七夕 ~七夜の恋物語~
『第一夜』
夜の公園で君に出会った
ジャングルジムのてっぺんで
君は泣いていた
僕はコンビニ帰りで
そんな君に気付いた
気付いただけだった……
『第二夜』
僕はその日は仕事帰りだった
夜の公園
さすがに昨日の女性は居ないだろうと思われた
でも
ジャングルジムのてっぺん
君は居た
また泣いていた
僕は
さすがに声を掛けようか迷った
でも
そのまま
家に帰ってしまった
寝る前の脳裏に
泣く
女性の姿が消えなかった
『第三夜』
夜
雨が静かに降っていた
僕は
夜の公園が気になって仕方が無かった
傘を差して
夜の公園に向かった
ジャングルジムのてっぺんに
涙と雨に濡れる君が居た
僕は
静かに声を掛けた
「寂しいの?」と
君は
「星に願ってるの……」
と
ポツリと呟いただけで
涙を一筋
雨と一緒に流していた
滑るジャングルジムに登って
僕は君に傘を差した
『第四夜』
夜の公園に行くのが日課になりつつあった
そんな僕
君は今夜も居た
今日は泣いてなかった
ジャングルジムのてっぺんで
空を見上げて
手を伸ばしていた君
「何か掴めるの?」
と僕
彼女は
「あの星を掴むのは誰かしら」
と言った
僕は
君と同じ様に
またジャングルジムのてっぺんに登って
君と同じ様に手を星空に伸ばしてみた
「あの星を掴むのは……」
と小さく呟いてみた
星が小さく瞬いていた
『第五夜』
日課というか
もう常習化の
夜の公園に僕は足を向ける
君は
やはりジャングルジムのてっぺんで
また泣いていた
僕はよっこいしょと
君の隣に腰掛けた
君の
泣き顔は何だか静謐な祈りの表情にも似てて
胸がどきりとなる
静かな夜に
星の煌めきの元
泣く君と
空を眺める僕
今夜は星は見えない……
『第六夜』
今日も僕は夜の公園に足を向ける
ジャングルジムのてっぺんで
君は今日は祈るように
手を胸の前で組んでいた
僕は
「良いものを持ってきたんだ」
と君の隣で
星座早見盤を差し出す
君は目を閉じて
僕の差し出した星座早見盤には見向きもしなかった
僕は
ちっとも嫌な気分にはならなかった
君の本質は
何だか解っていた
「これが天の川」
僕は何気なしに説明する
「これがこと座のベガ。これがわし座のアルタイル」
「明日は七夕ね」
君は目を開けて唐突に言う
「待ってるわ」
君の瞳には一番星よりも輝く何かがあった
『第七夜』
七夕当日
僕は焦っていた
公園までの道のりを
走る
走る
君が居なくなりそうで
怖くて
怖くて
「……っ!」
息が上がって夜の公園に着いた
君は
ジャングルジムのてっぺんで
星の灯りを抱いて
待っていてくれた
「地上にも貴方が居てくれる気がして」
「待って」
「私の彦星様」
「待って……!」
「大丈夫、またいつかどこかの世界で巡り合えるから」
「君の名前をまだ聞いてない……」
僕の声が聞こえたのか
「 」
君は美しく微笑んでくれる
天へと星の灯りは還る
辺りには星の残滓が
天使の羽の様に
散って
舞っていた……
我慢できずに、七夕に、どうしても物語を紡ぎたくて紡ぎたくて……。
願いを込めて書きました。
わたしの彦星様は側に居てくれるから、決して寂しくないけれど、こんな世の中の離れている全ての恋人たちに祈ります。
物語自体は、何だか悲しいけれど、希望を持って欲しくて……。
偶には、星空を見上げてください。
そこには、きっと……。