【2-1】ten years later
明文と小紅が突然に小学校より、転校して
まるで消えてしまってから10年の年月が経った。
この10年の間には様々な変化があった。
颯介達の小学校の周辺は宅地造成工事によって大きく様変わりした。砂利道はすべてアスファルトで舗装され、“霧沼”と呼んでいた湿地帯は埋め立てられ、いまでは建売住宅地帯になった。相変わらず濃い霧は不定期に発生して不思議に思う住民たちの要望で市が気象庁に調査を依頼して行われたが、その原因は特定されなかった。正体不明の『霧』はいまだに年に数回は発生していた。
この地域の変容は凄まじく、元は丘陵地帯で林や空き地があったのだがほとんど宅地造成された。なくなったのは“霧沼”だけではなかった。颯介が明文、小紅と遊んだ神社の公園や、明文が柿を採った大きな塗り壁の農家もなくなってしまった。開発と云う時代の変化を感ぜずにはいられなかった。
周りの環境の劇的変化はあったものの。一番の変化は、颯介自身のことだろう。「成長した、」と云うにはなんだか変だが世間一般で云うところの大学生になっていた。何かを学びたいといったはっきりした意識があって大学に入った訳ではないので講義は退屈だった。
颯介の家の方針(主に母の取決めか)、は“二年次以降の学費は自分で稼ぐ”決まりが有って、そのため、否応なしにアルバイに励む事となった。
同じ大学の一年後輩に須堂紗智と云う女学生がいた。現在は文学部の演劇科に在籍し、舞台女優を目指している。幾つか商業劇団の養成所を受験しているが今のところ受かってはいないようだ。颯介の彼女と云う存在ではない。同級の知り合いに頼まれて所属したサークルがたまたま一緒だった。確固たる活動方針を持たないサークルで、その年の方針はその年の最初の飲み会で決めるのが伝統と云う
軽いノリのサークルだった、定員割れでは大学の自治会の予算が下りないので颯介に声がかかったのだ。紗智もほとんど同じ事情での入会だと後で知った。大学からの帰り道が同方向だったせいかサークルの打ち合わせの後の一緒の帰宅が自然におおくなり、「紗智は彼女?」とか「付き合ってるの?」と云った。類の質問が最近増えていた。颯介には紗智に対する特別な感情はなかった。正直、最近、やけになつかれているようには感じていた。