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End : シシー

「ごめんなさいね、ローズ様。お待たせしてしまって」


「着いたばかりですから、どうぞお気になさらず。お仕事、順調そうですね」


「ええ」


にっこりと彼女は笑う。

その表情が、領主としての日々がとても充実しているのだと何よりも語っていた。本当に経営が好きでたまらないのだろう。


「ところで」


席に着くなり身を乗り出して愉快そうに声を潜める。


「最近はどうなのかしら? どなたか、仲良くなった方はいらして?」


どういう意図だろうか、彼女は会う度に聞いてくる。

お決まりのように、何もと返すと、


「まぁ、皆様、情けないこと! 結局、わたくしの一人勝ちということかしら?」


扇で口元を隠しながらも、勝ち誇ったように高笑いをする。

悪役令嬢としては見倣いたいくらいの見事な笑い方だった。

婚約の破棄と同時に女性領主第1号として、シシー様は貴族社会を大きく騒がせた。

爵位の継承はごく平和的にお願いをした結果と言っていたけれど、彼女が言う平和と一般的に認識されている平和が乖離しているであろうことは想像に難くない。

それでも、引退したお二人から時々豪華な夜会の招待状が送られてくるのだから、以前ほどの贅沢さではなくなったとしても彼女なりにちゃんと両親を気遣っているのだと思う。

いつも通り、近況の報告をしあって――とは言っても結構な頻度で会っているから、そんなに言うことはないのだけれど――落ち着いた頃、シシー様は呟いた。


「いずれは、海を渡って自らの目で取り扱う品々を確かめてみたいものですわ。その時はもちろん、ローズ様にもお付き合いいただきますから、そのおつもりで」


「わたくしもですか?!」


彼女は驚く私を見つめて目を細める。


「あら、わたくしをこのようにしたのは貴女でしょう? 責任はとっていただかないと」


楽しそうにころころと笑う。

このように、と言われても、以前より少し柔らかな雰囲気に、そしてよく笑うようになったくらいしか私にはわからない。


「エリーシアさんもその頃には中央教会からお戻りでしょうし、3人で見て回るのもいいかもしれませんわね」


エリーさんの名前が彼女の口から出てくるとは思わなかった。

現在、エリーさんは治癒魔法について深く学びたいと中央教会に留学している。更にお役に立てるように頑張ってきますと意気込んでいたけれど、エリーさんは一体どこを目指しているのだろう。

距離があるので頻繁にとはいかないものの、休みの日にはお互いに訪ね合ってもちろん今でも仲良しだ。


「ローズ様のように直接お会いしているわけではありませんけれど、手紙のやり取りはしておりますのよ? わたくし、彼女とは協定を結んでおりますの」


フフッと、意味深に笑う。

きっとその意味を訊いても教えてはくれないのだろう。


「公爵様、商人が参りました」


「ローズ様、少しだけ席を外してもよろしくて?」


執事からの耳打ちに、シシー様が席を立つ。忙しい様子に退座の意を伝えると、


「すぐに戻ってまいりますから、わたくしの為にもお待ちになっていただけると嬉しいですわ」


主人の意思を汲んで、控えていた侍女がすぐにお茶を入れ替えて軽食を運んでくる。

シシー様は私の手を握り、再度念押しして部屋を出て行った。その足取りからも、彼女が忙しい毎日を楽しんでいるのがよくわかる。否、楽しいと言うより幸せなのだろう。

私は領主補佐として、エリーさんは聖女として、シシー様は領主として、それぞれの道を歩んでいる。

女性が一人で気楽に生きていけるほど世の中は整ってはいない。きっとこれからも大変なことが色々とあると思う。でも、大丈夫。

だってこれは、私たちが選んだ、私たちの人生なのだから。

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