【1-5】
【1-5】日常の風景
明文の転校から二週間が経った。
今は給食後のまったりとした時間だ。
教室には明文の妹の小紅がいて、クラス委員長の仲谷達女子に囲まれている。
小2はこの日、午後の授業がない為、明文の授業が終わるのを待つためだった。
ここ最近、颯介は明文と小紅と一緒に帰っていた。
たまたま、帰り道が同じだったからだ。
明文と小紅は、颯介の家より少し先に行った所のアパートに住んでいた。
仲谷は小紅の三つ編みにリボンを飾りながら言った、「ねえ、明文。わたしもこんなカワイイ妹が欲しかったの!」
自分の座席で教科書を読んでいた明文は返事をしなかった。
そんなことはお構いなしに、仲谷は続けた、
「わたし一人っ子だから、明文が羨ましいナァ…」
そう言って、小柄な小紅を仲谷は抱きしめた。
「本当にカワイイ!」
小紅は黙って、されるが様に身を預けていた。決していやではないようだ。
仲谷が結んだ紫紺のリボンが、小紅の漆黒の髪の三つ編に映えていた。
明文は黙ったままだ。多分、照れ臭かった
んだと、隣に座る颯介は思った。
授業開始のチャイムがなった。
しばらくして先生が教室に入ってきた。
小紅は誰に言われるでもなく、サッと教室の一番後ろの特別席にちょこんと座った。
これは仲谷の提案によるものだ。
数日前まで授業が終えるのを、小紅は廊下で待っていたのだった。
そのことに最初に気付いたのが仲谷で、女子達と話し合って、小紅が教室の中で待てるように、と、担任に掛け合ったのだ。
話を聞いた明文は「いいよ、そんなことしなくて…」と、乗り気ではなかった。
小紅が可哀想だ、と言う女子達のパワーで押し切った形になった。
担任も、「そうね。おとなしくしているなら」と、条件付きで許可が下りた。
実際、小紅はおとなしかった。二年生にしては小柄な身体で、大きいサイズの椅子に足を浮かせて座り、いつも集中して自分の教科書を読んでいた。
帰校の時も、いつも明文の後ろに付き添う様に黙って歩いていた。たまに明文と颯介が話かけても、返答は蚊のささやく程度の声で、その声に覚えは無かった。
颯介は、小紅の内気な性格では、『友達は出来づらいだろうなぁ』と、思った。