【1-1】
【1-1】陽向台小学校・昼休みの風景
その日は暖かい午後だった。
校庭では、男の子達が、夢中になってサッカーに興じている。
眩しい程の日差しは校庭に降り注ぎ、男の子達は汗を拭おうともせず、必死になってボールを追いかけていた。
二階の教室からそんな光景を、五月女颯介はぼんやりと眺めていた。
開放された窓からは校庭の少年たちの嬌声が聞こえ、教室にはそよ風に乗った木犀の香りが漂っている。
昼の給食が終わり、午後の授業までにはまだ時間があった。
颯介は校庭の先に見える正門を見ながら一週前の事を思い出していた。
その日は朝から冷たい雨だった。
窓際の颯介の席からは校庭と正門がよく見える。授業中に黒板を見ていても自然と視界の隅に入ってしまうのだ。
11時半を少し過ぎた頃、校門の近くに赤い傘が見えた。傘をさす女性のもう片方の手は女の子の手を握っている。多分、一,二年生位だろうか。母親?と思える女性はその子にしきりに話している模様だ。傘の影で女性の顔は見えない。髪を三つ編みにした女の子は何かをぐずっている様だった。女性の後ろには少し離れて、半ズボン姿の男の子がいた。
パーカーで頭を覆い、両手はポケットに入れ、ずぶ濡れのまま佇んでいる。
雨脚は徐々に強まり、遠い空からゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。
雨の中に佇む少年の顔が微かに動き、こちらを見た。
一瞬、颯介と視線が合った。
ドキッとした。
「おーい、五月女、何を見ているんだ~」
外を見る颯介に教壇上の教師が注意をした。その言葉にかぶるように、感光が閃き、至近距離に落雷が落ちた。轟音と地響きに窓ガラスは軋み、教室が揺れた。子供たちは悲鳴を上げ、パニック状態に陥った。
颯介は、とっさに机の上にうつ伏せた。
ゴロゴロとした雷雲は急激に遠のき、雲の合間から射す日の光に周囲の風景は明るく照
らし出されてきた。
教室では興奮した子供達が、落ち着かず口々に何かを口走っている。
颯介はゆっくりと顔を上げて校庭を見た。校庭のほぼ中央に立つ銀杏木から煙が立ち上っていた。
落雷が直撃したのだと知った。
校門に目をやると、先ほどの三人はすでにいかった。