外伝 SIDE:公爵と公爵と侯爵と
「おっ、ヒューバート、そいつはあれか! <フォーロマンの女人>とかなんとかいう酒か!」
「<薔薇の貴婦人>です。全く合っていませんよ、閣下。本当にご存じなのですか?」
「おう。クォーターがいつぞや持ってきやがってな、娘の名前を付けた途端ブドウの生育が良いだの、最高のワインになるだの散々自慢しやがって、挙句一本も開けずに持って帰りやがった。ただ自慢したかっただけなんだと! ということで一杯くれ」
「普段、酒は度数が命だとか言ってませんでしたか?」
「これは別だ。あれだけ見せびらかしてた酒だからな。味わってみたい」
「では、どうぞ」
「――……あー、なんていうか、あれだな。お上品な味だな」
「不味いと言えばよいではないですか」
「馬ッ鹿、お前、クォーターは娘に関する悪口だったらどんなところからでも聞きつけてやってくるぞ、滅多なこと言うもんじゃねえ! つーか、不味くはない。美味いが、俺はもうちょっとキツい酒の方が好きだ――ただ、それだけだぞ、クォーター!」
「どこに向かって叫んでいるのですか。迷惑ですよ」
「閣下ッ!!」
「うおっ、クォーター、ど、どうした? 悪口じゃねえって言っただろうが!!」
「以前、おっしゃいましたね。私の大切なローズにとご子息をご紹介いただいた際、なかなかの青年だと!」
「いや、そう……だったか……?」
「どこがですか! うちのローズを容疑者扱いしたことも許せませんが、馴れ馴れしく頭を撫でまわすなど、不届き千万!!」
「いや、怒るなって……あれは、ほら、な、なかなか――そう、なかなか個性的な奴だと言おうとしたところを、お前が遮るからだな。落ち着けって。ほら、一杯飲むか? 大陸一のワインだぞ?」
「結構です! 失礼!」
「……あいつ、それだけ言いにわざわざ寄ったのか? 暇な奴め」
「それほど大切にしているのでしょう。特別なお嬢さんです。ですから、殿下も望んでおられる」
「マジか。うちに欲しかったんだがなぁ。今なら、あの娘にティアットとナイトスターも付いてくるみたいだしよ」
「そうですね。今なら、ティアットとブロッサムが確実に付いてくるという訳です」
「……本気か?」
「誰よりもセルジュが、ですが。もちろん、僕も妻も娘も彼女を心から望んでいます。ただ、あの様子ですとローズ嬢を易々と誰かに委ねるとは思えませんね。彼女に何かあったら、その人物はクォーターに確実に八つ裂きにされるでしょう」
「だな。――もし、今後あいつと俺らが対立することがあったら、まず間違いなく嬢ちゃんがらみだろうよ」




