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外伝20 辺境伯領・その後 4

「おう、嬢ちゃん、よく来たな! さぁ、何でも好きもん食っていいぞ!」


冬隣の候、グエンダイク様に呼び出されて私はカフェに来ていた。

寒々とした外の景色とは異なり、店内のすべてがパステルカラーに彩られ、レースとリボンで埋め尽くされている。

王都の中でも最もファンシーなお店だ。

正直、アーサー様ならともかく、グエンダイク様は周りからかなり浮いている。彼もさぞ居心地が悪いに違いない。

それでもここを選んだのは彼なりの謝罪の意味もあるのだろう。


「ありがとうございます。そのご様子でしたら、わたくしの疑いは晴れたのですね?」


影響が残っていないか念のため調べると要請され、彼に提出した血。

途端に彼はばつの悪そうな顔をし、


「……ばれてたのか。いや、別に嬢ちゃんを疑ってたわけじゃあねえぞ。ただ、何かしら関係があるのかもしれんと思ってただけでな」


おかしいと思ったのだ。

最初にグエンダイク様と会ったときに、怪我をした手。

彼は杖が引っかけたように装ったが、杖は後方にあり、私はゆるくしか抑えられてなかった。怪我をするほど当たるはずがないのだ。

そもそも馬車が遅くなったのも、検問のせいではなく車軸が壊されていたからだと聞いている。

私の血をとるつもりが、たまたまその奥にアーサー様がいらしたおかげで失敗に終わったのだろう。

査察だってそうだ。

私はともかく2か月たってから教会が調べに来るだなんてどう考えてもおかしい。

父にはとっくに報告は行っていたのだし、皆が口を閉ざしていたわけではない。グエンダイク様は私についてきたと考えるほうが納得できる。

辺境伯代理を問い詰めていた時も、やはり今思うと無関係の人間が聞いていい内容ではなかった。あれは、代理を脅すと同時に私にもすべてわかっていると圧力をかけていたのだろう。

とは言っても、全て終わった今頃になってやっと気が付いたことなのだけれど。


「……ある時、教会におかしな噂が上ってきた。豊穣の祝福を受けたとある領主の娘が、草花に命を与えて芽吹かせたと。教会ってのは加護と魔力の総本山だ。大陸中の奇跡や不思議な能力の記録が集まる。だが、教会の資料を過去から現在に至るまですべて漁っても、そんな能力に目覚めたやつはいなかった。だいたい土の魔法ってのは、巨大な防壁を作ったり泥人形ゴーレムを動かしたりするもんだ。星を落とすに至ってはもうそんな魔法を使える奴は何年も生まれてねえ。その領主の娘にしたって、生まれた時の記録によれば魔力はへぼ……た、高いとは言えなかった」


言い直さないでほしい。余計に傷つくから。


「去年、人攫いの事件に巻き込まれたことを覚えてるか?」


あの、出版関係だというご令嬢の誘拐事件の事だろうか。


「……そこで1枚の紙が見つかった。かかれていた名前は、オールドローズ・フォーロマン。それが顧客リストなのか誘拐候補なのかは不明だ。奴らが正直に吐くわけがねえしな。だが、普通は侯爵令嬢なんて狙わねえ。リスクが高すぎる。顧客と考える方が、つじつまが合う。ここ数年は王国内で魔力もちが攫われる事件が増えていた。そしてそのいくつかが最後に姿を消すのは大体フォーロマン家のもつ子爵領地と辺境伯領の境だった。怪しい人影を見るとの情報も教会にあった。そこへ、フォーロマン侯爵令嬢が持つ不思議な能力の情報ときちゃ、つながりがあると思うわけだ――勘違いだったけどよ」


「では、わたくしも狙われていたと? でも、あの方たちはわたくしを捕えてもそのような様子は……」


「高貴なお嬢様が学校の鉄柵よじのぼって必死の形相で追いかけてくるとは、露ほども思ってなかったんだろう。制服だったしな。まぁ、奴らの想像していた侯爵令嬢像と合わなかったお陰で、嬢ちゃんは助かったってわけだ」


「…………」


喜ぶべきか恥じるべきか、どちらだろう。


「結局はシシーに言われたとおりになったな」


「シシー様がですか?」


「ああ、怪我の事情を聞きに行ったときにな、俺がお前さんを探ってることにすぐ気づきやがった。阿呆だと笑われた。あれは真性だから、疑うだけ無駄だと」


「シシー様……」


「そういや、その前にもユーリウスに似たようなことを言われていたな」


「殿下も……」


「話をしたら、アーサーにもな」


「まぁ……」


なぜだろう。

みんな私を庇ってくれているはずなのに、全然そのような気がしない。


「血の検査結果も何の問題もない――本当に、悪かったな」


「いいえ……あ、あの……」


グエンダイク様はこのまま中央教会に戻られるのだろうか。

私の力について教会にはどう告げるのだろう。

もっと詳しく調べられることになるのだろうか。

珍しい能力というだけで、こっそり探られていたのだ。もし加護が2つあると判明したら、どのようなことになるのか想像もつかず、不安しかない。


「だがまぁ、稀な力であることには変わりない。念のため、身の回りに気を付けておけよ。それから、誰かを助けるためだとしてもあんま無茶はすんな。侯爵殿の寿命がいくらあったって足りやしねえ」


グエンダイク様が私の頭をなでる。

兄とは違う、乱暴な撫で方だが、そこには優しさが詰まっていた。


「心配すんな、大丈夫だ。おお、そうだ。お前さんには特別にグエンと呼ぶことを許してやろう」


「……恐れ入りますが、なぜ、グエンなのですか? グエンは女性の名前ですよね?」


「こう見えても俺は生まれた時にはあまりにもちっぽけだったんで女と間違えられたんだ。ちゃんと見りゃタマ……じゃなかった、男ってわかるのによ。まぁ、ずっと親父殿は女の子を欲しがってたから、それもあったんじゃねえか。その名残ってわけだ。だから、この呼び方は家族だけだ。アーサーは嫌がらせで呼んでくるがな」


グエン様は子どもみたいに顔をくしゃくしゃにして笑う。


「――で、今日から、嬢ちゃんも特別だ」

前編終了。

明日SIDEとおまけで後編までしばらく空きます


***

外伝1のあとにユーリウスとアーサーの間で、


「グエンダイクが戻ってきている?」

「はい。人身売買についての協力をと。それからレディに何かしらの疑惑を抱いているようでした」

「……教会の差し金だ。いい福音ではないだろう。見張ってくれ」

「レディに付き従えばよろしいでしょうか」

「グエンダイクに、だ! ローズのそばにいる必要はない」


このような会話があったとかなかったとか。

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