて。 まさに男前。 こんなお姉さんがいれば、子どもたちはキャンプ好きになりますよね。
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