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11/11

STEP:11 約束

結局、父の墓から帰ってきた後は静輝さんと一緒に夕飯を食べたものの、そう簡単に変われるものでもない。

時間は必要だ。


しかし、俺も変わる様に努力はしている。

あれから5日経ったが、その中で6回くらいは会ったと思う。


なるべく水の補給なども静輝さんのいる時に出て行く事にしたからだ。

特に何かを話すわけでもないが、顔を見せるだけでも...

いや、顔を見る事で親しくなっていこうと俺が思ったのだ。


今朝は台所のテーブルの上には、お菓子がたくさん置いてあった。

約束通りというか『全部、勇気君のお菓子です。今日は子供の日だよ』と、紙が貼ってあった。

ポップコーンやら、かき餅やらがたくさんある。

その山とは別のところに置いてあったポッキーを手に取ると、なんとなく居間に向かった。


すると、テレビの上に兜が飾ってあった。

しかし、何とも思わなかった。

『静輝さんらしいな...』と思っただけで部屋に戻る事にした。

それよりも静香が上がってこない事の方が重要問題だ。


あれから、5日間。

一度も上がって来なかった。


暇つぶしに放送でもしようかと思うのだが、話す事が無い。

避難所の企画会議室も2日のレスから止まっている。

お絵描き掲示板で遊んだり、保守したりとダラダラと時間が過ぎていく。


今まで静香と話す事が如何に重要だったかを改めて感じる。

あまりの暇さにバイト情報を見たりした。


いつか会う時に、静輝さんに『オフに行きたいから小遣いくれ』というのも恥ずかしい。

話の展開次第だが、俺が静香に会いに行くなら資金が必要になる。

学校に行くのも大事な事かも知れないが、それよりもバイトを始めようと思った。


声キモのDJには中卒のDJがいる。

要するに『高校に行かなくても問題無い』とも思った。


バイト情報を見て、保守をして、お気に入りのスレ達を巡回して...

そんな事をしながらスカイプの状態を見る。

それで1日はあっという間に終わっていく...


静輝さんが帰ってきた事に気づいて時計を見ると20時を過ぎていた。

静輝さんが風呂から出て、寝室に入った様子を確かめて風呂に入る。

台所の冷蔵庫を開けると、『勇気君のです』と書かれたコーラが入っていた。


コーラを一口飲んで、パソコンの前に戻ると静香がオンラインになっていた。


咄嗟にコールした。


呼び出し音が鳴り続けるばかりで、全く出ない。

何かあったのだろうか...

何度も呼び続けた。


5分程呼び出し続けたが出なかった。

時計を見ると23時を回っていた。


母親がいたのかも知れない...

しかし、それならオンラインになること事態がおかしい。


諦めて、チャットに「どうしたの?」と送ってみた。

すると、間もなく静香からかかってきた。

「もしもし?」ともなんとも無く、とりあえず自分から話しかけた。


「全然上がってこなかったけど、どうしたの?」


すると、静香が返答ではなく、「お母さんと仲良くなった?」と言ってきた。

理解できずに、とりあえず返事をする。

「え? ああ、この前さ。墓参り行って、少し話した。俺が色々と誤解してたみたい。」


様子がおかしい。

気が抜けてる様な声をしている。


「そう。良かった。学校にも行かないと駄目だよ」

「え? ああ、いや...行かなくてもいいかと思ってさ。それよりもバイト始めようと思うんだ。静香に会う時の為にもさ」

「ううん。バイトしなくて平気だよ。学校行った方がいいよ」

「ねぇ、どうしたの?」

「学校行かなきゃ駄目だよ。もう会えないから、バイトする必要ないよ」

「え! 何それ」


静香は黙った。


「なんで? どうしたの? 何かあったの?」

「五日前かな...お母さん入院したんだ」

「どうして?」

子宮頸部癌しきゅうけいぶがんだったんだって。 異常に血が出るからお医者さんに行ったら分かったんだって。 検査とか色々あって、毎日着替えとか持っていってたから、スカイプできなかった」

「ああ。そうなんだ...大丈夫なの?」

「お母さんは大丈夫だよ。 今日、手術で癌は取ったから。 しばらく仕事には行けないけどね」

「お母さんは...って何?」

「.....」

「どうした?」

「...さっき、お風呂にお水を溜めてたの。体を綺麗にしたくてお風呂に入ろうと思って...それで蛇口から出る水を見てたら、なんとなく勇気の事を思い出したんだ」

「なんか、変だよ? いつもと違う」

「そう?」

「全然違うよ。何?どうしたの?」

「勇気さ、『お前って大人しいな』って言われたらどう思う?」


意味が分からない...

そう思ったが...


「ねぇ...それって...」

「私、また...されちゃった... 何か抵抗すると殴られたりするから大人しくしてたんだ。 もう慣れたみたい...」

「静香...」

「お母さんの手術だったから時間が経つの忘れてた。 病室に戻ってからすぐに帰れば良かったのに...看護婦さんも『大丈夫?』って言ってたのに.. .夜、外に出たら行けないって決めてたのにね...」


何を言えばいいか分からない。

どうしたらいいか分からない。

何も出来なくて苛々する。


「静香、俺はどうしたらいい? 何かできる事はない?」

「私の事、忘れたらいいよ。 私はもう...勇気に会えない。 私、もう汚いから会えない... だから忘れて...」

「何言ってんだよ! 無理に決まってんだろ!! 変な気起こすなよ!!」

「変な気? 何言ってるの? もう、私なんて生きててもしょうがないよ。 今ね援助交際とかできそう。 もう、どうでもいい...」

「いつか会おうって約束したじゃんか!」

「勇気と話してて、色々な事忘れてた。 8年前だからって... 私が汚れてるのは変わらないよ。 8年もあれば少しは綺麗になれたかと思ったのに...」

「そんなの気にしないって、今、静香がいなくなったら...」

「いいじゃん! いなくなっていいじゃん... もう無理なの!! 会えないよ。こんな私じゃ会えないよ!! もう、無理だよ... もう死のうと思ってた。だから、お風呂のお水を溜めてた... けど、勇気の事... 思い出しちゃった... 勇気が好き。 勇気が好き。 でも... だから会えない! 勇気が好きだから、こんな汚い私は見られたくない!!」

