STEP:1 2ちゃんねる
この物語は、「2ちゃんねる」内の某スレッドを題材にしています。それに伴い、それに関する用語が使われています。又、鬱や引きこもりなどの様々な表現も使用されています。
時計を見る時、いつも思う事がある。
「時間って、どうして勝手に進んでいってしまうんだろう...」って思う。
この前は中学生で、何も知らない振りをしていれば良かったのに、今ではそうはいかない...。
ずっと、子供のままでいたかった。
僕の名前は森 勇気。16歳。
今の僕は、きっと世界で一番不幸そうな顔をしているに違いない。そんな事を思っている。
新しい制服、新しい教材、新しい環境。それ等を揃えて、迎える筈だった入学式。
しかし、その三日前の晩。
父は死んだ。
父は自動車整備工場を経営していた。整備中にジャッキで上がっていた車に同僚の運転する車が当たり下敷きになった。
「ネジを締めるだけだから」と別の同僚に普段使用していたリフトを譲り、測道で作業をしていたらしい。
父は即死だったと聞いた。
僕は昔から父が好きだった。
色々な事を教えてくれたり、自転車を直してくれたり、ドライブに連れていってくれた。
僕は父の仕事に関わる事をもっと学びたかった。
その話を何度かしていた事もあって、父は中学の入学祝いにパソコンを買ってくれた。
パソコンが部屋にあったものの、使うのは父の話した車の名前などを調べるくらいだった。
そんなパソコンの画面に映る自分の顔を見ている日々を過ごしている。
父の事故以来、僕は部屋から出る事は少なくなった。
通夜にも行かなかった。
父の死は、僕には大き過ぎた。
高校を卒業したら、父が選んでくれた、父の整備した車に乗って出かける。
そして、いずれは工場を継いで父を楽にしてあげるのが夢だった。
しかし、今は高校を卒業する理由が見つからない。
生きている事にすら疑問を感じている。
母親も「出てこい」とは言わなくなった。
あれから、もう二ヶ月が経っているのだ。
母親とはいえ、そんな息子の世話は疲れたのだろう。
ただベットに寝転がり、枕から見えるパソコンに映る自分の顔を見て耳を澄ましている。
母親が仕事に行った後、そっと部屋から出ては台所をあさって部屋に戻る。そんな日々の繰り返しだ。
心の整理はある程度できている。
正直、父の死を割り切る事ができないわけではないが、
「きっと、もう勉強にはついていけない」「友達もできない」
そんな事を言い訳にして引きこもってる。逃げてるだけだと分からないわけでもない。
しかし、今更どうにもできない。
今日は、何となくテレビを見てみようと思った。
久しぶりに、人の声を聞いた。数時間もテレビを見ていたらしく、窓の外は暗くなっていた。
時計を見ると、19時を過ぎていた。母親が帰ってくる時間だ。
部屋に戻ったのはいいが寝付けない。
その時、CMでやっていた映画の予告に出てきた車が気になった。
久しぶりにパソコンの電源を入れる。
映画の名前を検索したが、さすがに車の名前に行き当たらない。
該当ページを一つずつ見渡していく。
すると、そこには映画の話題が数字と共に書かれていた。
それが掲示板だと気付いた時、それが「2ちゃんねる」という場所である事も分かった。
ページを上から読んで見たが車についての話題は出ていなかった。
その時、何故か「ここで聞かなければいけない」様な気がした。
全て、発言の先頭には「名無しシネマ@上映中」の文字。
書き方にも規則があるのだと思った。
まずは、検索の対象を「2ちゃんねる」に書き換えて学ぶ事にした。