外伝9 事件 3
晩餐の時間、久々に兄も揃っての食事なのに食堂は嫌な静けさに包まれていた。
そこへ執事が銀のお盆に1通の手紙を乗せて兄のところに持ってくる。食事の最中になのだから、かなり急ぎの用件であることは間違いない。
「……領地に大型の魔獣が出たようです」
兄の言葉に一気に食堂がざわめく。
フォーロマンがもつ領は、猟師が野生の獣と同じ扱いで普通に狩ることができるほどの小型の魔獣しかまず見ることはない。
大型ともなれば地方騎士程度では歯が立たない。教会と周辺地域の大きな騎士団への支援要請が必要となる。
「どちらに出ましたの?! 魔獣は今どのあたりに?!」
告げられた地名は、かなりはずれの方の領地だった。フォーロマン家が擁する中ではもっとも国境に近い地域、子爵領だ。
「領境の村に出たため、ちょうど巡回中だった他領の騎士団がすでに退治したそうです。ただ、その影響で一部の収穫量に影響が出ると……」
「この時期にですか……?」
すでにほとんどの地域で収穫量の計算は済んでいる。
特に今年は農業統計を出す年でこれはとても重要であり、市場価格の決定はもちろん、統計を基に国や各領主は備蓄量を決めていくため、訂正するとなるとかなりの大ごとになる。
「――いつのことなのかね」
今まで黙っていた父がおもむろに口を開く。
いつもなにも、今来た手紙なのだから、遅くても先週か先々週あたりのことだろう。
「……2か月前のことです」
慌てて日付を確認し、呆然と呟く。
そのような重要な件が、なぜ今になって報告されるのか。
「知らなかったのか?」
「……きいていません」
「そうかね。私のところには伝わっていたが」
兄が愕然とした顔をする。
「お父様!!」
なぜ、兄に教えなかったのか。
父にだけ伝えるなんて、こんなのいやがらせに決まっている。父だってわかっていたはずだ。なのに、なぜ!
「……すぐに出立します」
統計を直す必要があるのかどうか、確かめなくてはならないはず。国にも提出するものだ。粗相があってはならない。
本当なら、協会の人間を出すところだけれど、多分このような状態では上がってくる数字すら信用できるものかどうか。
だから兄が直接行って確かめるしかない。
「今、協会を空けるだと? 会長の椅子を危うくするつもりか?」
秋の最後の収穫を控え、農業協会は今が一番忙しい。大事な時期に議会を欠席して顰蹙を買えば、それだけ支持は減ることになる。
父の鋭い言葉が、準備のために席を立とうとした兄を引き留める。
かと言って、父が行く気はないらしい。だとするなら、一つしかない。
「――わたくしが参ります」
2人が同時にこちらを振り返る。
「お兄様の為ではございませんわ。わたくしもフォーロマンの娘ですもの。ちょうど学校もしばらくお休みですし、この家の者として見過ごすわけにはまいりません。そうでしょう、お父様?」




