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外伝 おまけ:ある学生たちの1日

「ごめんなさい、エリーさん! あの、本当にごめんなさい!!」


エリーさんが真っ青な顔でふらふらとラウンジを出て行く。

私の謝罪も彼女には届いていないようだった。

追いかけなくては。

頭ではわかっているのに、あのひきつった顔、私の言葉を拒絶した目がちらついてすぐには動けなかった。


「……今、泣きそうな顔をしたエリーシア嬢とすれ違ったが、何かあったのか」


訝しげな顔で入れ違いにやってきたのは殿下だった。

ああ、やっぱり泣いてしまったのね。


「わたくしが……わたくしが悪いのです!!」


あのような言葉を口にすべきではなかった。

せめて一言確かめてから、声をかけるべきだったのだ。

あとから悔いたところでもう遅い。彼女を傷つけてしまったのは本当の事なのだから。


「悪いとは? 最近はずいぶんと仲が良かっただろう。家族のようだとお前も声をかけていて……」


「本当に家族のように思っていたのです。いえ、わたくしの勝手な判断で……!」


「どういう意味だ? 俺はてっきりお前が彼女を選んだのかと――」


「あの、庭園の隅でエリーシアさんがすごい顔で壁を叩いていましたが、何かあったのですか?」


首を傾げてリィンもやってきた。

そんなに?! あの温厚な彼女が壁に怒りをぶつけるほどに傷ついたというの?!


「やはり、わたくし今すぐもう一度謝ってまいります!!」


こうしてはいられない。

たとえ彼女に嫌われたとしても、ちゃんと改めて謝罪すべきだ。

飛び出そうとした私を殿下が引き留める。


「まぁ待て。とりあえず、何があったのか話して見ろ。場合によっては力になってやろう」


「僕も、微力ながらお手伝いいたします」


「お二人とも……ありがとうございます! じ、実は――」





――そう。事の始まりは、収穫祈願祭だった。

今年、兄は協会の件で忙しくて帰郷できず、代わりと言っては何だがリィンにエリーさんも誘ってみたのだ。

エリーさんはとても喜んでくれて、一緒にお祭りを見て回って、珍しい果物に見たことのない布や宝飾にと私たちは大層楽しんだ。

時々、本当に時々だけれど、獣人を街中で見かけることがあったのも嬉しかった。

今回もリィンは騎士の宿舎に泊っており、館には私と父とエリーさんの3人だけだった。

気が付いたのは2日目の夜だ。

私がちょっと席を外している間に、エリーさんと父は何かの話で大変盛り上がっていた。

握手まで交わして、大切だとか、力を合わせてだとか、詳しい内容までは分からなかったけれど、それはそれは仲が良さそうだった。

それだけではない。

夏休みに彼女を招待したら、またしても2人は熱心に話し込んでいた。対策だとかなんとか。

いけないことだと分かってはいたけれど、聞き耳を立てたらどうやら文のやり取りまでしていたらしいと発覚したのだ。

それも少なくはない頻度で。





「――ですから、わたくしは……」


「…………「わたくしは」?」


己の愚行に言葉を詰まらせる私に、殿下がそっと続きを促す。


「わ、わたくしはエリーさんに「お義母様」と声をか……」


ブフォーッと殿下が派手にお茶を吹き出す。

リィンも隣でカップを持つ手が震えている。

慌てて給仕係が布巾を持って走ってきた。

やはり男性から見ても、違和感しかないようだ。

それなのに私ったら父とエリーさんを見てこう思ったのだ。


『悪役令嬢を脱却したら、ヒロインが義理の母になりました!』


なるほど。探せば有りそうなタイトルだ、と。

父が後妻をとらないのは、私の母に愛をささげているからではない。貴族の世界を嫌っていたからだ。

ならば、全てが過去となった今なら父にも新しい道が開けてもいいはずだった。

エリーさんだって、ゲームが終わった今、彼女が攻略対象と結ばれる以外の人生も十分にありうる。現に、そういった未来を言外に匂わせると力強くうなずいていた。

だから、てっきりそういう展開で話が進むものだと思いこんでしまった。

娘なら歓迎すべきだ。今世は孝行に生きると誓ったではないか。今果たさずにいつ果たすのだ、と。


「そっ、そんなっ、あるわけないじゃないですか! 違います、ないです、絶対に! 侯爵様とだなんて、む、無理です!」


エリーさんはものすごい勢いで首を横に振っていた。

あそこまで父が嫌がられるとは――同年代より若く見えると言ってもやはり娘の欲目があったのだろう。

倍以上年の離れた男性と関係を疑われるなんて、さぞや気持ちが悪かったに違いない。清純な彼女には本当に申し訳ないことをしてしまった。


「お前、結構惨いな……」


「えっと……ちょっと同情します……」


追い打ちをかけないでほしい。協力してくれると言ったのに……。


「まぁ、みなさまお揃いですこと――」


シシー様が相変わらずのおっとりとした雰囲気を漂わせて登場する。

ひかれた椅子に腰をかけると早速空気を無視して、


「ローズ様、先ほどエリーシアさんが何やら決意してらっしゃいましたけれど、何をなさったのかしら?」


「どうしてわたくしだと? わたくしですけれど……」


「あの方、意外にしたたかですもの。何かあるとしたら、貴女しかございませんわ」


笑いながら広げた扇をパチンと閉じる。

それを合図にでもしたように、ローズ様、と声がかった。

エリーさんだ。

彼女の目はうるんでいる。今まで泣いていたに違いない。


「ごめんなさい、エリーさん! わたくしったら本当に失礼なことを!」


「いいえ、ローズ様のせいではありません。私、改めて気づきました――アピールが足りないのだと!!」


エリーさんはぐっとこぶしを握り締め、宣言する。

はて。アピールとは一体何に対してだろう。

疑問には思うものの、せっかく復活した友情に水を差すわけにはいかない。


「ええ、応援するわ、わたくし」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


「はぁ……茶番だな。行くぞ、ローズ」


「なぜわたくしの手を――行くとはどちらに、あの、殿下?」


「私も行きます!」


「僕もお供します」


「あらあら、でしたらわたくしも」


「くっ、結局いつもの通りか。ついてくるな!」

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