End : フリード
私の卒業を機に、王都に残っていた兄と共に私は領地へと帰ってきた。
あの日以来、フォーロマンにいるときは、このバルコニーから一緒に景色を眺めるのが習慣となっていた。
そうしてその終わりに、いつも額に彼から祝福を受ける。今日もそのはずだった。
兄が前髪をすく。だから、私はそっと目をつむった。
けれど、いつまでたっても額に落ちるものはない。おかしいな、と様子を窺おうとした時、そっと触れるものがあった。額ではなく、唇に。
慌てて目を開ければ、兄が不安そうに微笑んでいた。
「……嫌、だったかな?」
「……いえ」
自分でもよくわからないけれど、嫌悪感はなかった。
近親婚は上位貴族にとって遠いものではないからだろうか。それとも、兄とは全く血がつながっていないからだろうか。
「……本当、に……?」
「ええ、ただ、そのおどろ――っ?!」
言い終わる前に強く抱き寄せられ、深く唇を重ねられる。
突然のことに息の仕方も分からず、私は翻弄されるしかない。立っていることができなくて、倒れそうになり支えを求めた手をとられる。指が絡まってくる。
「……義父上にはもう俺の想いは話してある。ローズの気持ち次第だ、と言われた」
荒い息で、兄が告げる。
「好きだよ、大好きなんだ、一人の女性として愛してる」
繰り返し、何度も何度も囁かれる。
好きだ、と告げられているはずなのに、好きになって、と乞われているかのようだった。
私の頬に触れる手も声も、彼の何もかもが震えている。
「――……わたくしも、好きです」
私の言葉に、やっと彼の告白が止まる。
単純な話だ。
嫌悪感がなかったのは、私もこの人を想っていたから。彼の告白で気づくなんて。
「……今、なんて……?」
「わたくしも、貴方を一人の男性として愛しております」
兄の目から涙がこぼれた。
ぽろぽろと玉のような粒が溢れては落ちていく。
「……す、すまない」
彼自身も自分が泣いていることに驚いてるようだった。
貴族の世界でフォーロマンの養子、クォーターの後継者、その呼び名がフリード・フォーロマンに代わるのにそう時間はかからなかった。生い立ち故に人のあしらい方がうまく、先を読むのに長けており、勉強も、仕事も、全てをスマートにこなす彼が、子どものように泣いていた。
かつて、誰もが知っている子守唄を兄が知らなかったのを思い出した。
この人は、愛情の受け方を、愛情の伝え方を、知らないのだ。幼い頃に与えられなかったから。
今までにあの噂を鵜呑みにし、私に近づこうとした反王党派はたくさんいたらしい。
それが私の元に来なかったのは、兄が私に代わって一人で対処してくれていたからだと父に聞いた。
私の傍で、私を想い、ずっと私を守ってくれていた人。
彼の頬を包み、涙をぬぐい、想いをこめて私から優しく口づける。
そして、どちらからともなくもう一度。
先ほどのような急いたものではなく、呼吸を合わせ、お互いの存在を感じさせるような、唇から互いの想いが染み込んでいくような、そんな口づけを交わす。
「涙は止まりまして? これから毎日お伝えしますのに、その度に泣かれては困りますもの」
おどけて言う私に、恥ずかしそうに兄が笑う。
子どもの時に受けられなかったのなら、今からゆっくり伝えていけばいい。時間はたっぷりある。
だって、私たちはこれから二人で同じ人生を歩んでいくのだから。
「愛してるよ――……俺の、俺だけのローズ」




