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End : セルジュ

「ローズちゃん、お帰りなさい!」


夫人が私を抱きしめてくれる。

「ようこそ」でも「よろしく」でもなく、「お帰りなさい」と言うところに夫人の優しさを感じた。

先日、無事に学院を卒業した私はこれから数か月の間、このナイトスター邸で花嫁修業をするのだ。


「ローズ、ありがとう、本当にありがとう!!」


握手をしようと手を差し出す公爵を押しのけたルイザ様に、強く抱きしめられる。彼女の声は涙ぐみ、公爵はむなしく自分の手を見つめていた。


「さぁさぁ、入ってちょうだい! お部屋、新しくしたのよ!」


もう何度も訪れていたので今更案内もないのだけれど、セルジュ様の隣、私のために準備されていた部屋は綺麗に改装されていた。ナイトスターの趣と少し異なる装いは、女性陣と男性陣でかなり意見の相違があり、女性が勝利した結果らしい。

今日もたくさんの花が飾られている。もちろん、オールドローズで。


「――あちらの扉は? 以前はありませんでしたよね?」


「あれは、私の部屋につながっている」


「えっ?!」


まだ、結婚前なのに?!

私の動揺に彼は慌てて言葉を繋げる。


「安心してくれ、私は使わない。表の扉を使うと約束する。ただ、貴女は、その、貴女が望むときに私に会いに来てほしい。もちろん、望まなくても来てくれて構わない。いや、おかしなことを言ったな、そうではなくて、つまり――」


彼も動揺している。

思わず笑ってしまった。


「笑わないでくれ。その、必死なのだ。貴女が嫌がって、婚約をやめるかもしれないと――」


背伸びをして、片手で彼の頭にそっと触れる。


「やめるかも――その続きは?」


「いや、なんでもない」


私の手にすり寄るように頭を傾げ、彼は目を細める。

触れる絹糸のような髪がくすぐったい。

こんな綺麗な人に言うのは何だけれど、可愛いと思ってしまう。

特に何がきっかけということではなく、一緒にいる時間が積み重なって、そうして私たちは共に歩んでいくことを選んだ。

あれ程行きたくないと言っていたのが嘘のように、このナイトスターの実家にも通い慣れてしまった。

出会う度、顔をしかめられ、何かしら文句をつけられていた日々。

あの時は、こんな日が来るだなんて想像もしていなかったのに。


「ローズ嬢、なにか?」


言ってしまえば、彼が困るのが分かっているので、私は笑ってごまかす。


「いいえ、何も――」


夜会で真っすぐに一人で立っていた強さとか、責任感が強すぎてすぐに自分を責めてしまう弱さだとか、無造作に髪を束ねているのは他人に触れられるのが嫌でいつも自分でやっているからとか、全てにおいて力加減が下手なので意外に不器用だということとか、一緒にいてたくさんのことを知った。

その全てが、今の私には愛おしい。


「――ただ、貴方のことが本当に好きだなと思いまして」


途端、彼に抱きしめられる。

まだ慣れないこの気恥ずかしい空気の中、私もそっと彼の背に手をまわした。

見つめあい、私たちは恋人同士のキスを交わす。何度も何度も。

やがて、彼は私の首筋に顔を埋めて深いため息をつき、それから、控えめに言葉を口にした。


「その、やはり私も、あの扉を使ってもよいだろうか……?」

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