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外伝19 辺境伯領・その後 3

次の日、私だけ一足先に王都に帰ることになっていた。

エリーさんやリィンは周辺地域の浄化や後片付けのため、まだ残ることになっているらしい。

出発する前に、辺境伯のご子息の部屋へあいさつに寄った。

彼は1日のほとんどを眠っていて、ある程度回復したらさらに専門的な治療をうけるため王都に移送されることになっている。けれど、治療を受けたとしても実験を受ける前と同じ状態にまで戻ることはないだろうと聞いた。

代理は治療が終わると同時に中央教国へ送られ、もうここにはいない。

辺境伯領はしばらく王室預かりとなり、一時的にブロッサム家が管理することになったそうだ。

診療所の前に見たことのない立派な騎士が2人立っている。


「<黒い狼>?!」


何かあったのだろうかと駆け寄る私を認めると、彼らはさっと扉を開けた。


「あの……?」


会釈して、彼らはまた警護に戻る。

入って良いということだろうか。

建物内は静かなもので、誰も居ないようだった。

否。部屋の扉は微かに開いており、誰かが部屋にいる気配がした。

隙間から覗いてみる。

こちらに背を向け立っているその人の顔は見えないけれど、後ろ姿でわかる。


「殿下だわ……」


殿下はそっと寝ている彼に語り掛けている。


「……貴族の制度を今すぐになくすことはできない。だが、いずれ生まれや魔力の有無で差別されることのない時代が来る。俺は、その礎となることをお前に約束しよう……」


聞こえてきたのは、低く、決意を込めた言葉だった。

入ることはためらわれて、迷っている内に退出した殿下と顔を合わせることになってしまう。


「あ、あの……」


私の表情で察したのだろう。殿下は少し目を伏せて、


「……すまない。今の俺には、お前にも同じ言葉を誓うことしかできない」


いたわるようにそっと、まだ少し泣いて腫れている私のまぶたに触れる。

ああ、この人は本気だ。

本気でこの国のすべてを、私の痛みすら背負ってこの国を生かそうとしている。

その思いに胸が詰まって、すぐに返事ができない。


「それから――シャルにもよかったら会ってやってくれ。近頃顔を見ないととても心配していた」


「……はい。承知いたしました」


彼の手は相変わらず王族とは思えないほど硬くて、そして、とても暖かかった。


「ローズ!」


王宮では頬を染めた愛らしい少女が駆け寄って私に抱き着く。


「兄さまがね、ローズがきたらぎゅーってしてあげなさいって」


「ありがとうございます。お願いできますでしょうか」


うん、と大きくうなずいて、抱きしめられる。

小さな体は私を覆うにはとても足りず、けれどそれは有り余る慈愛に満ちていた。

シャーロット様の顔に、もう1人の顔を見る。

この国の制度も貧富の差も何一つあの人の所為ではないと言うのに、王子に生まれついた、ただそれだけで、私の痛み、誰かの心すら背負おうとしていた人。

幼い体で、生まれるはずだった命を想い、1人で歩いていくことを決めた子ども時代。

俺様だなんてゲームでは喜ばれていたけれど、傲慢とも言えるその性格が、どのようにして培われていったか。

真実を知った今、胸が痛かった。


「……ローズ、ないてるの? いたい?」


「……いえ、大丈夫ですよ。シャル様にお会いして、安心したら涙がこぼれてしまいました」


過去の私はただの一目ぼれだと思っていたけれど、今は恋に落ちた理由が少し分かるような気がしていた。

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