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外伝12 辺境伯領 2

「突然の訪問、どうぞお許しください。所用で子爵領に寄りまして、改めて辺境伯代理にどうしてもお礼をと思い、こうして参った次第でございます」


辺境伯を調べたほうがいいかもしれない。そう言いだしたのはグエンダイク様だった。

それなのに城に到着する直前、馬車を降りると言い出したのもグエンダイク様だった。

そして、やりたいことがあるからできるだけ辺境伯代理をひきつけておいて欲しいと頼まれた。

あろうことか返答をする前にとっとと彼は姿を消し、残された私は護衛騎士(仮)のアーサー様とこうして何とか不自然に見えないように面会理由を作り上げたという訳だ。


「おお、それは大変ご丁寧に。どうぞ、顔を御上げください、ご令嬢。こちらこそ、フォーロマン侯爵にはいつもよくしていただいております。それに恥ずかしながら、あれはこちらの不手際なのです」


首を傾げる私に、


「侯爵にもご説明申し上げたのですが、あれは今年学院を卒業する甥のために買い付けたものなのです。継承の儀のために。しかし手違いがありましてな。何とか捕まえて商人に送り返したところなのです。フォーロマンの領民にも大変申し訳ないことをしました。改めてお詫び申し上げます」


深く頭を下げる辺境伯代理はくたびれた雰囲気の方だった。

戦って疲れ果て、それでも最後の何かに縋るような。眼だけが如才なくきょろきょろと動き、神経質な内面をうかがわせたが、態度は穏やかで、非常に丁寧だった。


「まぁ、そうでしたのね。こちらこそ彼には学院で大変お世話になっております。継承の儀の御成功をお祈り申し上げます」


「ありがとうございます。ご令嬢、今からでは子爵領につく前に夜になってしまいます。荒れ地が多く、農産物ができにくい故大したもてなしもできませんが、どうぞ、今晩は泊っていってください」


「感謝いたします。喜んで、そうさせていただきます」


わざと遅くに訪問した甲斐があった。

なんとか約束は果たせそうだ。私は代理に見えないようにそっと安堵の息を吐いた。






夜の闇を遮るように窓から差し込む月の光に、シルエットが浮かび上がる。

真夜中、宛がわれた部屋で不思議な声を聞き、導かれて辿り着いた部屋でのことだ。

アーサー様はグエンダイク様の様子を探りに行って私は一人だった。

調度品は古く、冷え冷えとした部屋の中央に備え付けられたベッド。

その上に、か細い、華奢な少年が横たわっていた。顔、そして雰囲気が友人である彼に非常に似ている。

きっと以前伺った病弱な弟さんだわ。

聞いた話だと12歳前後のはずだが、どう見てもそれより体が小さかった。

吐く息は細く掠れていて、小さく上下する胸が痛々しい。こちらを見遣る目は力なく、深刻な状態であることが一目でわかった。

なぜこのような状態なのに付き添いが誰一人いないのか。


「夜分に恐れ入ります。わたくし、お兄様と同じ学校に通っております、オールドローズ・フォーロマンと申します」


「……やっと……きてくれた……」


彼が嬉しそうに答える。

お兄様から私の話を聞いていたのだろうか。私を見ても驚かなかった。

弱々しく差し出す手を慌てて駆け寄り、握った。

握り返してくる力は思っていたよりも強い。まるで、私を逃がすまいとするかのように。


「お水を持ってまいりましょうか? お医者様をお呼び――」


「ふしぎな感じがしたから……きっと神様が見つけてくれたんだ……」


「あの……?」


繋いだ手がまるで鉛のように重たい。

いや、手だけではなく体全体が重さのあまり床に沈んでいるように感じる。

瞼を閉じた覚えもないのに夢に落ちていく感じ。

周囲はいつのまにやら明るくなっていて、少年の顔がはっきりと見える。

彼は微笑んでいた。


「……ごめんなさい」


その謝罪に、月の明かりではなく精霊の光なのだと気付いた時にはもう遅かった。

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