今も何処かで雨が降っている
蝉が鳴いている
必死で愛を叫んでいるのだと語る人
短い生を謳歌しているのだと語る人
ときに美しく語られる蝉達の振る舞いは
何を思ってのものなのかを私は知らない
何かを思うことすらあるのかも知る由はない
大音声が響き渡ると
ときに喧しいと怒り出す人もいれば
しみじみと夏だなぁと零す人もいて
十人十色では足りない位の人々が溢れているから
すれ違わざるを得ないときはどうしてもある
互いに理解することも可能なのか怪しい
喧騒の沁みついた街を行く
昼間に響き渡っていた蝉の音が遠く薄れ
一層涼し気に響くのは蜩の声
この日の夕空は重く沈んでいくようで
黒々とした雲がずしりと覆い被さり
赤らんだ陽光が漏れ出していた
美しいと思う心がここにある
暗雲の渦中を過ごす人を他所に
土砂降りに飲まれそうになる人を他所に
そこから遠く離れた今ここで
目の前に広がる光景に耽ることは
きっと薄情なことなのだろう
今も何処かで雨が降っている