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外伝 SIDE:アーサー

「――……何が、起こった?」


グエンが呆然と溢す。

それはその場にいる誰もの胸の内の言葉だろう。奇跡を見慣れている審問官ですら理解できないことが起こったのだから、よほどの異常事態なのだということだけは辛うじて分かった。

爛熟した肉のにおいの中、少女は微笑んでいた。

涙をこぼしながら、それでも懸命に微笑んで話しかけていた。尾が彼女を貫き狙おうとも、それでもひるむことなく。

苦しそうに暴れていた獣も、いつしか全てを忘れてしまったかのようにそちらに首を傾け少女の言葉を拾っていた。

彼女の声に応えるように、獣がひときわ甲高く鳴く。

それに安心したようにうなずいて少女の体が傾き、落ちてくる。

投げ出された少女の手は肩まで炭化した如く黒く穢れ、まるで熱い鉄に触れたように皮膚が焼け爛れていた。と同時に、獣の輪郭が曖昧になる。それはやがて収縮し、一人の人間へと姿を変えた。

いや、戻ったという方が正しいのだろう。痩せこけて華奢な、その本来の姿に。

彼女を抱き止めるよりも早く、グエンが手を伸ばし受け止める。

雨が一層激しく地面を叩く。

誰一人目の前の光景を信じられず、立ちすくんでしまうなか、グエンの怒鳴り声が響く。


「誰も触るな、穢れが伝染うつる! 学園に聖女候補がいたな……王都に鳥を飛ばせ! 周辺から光の司祭を集めろ、すぐにだ! 早くしろ!!」


彼の焦燥具合に事態はまだ収束していないと気が付く。


「一番近い街に馬を! 教会を借り受け、診療所としろ!」


ようやく到着した街の騎士団に指示を出し、走らせる。場が一気に騒然となる。


「グエン……」


「さっきも言ったが、お前も触るなよ。影響を受けずに済むのは光の加護か司祭の祝福を受けた者だけだ」


「レディの容態は?」


「……聖女候補次第だ」


その言葉に状況はかなり深刻であるとうけとれた。

貴族の学校で、獣人に微笑んでいた少女。

攫われて閉じ込められているというのに、もう一人の令嬢を心配してばかりいた少女。

身分の異なる者を真っ直ぐな目で友人と言い切った少女。

土に膝をつき、泥にまみれた手をためらうことなく握った少女。

自らの身をささげて奇跡を起こした少女。

若く、無垢であるがゆえに恐れもなく自らの正義を振りかざす。

その言葉で終わらせるには、あまりにも眩しかった。

未来ある若者の命が失われかけている――それ以上の痛ましい喪失を胸の痛みが訴えていた。

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