【1-12】
【1-12】許されざる者たち③
仲谷と小紅は公園でブランコに乗って颯介達を待っていた。
三組のママ友が会話を楽しむ様子で、子供達は好きな遊具で遊んでいる。穏やかな午後の一時だった。
ブランコを降りて仲谷は、
「お兄ちゃん達、遅いね」と云って、小紅を後ろから優しく抱きしめた。
「ああ、日向の匂いがする…」
小紅の髪の匂いを吸ってそう云った。
「小紅ちゃんが、本当の妹なら良かったのに…ホントにカワイイ!」
小紅は仲谷にそうされながら、頬を少し赤く染めていた。と
そんな時、仲谷と仲の良いクラスメートの女子が2人、息を切らして仲谷の傍にやってきた。
「仲谷い~、ここにいたんだ!」と、1人が息を切らして云った。
「今日は“プリンセスガール”の発売日だよ!忘れたの」
仲谷はアッと声を上げた。今、女子達で話題になっているマンガの発売日だった。下校時にみんなでその雑誌を買って、仲谷の家で読むことが最近の約束事になっていた。
「ゴメン、メイ(明文)達が来るまで待って」と、仲谷。
「私たちが教室出る時、掃除、終わってたから、直ぐに来るよ」と、もう1人の女子。実はその時に、掃除は終わってはなかった。
「早く行こうよ、ねえ本、売切れちゃうよ~」
2人に揃ってそう言われ、仲谷は少し迷った。早く読みたい想いは同じかそれ以上だった。振り返り小紅を見た。不安気に俯いているのが分かった。
仲谷の気持ちは決まった。
「ムリ、ムリ‼メイ(明文)達来るまで、約束だもん」と、2人に云った。
数秒の間合いがあり、小さい声ではあったが、はっきりと、「…ワタシ、大丈夫だから
おねえちゃん達、行って良いよ…」小紅はそう云った。
それを聞いた仲谷は、少し驚きながら小紅の瞳を見つめた。その真摯な黒い瞳に、強い意志を感じ取った。
公園をぐるりと、仲谷は見回して見る。砂場には二組の子連れの親子と、鉄棒に三人組の男の子たちがいた。怪しげな人も居ないし、適度に遊んでいる人もいた。
「なか(仲谷)~、メイ達、直ぐに来るって、大丈夫だから~」と、一人の女子が云う。
もう一人の女子も、「早く行こうよ、ネエ~」と、ダメ押しをした。
仲谷はもう一度、小紅を見た。唇が『…行って…』と、云って微笑みながら手を振っている。仲谷はこの時、小紅に背中をトンと押された気がした。
「小紅ちゃん、じゃあ、お姉ちゃん行くねっ!」
「ナカ早くう~」と急かす声が聞こえた。
小紅は仲谷を促すように、公園の出口を指差して「…行って」と、云った。
仲谷は走り出した。公園の出口で振り返ると、砂場にしゃがんだ姿勢でいる小紅の背中が小さく見えた。