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STEP:6 過去

スカイプをしているか、声キモでレスを書いている日々。

放送は2週間に1度するかどうかになった。

姉さんと話すようになって、3ヶ月にもなる。


どういうわけだが、姉さんはいつもオンライン状態で話しかけると、9割は返事が返ってくる。

それはクリスマスでも、元旦でも変わらずだった。


俺がプライベートな事柄を聞くと、いつも「眠くなってきたから」などと切られてしまう。

しかし、様子からして明らかにニートだ。

放送を聞いたのも一度きりだし、スペックも分からない。

とにかく、スペックに書かれている様な項目などは全て正しい返事はしてくれない。


姉さんと話す様になってからは、ラジオよりもスカイプに入り浸っている。

姉さんと話すか、先生と話すか。

その間に声キモを聞いたりしている。

そんな今日も、姉さんとチャットをしている。

実は、姉さんの放送を聞いたとは言っても声は全く覚えていない。

これだけ毎日話していると、さすがに声や顔など色々なところに興味を持つ。

今まで、言った事もなかったが駄目もとで、お願いしてみる事にした。

「たまには声で話さない?」

そう打った瞬間に少し後悔した。

それまでは、3秒くらいで返ってきていたレスが途切れた。


今回も「眠くなってきた」とか言われて切られてしまう。

そう思うのも仕方無い。切られない為にも、何か書こうと思った。

すると、「いいけど、面白くないよ」と返ってきた。

自分から言っておいて、ヘッドセットも繋げていなかった。


急いでヘッドセットを繋ぐ。


「じゃあ、かけるよ」と打ち込むと、反応がなかった。

しばらく待つが反応が無い。

とりあえず、かけてみる事にした。

呼び出し音が鳴る。

緊張する。

「ちょっと待って」

耳が壊れる様な爆音で姉さんの声が聞こえた。

ガサガサと音がしている。

しばらくすると、「ごめんね。普段使わないから、ヘッドセット探してたら時間かかちゃった」

少し焦った感じの声。

「ああ、ごめんね。大丈夫?」

「うん。どうしたの急に?」

「いや、何となく話してみようかと思って。タイピングも面倒だし」

「うんうん。今日は放送しないの?」

「放送するよりも聞いてる方が面白いしね。姉さんこそ放送しないの?」

「私はしないよ。あんまりレス貰えないし、レスをもらっても面白く話せないから」

「そんな事ないって...まぁ、聞いた事無いみたいなもんだから...具体的には言えないんだけど...   

それより俺が話の中で聞いたら切りたくなる様な事言ったら、切らずに『秘密だ』って言ってよ? 切られると少し凹むから」

「あ...うん...」

「正直さ。あんまり放送聞いた事ないんだけど、放送してないよね?」

「うん。2回しかしてない。面白くできないから」

「そうなの?俺はチャットで話してると面白いけどな」

「文字で書いた方が、ゆっくり考えられるでしょ?放送してると頭の中がグルングルンしちゃって、何も話せなくなっちゃう... そういえば、モリタボは今度のカオス祭り出るの?」

「え? あ、アレはバトロワじゃなくなったんだ?」

「避難所ではそういう流れだと思うよ。 もっと放送しなよ」

「面白くないDJが放送するなら、面白いDJがいつでも来易い状況にしておく方がいいと思うから」

「モリタボの放送好きだよ。なんか、落ち着く。声が好きなのかもね」

「それなんて褒め殺し? なんにも出てこないよ? っていうか、声可愛いな」

「はいはい下半身乙 w ただ、放送してくれればそれでいい。ただ声を聞いていたいかも...って思ったりする」

「...あ、ありがとう」


なんだか、不思議な空気になってしまった。

何を話せばいいのか分からない。


とっさに頭に出てきた事は

「姉さんって、ニートなの?」

「え?」

「あ、いや。いつもオンラインだし、いつもこうして話してくれるから」

「あ。うん。そうだね。モリタボって良い人?」

「え? いや、そんなの自分じゃ分からないよ。酷い人って言われた事もないし、言われる程人付き合いないし...」

「そっか...。いつも、話し はぐらかしてゴメンね」

「いや、いいよ。言いたくない事って皆あるし... って、なんで そんな事聞くの?」

「いや... モリタボはお父さんの事とかも話してくれたのに...」


なんか、様子が変だ。

どういう事かは分からないが、とりあえず会話を続行する。


「じゃあ、今日は話してくれるの?」

「え?...うん。でも、話したくないわけじゃないんだよ。でも、話したら...うん」

「何?」

「話したら、嫌われそうで...話したくないの。私ねスレにスカイプ晒したけど、登録してくれたのモリタボだけなの。他に話す人いないし...それに... とにかくモリタボに嫌われたくない」

