【2-2】紗智の願い事
そんなある日のこと、紗智から颯介に妙な頼みがあった。「ねえ、ねえ?」このフレーズの紗智は今までの経験から要注意だった。
颯介の『今度は何だ』と云った。態度がでたらしい。「、迷惑そうな顔しないでくれない」と、紗智は少しむくれて唇を尖らせた。
「俺、そんな顔してた」と、聞き返し「それで要件は何?」と、続けた。
「颯介が私の彼、っうことにしてほしいの」
「?・?・?」颯介は紗智が言っていることが判断できなかった。「言っている意味が分からない、分かるように解説してくれ」
「実は最近、学内でナンパされることが多くて断わるのが大変なの」と、紗智。
「分かってきた、俺を『彼』にして断る言い訳につかうつもりだろう?」
「まあ、そんなとこね」悪びれる様子もない紗智。
「あのなあ~お前」と言いかけた時。
「ねっ、お願い」と、紗智は颯介に手を合わせた。颯介も学内で「紗智は彼女なの?」「付き合っているの?」の類の、問が増えたことは自覚していた。学内で紗智がいわゆるナンパされている風景を颯介は度々目撃していた。
その時の紗智の困っている様子を思い出した。颯介は紗智がなぜこれほどに人気があるのが不思議だった。それもここ数カ月が何故か、過熱している感があった。颯介はそれほど美人でもない紗智がなぜこんなにもてるのかが不思議だった。同じゼミの山本に聞いてみた、「なに!早乙女さん、知らなかったって?」
「校内の学生新聞に須藤のピンナップがのったこと、季刊誌だから前回春の号…『この子を探せっ!』て、コーナーがあって、それからだよ、今回みたいになったの」
颯介はそんな新聞があることさえ今知ったのだった。あとになって、図書館でファイル
を確認した。なぜか特集で自然体で撮られた笑顔とミニスカート姿の2ポーズがハガキ大であった。写真はモノクロで色は分からないが。ミニは紗智のお気に入り(たぶん)の緑のタータンチエック。これを撮った奴は余程、紗智が好きなのだろう。と、思った。本当に近くに居そうなアイドルのポートレートの様だったのだ。颯介はこれまで紗智をいわゆる
*女*として観ていなかったことに初めて気付いたのだ。今までは単に、紗智を妹の様にしか見ていなかった。要はたいして気にも留めこていなかっただけなのだ。今回の一連のちょっとした騒動から、颯介は紗智を妙に意識しだしていた。ほぼ、毎日大学で紗智と会うのだが、何故か以前と違ってぎこちなくなってしまうのだ。颯介の日課の散歩に紗智はあいかわらずに付いてきた。代わりの彼氏役(颯介自身)は役立っているかと聞いてみた、それなりに効果はあったとの返答だった。それから暫くして、ある商業劇団のオーディションに合格したと聞いた。偽彼氏のおかげでオーディションに集中出来たと感謝された。
颯介はたまたまアルバイトの稼ぎがあった、
柄にもなく何か紗智をお祝いしたくなって本人に直接希望を聞いた。意外な返答であった。
今、渋谷の名画座で上映中の映画が観たいと云った。タイトルを聞いたら颯介は観たことのあるものだった。紗智にこの映画の感想を過去に話したらしく(颯介の記憶にはなかった)どこかでの上映を待っていたと、紗智は云った。その映画は「いちご白書」と云う米映画だった。何年か前にこの映画を題材にした歌が流行ったことがあった。その歌詞の内容が、颯介は紗智とこの映画を観ることと被って思えて、照れ臭かった。実際は最初は颯介は1人で観たのだった。そういえば、少しづつ紗智に話したことを思い出した。映画の内容は余りなく、主演のキム・ダービーのことが主だった。