End : エリーシア
今日は、エリーさんと一緒に彼女の故郷に遊びに来ていた。
楽しみにしていたお勧めのフィッシュサンドを味わって、お揃いの装身具を購入したり、可愛い雑貨を贈りあったり、休日を2人で目一杯楽しんだ。美味しい氷菓も堪能して、最後に案内された場所は、街を見下ろす小高い丘の上だった。
辺りには一面、名も知らぬ野花が咲き乱れ、風が吹くと一斉に穏やかに波打ち、甘い香りが少し離れた木陰で休む私たちのところまで運ばれてくる。
「ここには、父と母と私の3人でよくピクニックに来ていました」
彼女は花々の中に懐かしそうに目をやる。
視線の先に、穏やかそうな男性と優しそうな女性、そして可愛らしい少女が仲良く談笑している、そんな情景が自然と浮かんできた。
「家族の思い出の場所なのね。そんな素敵な場所に案内してくださって、ありがとう」
卒業後、中央教会からの誘いも、王宮からの提案も断って、彼女はフォーロマン領で暮らすことを望んだ。正確には、兄を手伝う私と一緒に働くことを。
この半年間、聖女として人助けも行いながらというのは大変なことなのに、彼女はあっさりと受け入れ、忙しい日々を笑顔でこなしていた。それは、ヒロインの資質なのではなく、エリーさんだからなのだと思う。
私の視線に気が付いて彼女がはにかむ。
「そ、それで、そのっ……」
エリーさんは手の指をからませてもじもじとしている。
それから、まるで一世一代の告白でもあるかのように、緊張した面持ちで告げる。
「こ、これからはっ、大好きなローズ様とたくさん思い出を作れたらと思っていますっ」
なんとも可愛らしいお願いに自然と笑みがこぼれた。
「もちろんよ。エリーさんが望む限り」
私の言葉に、彼女がずずいと詰め寄る。
こちらを見つめる目は、熱を帯びていた。
「ずっと、一生、永遠です!」
……思っていたより長い。
いや、私は構わないのだけれど、彼女はそれでいいのだろうか。エリーさんなら、これからでもいい人がきっと現れると思うのに。
リィンだって、王宮騎士を断って、なんとうちの領の騎士団に就職している。
貿易で提携しているシシー様はもちろん、殿下やセルジュ様も、なぜかしょっちゅうフォーロマンを訪れている。
ロマンスなんていくらでも起こりそうな環境だ。
そう問うと、彼女は横に首を振って、
「……あの、ローズ様と一緒にいるだけで、私も頑張ろうって思えるんです。美味しいものを食べても、綺麗な景色を見ても、一人じゃ意味がないんです。私の一番はローズ様で、もし許されるなら私もローズ様の一番になれたらと願っています」
「それなら、もうお願いは叶っているわ。わたくしの一番もエリーさんだもの」
彼女が目を丸くする。頬がさぁっと赤くなった。
この健気な少女の幸せをずっと願っていた。
それは罪悪感からではなく、私の心からの想いだった。
誰にでも分け隔てなく優しく、穏やかで、でもそれだけではなくていじめや偏見に負けない芯の強さも持ち合わせた頑張り屋さん。
彼女がこのゲームの主人公でなくとも、きっと私は彼女に心惹かれていたと思う。
「わたしくしも貴女が大好きよ。わたくしたち両想いね」
私が差し出した手を、彼女が潤んだ目で握る。もう彼女が躊躇うことはない。
手をつないで、私たちは馬車へと戻る。
しがない悪役令嬢とヒロインが手を取り合って生きていくなんて、誰が想像しえただろう。
でも、世界に一つくらいこんなエンディングがあってもいいのではないだろうか。
端正な顔立ちの俺様王子様とでも、気だるげな色気漂う先輩とでも、誠実で優しい騎士様とでもない。この世界に綴られたのは、オールドローズとエリーシアの物語。
その結末はきっとこういう文章で締めくくられていると思う。
こうして、2人はいつまでも仲良く、ずっと幸せに暮らしました、と。