「嫌いにならないよ? なんで? 別に姉さんが男でもレズでも殺人犯でも気にしないよ」

「殺人犯でも男でもレズでもないけど...絶対に、コレきりとかしない?」

「しないよ。約束する」

「うん...じゃあ、話す」


何を言い出すのかまるで予想が付かない。

姉さんの躊躇う様子からして、余程の事なのかも知れない。

でも、約束は守りたい。

これからも、こうして話していたいと思った。

だから、色々聞きたい。


「姉さんって何歳なの?」

「20歳だよ」

「って事は学生?」

「ううん。お母さんの手伝い」

「自営業とか?」

「ううん。ただのニート。放送の時も言われたw」

「なんで、ニートしてるの?大学とかは?」

「...」

「あ...秘密でいいよ?」

「私ね。大学行けなかったの...」

「あ、ゴメン」


これか...


地雷を踏んでしまった。

黙ってしまう。

何を話したらいいか分からない。


すると、姉さんが

「もういいや。嫌われても仕方無いから話すね。私ね、大学には受かったんだけど行けなくなっちゃたんだ」

「事故とか?」

「...事故...かな。中学2年生の時にね」

「うん」

「友達の家で遅くまで遊んでた帰りに」

「うん」


嫌な緊張感が漂う。

何を言い出すんだろうか...

聞くだけのこっちが、汗をかいてきた...


「男の人に襲われちゃったんだ。雨が降ってて、人も少なかったら騒いだんだけど...」

「...」

「それから、夜と雨の日は外に出るのが怖いの。

そうすると家から出れる時間なんて、殆どないでしょ? 中学の時も高校も殆ど学校には行かなかったし、誰とも話さなかったけど取り敢えず卒業はできたの。それで、少し忘れてたのもあるんだけど...大学の合格発表の後にね。見ちゃったんだ。私を... 私を襲ったその男。そしたら、また怖くなって...だから、家にいるの...そのまま2年」


なんて言ったらいいのか分からなかった。

何もしてあげられる事もないし、とても笑える様な状況でもない。

俺はただ黙ってしまった。


「うちもね。お母さんしかいないんだ。うちは単純に離婚なんだけど、心配ばかりかけてるし お母さんに少しでも楽して欲しいから、バイトとかしてみたんだけど...男の人がみんな怖いの。だから、ちゃんと話せなくて」

「バイトも大変だよね...」

「前に、モリタボが私のDJ名の由来を聞いたでしょ?」

「うん。猫好きで、エロゲ好きで、産業レスがどうしてもうまく言えないからだよね」

「そう。でも、本当はエロゲなんて絶対にやらないの。モリタボの放送は好き。でも、そういう話しになると気持ち悪くなったりする」

「ごめんね」

「ううん。そんな私が声キモなんか聞くからいけないのは分かってる。少しくらいなら平気だよ。でも、そういう事の話しをたくさん聞いたりすると思い出すっていうか...」

「いや...もういいよ」

「でも、声キモの放送はそういうのが無ければ面白いって思う」


そのまま、少し黙ってしまった。

ヘッドセットからは、たまに姉さんの鼻を啜る音が聞こえてた。


すると、

「ああ。これだから駄目なんだよね。皆そうだと思う。私さ色々とお稽古とか塾とか行ってたんだよね。お父さんは私に凄い期待してたんだよね。でも、そんな事があって... 最初はお父さんも防犯グッズとか色々買ってきてくれたり、色々と話してくれたりしたけど限界だったのかも... 私のせいでお母さんと喧嘩して...

あぁ、もういいや...何か話したらスッキリした。眠くなってきちゃった。またね」

と言うと一方的に切られてしまった。

チャットで謝ろうと思ったが、既にオフラインになってしまった。


あの時、俺は何を言えば良かったんだろうか...

姉さん、本当にごめん

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