「汚くない! ふざけんなよ... 初めて静香から聞いた時だって汚いとか思ってない! 今も思ってない!! だから変な事言うなよ...」

「変な事なんて言ってない... 勇気に会いたい... 勇気に抱きしめて欲しかった...」

「会おう!! 今すぐ会おう。会いに行くよ!!」

「来ないでいいよ。 着いた時には、私いないから...」

「死ぬ気なのかよ! ふざけんなよ!!」

「ふざけてないよ!! 私だって...生きていられるなら...生きていたい...」

「じゃあ、生きろよ。俺の事好きなら生きててくれよ。俺と会う為に生きててくれよ」


パソコンの向こう側で、静香は泣いてた。

ただ泣く声だけが聞こえた。


「そうだ! この前、約束したじゃんか! ほら、もう放送やめようと思ってるって静香が言ってた時に、今度の乱立に出て引退するって言っただろ? だから、俺が放送を聞いてみたいから放送してくれって言ったら、『分かった。必ずする』って言ったろ?」

「....言った」

「今、死んだら出れないだろ。約束破る気かよ」

「...だって...もう...」

「もう、生きていたくないとか言うなよ」

「じゃあ、どうすればいい? 私は... こんな汚い私が勇気とたくさん話すのも辛いのに.. .どうすればいいの?」

「汚いとか言うなよ。 じゃあ、静香は俺がその程度の気持ちで告白したと思ってたんだ... 俺が適当に告白したと思ってたんだ...」

「そんな事...思ってないよ」

「だったら、死なねえだろ!! 俺の為に生きてろよ!! 俺が会いたいって言ってんだから生きて待ってろよ。 静香が俺の事を好きだって思ってくれる以上に、俺は静香が好きだよ。だから、いなくなったら...」

「うん...分かった。ありがとう...」

「分かったって?」

「うん...大丈夫」

「ちゃんと乱立カオスでも放送する?」

「うん...大丈夫」

「それなら...いいよ」

「うん...大丈夫... 本当にありがとう... 勇気に会えて本当に良かった... でもね、他人に説教するには、お手本になってなきゃいけないんだよ?」

「何それ」

「だから、ちゃんと学校も行って、お母さんとも仲良くして、ちゃんとお父さんの工場もやらなきゃ駄目なんだよ?」

「分かってるよ。バイトはする。でも学校も行くよ。」

「絶対?」

「うん...絶対」

「約束できる?」

「約束する。でも、放送は聞きたいから20日以降からだけど...」

「うん...それでもいいよ。絶対だよ。絶対守ってよ?」

「しつこいな。 約束は守るよ」

「うん...勇気は約束破ったりしないよね...信じてる。お風呂のお水勿体無いから、お風呂入りたい。もう疲れちゃった...もう寝てもいい?」

「うん。いいよ」

「うん ...じゃあね。おやすみ」

「うん、おやすみ」

「勇気... 大好きだよ」

「俺も...」

「バイバイ」


そう言って静香はスカイプを切った。

約束もしたし、俺はバイト情報を真剣に見た。

改めて本気でバイトを始める気になった。


しかし、静香はまたレイプされた...

それが辛い...

また、涙が出てきた...

おかげで、求人情報が全く読めない。


今日はもう寝よう...

明日また探せばいいんだから...




今日はいつもより早く起きた。

何も考えずに階段を降りて行くと、まだ静輝さんが台所にいた。


「あらら? 勇気君おはよう」

「あ...うん おはよう」

「今日は随分早いね。っていうか、私のポッキー食べたでしょ」

「え? ああ、食べたよ」

「『勇気君の』って書いて無かったのに...いじわる」

「俺が食べたかったから食べた」

「勇気君って... 前は僕って言ってたよね?」

「は? ...さ、さぁ...」

「あ、もうお仕事行く時間だから! 冷凍庫に肉まん入ってるから食べてね」

「ねぇ!!」

「どうしたの?」

「俺、21日から学校行く...から。 バイトもするから」


静輝さんはキョトンとしてた。


「ちょっと... なんていうか...  約束だから。  悪いけど...制服とか準備してくれる?」

「うん!! 今日は良い事ありそう♪ 勇気君と話せて、良い話聞いたし、じゃあ行ってきます!!」

「いってらっしゃい」


玄関のドアを閉めて行ったと思ったら、また戻ってきた。


「今度良かったら『静輝さん』じゃなくて、『お母さん』って呼んでくれると嬉しいかも」

「は? ...まぁ、そのうち...」

「じゃあ、いってきます」


そういうと、玄関を閉めて走っていった。


俺は肉まんを持って部屋に戻ると昨日の続きだ。

求人情報を眺める。

取り敢えず、妥当にコンビニのバイトだろうか...

そんな事を思ってスカイプを眺めてた。




それから、ずっとnukoero3のIDがオンラインに成る事は無かった。

一周年乱立カオス祭りにも、「姉さん」は来なかった。




学校に行く様にもなった。

バイトも始めた。



それでも俺は放送を続けている。



どこかで君が聞いてくれてると...

君に伝えたいと思うから...






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