【1-6】
【1-6】通過儀礼?
それはある日の朝から始まった。
登校した明文は下足箱にある自分の上履きに履き替え、一歩踏み出した時、つま先にチクッと痛みを感じた。
上履きを脱ぎ、確認すると靴の裏に一個の画鋲が刺さっていた。
『昨日までは無かったのに…』
一緒に登校した颯介が、上履きを見詰める明文に気づいて声をかけた。
「明文、どうかした…?」
「うん、何でもない…よ」
明文の靴に刺さった画鋲を見た颯介には思い当たる節があった。
『あいつらだな…』
颯介は自分が転校してきた二年前を思い出していた。いわゆる地元出身ではなかったためなのか、この地域は保守的な色合いが強く残り、この当時は転校生を地元に受け入れられるまでに時間がかかった。これまでの永い時間によって形成されてきたコミュニティが、保守的になるのは当然のことと思えた。都心からの人口が流入して、急激にベッドタウン化が進行中のこの時。それは子供達でも避けられない問題として顕著化していた。そんな中でのちょっとした出来事だった。
「それならいいけど、明文、あまり気にするなよ…」
「わかってるよ…」
明文は少し寂しげに見えた。
颯介は明文にそうは云ったものの、このままでは終わらないことを予感した。
その翌日の午後は、体育館で秋に行なわれる[運動会]の開会式のセレモニーが体育館で行われた。噂では市長も閲覧するという。
学校にしてみれば、否応なしの緊張を要求されていた。
明文と颯介の5年生達上級生は、体育館の入口から、一番奥の壇上までの花道を開けるように、横二列で並んで立った。
館内には快適なマーチが放送されている。そのリズムに合わせ、颯介達は手拍子をしていた。
1年生から入場が始まって、2年生、3年生と順番に行進は続いていた。