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“ Be Barn-z` ”  作者: 友行亮二
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【1-9】

【1-9】許されざる者たち

それから2日後の事。

授業が終わって帰宅しようとする颯介は、不意に担任教諭に声をかけられた。

「ちょっと、2人いいかな?」

担任教諭は颯介と隣の仲谷に声を掛けた。

仲谷は「先生、何ですか?」と聞いた。

「いいから、2人とも先生についてきて・・・」

いつもの担任とは何か違った雰囲気を感じながら、仲谷と颯介は担任についていった。

職員室の隣の教務室だった。小さな部屋の中には乱雑に物が積まれて、辛うじて小さな机と椅子が3脚あった。椅子に座るように促されて颯介と仲谷は腰をかけた。

担任は云った、「昨日ね、長谷川君のご両親が学校にみえてね・・・」

長谷川は階段で明文の足を踏みつけ様とした奴だった。

「ご両親が云うには、秦明文という同級生に突き落とされたって仰っているの・・・」

「えッ⁉」

颯介と仲谷はほぼ同時に声を上げた。

 「そんな~足を踏みつけ様としたのは長谷川なんだから!明文が避けたら、長谷川が勝手に下の踊り場に落ちたんです、先生‼明文は何もしてませんッ‼」

仲谷は一気にそう云った。

担任教諭は小さな溜息をついて困った、といった表情をした。

 「今朝の職員会議でそのことが話題になって…先生は、明文君はそんな乱暴をする子じゃないって云ったの」

「そうよツ、するわけがない!」と、仲谷は即座に反応した。

 「でも、体育の先生が『その明文という子が、片足で、後ろの子を飛び越しただなんて、作り話としか思えない!』って云うの」

 「でも本当なんだから、ねえ、五月女!」

と、仲谷は颯介に同意を求めた。

 「ボクはその場にいなかったし…」と、颯介。

「あァ、そうだった。五月女、あの時、教室にいたんだ、ごめん!」仲谷は颯介に向かい小さく手を合わせた。

担任教諭は「五月女君に聞きたかったのは、明文君が“そのこと”について、何か話さなかった?」と、

「いえ、明文は何も云ってません…ここ何日、あまり話してないので…」颯介は、そう答えた。

仲谷と担任教諭は、意外だ、といった顔をした。

颯介は長谷川が、怪我の原因を親に問い詰められて咄嗟に思い付きの嘘をついた、のだと思った。

颯介は担任教諭に「明文は何て云ってるんですか?」と、尋ねた。当然、本人には聞いていると思った、からだった。

 「う~ん、それが覚えていないって云うの…」

 「エ~本当にそう云ったんですか?」と、仲谷。

 「そうなの、あと、聞いても『わかりません』と、しか云わないの…先生、困っちゃって…体育の○○先生は、『明文と云う子が、何かを突き飛ばすことでもしない限り、それも片足で2メートル以上後ろに飛んだだなんて…そんなこと、サーカスの曲芸でも出来ませんよ…』って、仰って、聞いていた他の先生方も、『それは、そうだなって』云う、感じなの…」

 颯介は「先生、それでどうなったんですか?」と、担任教諭に尋ねた。

「教頭先生がね、『この件は、まだ調査不足なので、後日、改めて』で、終わり!」

 「先生、後日っていつですか?」

「それって、いつですか?」

颯介と仲谷の声がまた被った。

 「さぁ、決まってないけどね…」少し首を傾けて、担任教諭は頼りない返答をした。

 颯介はこの時、担任教諭に話すかどうかを迷っている、あることがあった。

それは、約一月前、いつものように明文と小紅との下校時の事だった。

その時の小紅は元気がなかった、と云うよりも沈んでいた。あまり話す方ではなかったが、いつもなら自然な笑みを浮かべている子だった。

颯介は小紅に「何か、学校で嫌なことでもあったの…?」と、尋ねた。

 「…なんでもない…」俯きながら小さな声で小紅は答えた。

 何かがあったとしても、『素直には答えないな…』と、思ったうえでのやり取りだった。

何か、いつも小紅を無視し続ける明文の態度に、この頃は慣れてしまっている自分に颯介は気付いて『ハッ』とした。と、同時に小紅を可哀想に思った。

 三人はそれから、しばらく無言で歩き続けていた。

しばらく進むと、通り沿いには立派な漆喰壁のある大きな家にさしかかった。多分、農家なのだろう。庭には大きな柿の木があって、漆喰の壁を超えて道路まではみ出た枝には此の季節折りの実が大きく成っていた。路面から柿の実まで高さは、優に4m以上はあるだろう。

この時、晴天を低空で一気に引き裂くように飛び去るジエット機があった。耳をつんざく様な爆音にそれを見上げながら、自分の耳を両手で塞ぐ3人、のはずだった。ジエット機が通り過ぎて先頭の明文に振り返ると、明文は両手に柿の実を持って微笑みながら立っていた。

「ニイ~(兄)やった~」小紅は嬉しそうにそう云いながら、明文に走り寄った。

何を“やった!”と云うのか?

颯介はポカンとしながら、何が起きたのかを必死に考えた。

『メイはあそこまで飛んだ?まさか!』

『今のジエットの振動で落ちた⁉』

頭の中ではふたつの思いが、交錯し続けている。

柿の実を両手に持ち、ニコニコ微笑む明文に颯介は尋ねた。

「…まさか…飛んで採ったとか・?」自然に声が震える。

「いや、落ちてきたんだ!」明文はそう云って否定しながら、小紅に目配せをした。小紅は小さく「あっ!」と、云って俯いた。

2人の兄妹の何かサインめいた様子を見て颯介は『明文は飛び上がって柿の実を採った!』と、確信した。

この時の“確信”は確かにあった。が、なぜ、担任教諭に云わなかったのかは、『明文の知られたくない秘密』を感じとったのと、自分の目で直に見た訳ではなかったことがその理由だった。


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