表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/137

Side:ユーリウス

「わたくしたち臣下は、国に、そして民を導く王家に仕えるために存在しております。決してあなたの都合の良いお人形ではございません」


凛然と去っていく後ろ姿に感じたのは「恥」だった。久しく忘れていた感覚だった。

当時は愚かにも自分は間違っていないと言い聞かせた。

だが、彼女と目を合わせた時、必ず先に逸らすのはこちらだった。

なんら間違っていないはずなのに、この苦い思いをなんと表現すればいいものか。

そうして澄み切った瞳の如く、彼女の心にもまた一片の曇りもないと分かった時、あの強烈な羞恥心と共に、庭園で言い放たれた彼女の言葉が蘇った。

笑顔の裏に毒と刃を隠し、隙あらば私腹を肥やそうと、利権をむさぼろうと、目的の為には他者を踏みつけることを厭わない者たち。

あのようにはならぬと、何者にも染まらぬと、決めていたはずなのに。

もし、ここで立ち止まっていなければ、自分は確実にあちら側の人間に成り下がっていただろう。

対峙し、嫌悪していた対象に。

彼女に感謝した。

そして、同時に思った。

欲しい。

彼女が欲しい、と。

生まれ落ちた時から、身も心もこの国のために捧げる覚悟はできている。それでも、渇きを覚える瞬間があった。

何かを強く望んだのは、初めての事だ。

目を閉じれば彼女の姿が浮かび上がる。風のざわめきに彼女の声が混ざったように思える。

いつからか、彼女といると、この時間が永遠に続くことを願うようになっていた。

王としての心構えを告げた時、俺をその場所に戻してくれたのはお前だと、すぐにでも引き寄せ、口づけたかった。


「殿下、ただいま戻りました」


近づいてくる足音に思考を中断させる。

入ってきたのは、侍従の一人。


「ご指示の通り、楽隊に曲目の変更を伝えてまいりました。ですが、あの、本当によろしかったのでしょうか? あの曲は、舞踏曲としても難易度が……」


「愚かだと思うか? だが、ただでさえ出遅れているのだ。手段を選んでいる場合ではないだろう。それに、彼女は昔からダンスだけは得意だった。いや、今はダンスもと言うべきか」


「はい?」


「独り言だ、気にするな。とにかく、これは決定事項だ。わかったら、下がれ。成人の儀までに仕事を終わらせたい」


「承知いたしました」


遠ざかっていく気配と共に部屋に静寂が戻ってくる。実のところ、仕事はほとんど終えていた。

思考を彼女へと戻す。

2年と言ったが、当然ながらそこまで時間をかけるつもりはない。

令嬢の周りには複数の男性がいる。

彼女はなぜか自らへのアプローチを相手の奇行ととらえるフシがあるため、今のところ深い仲になった者はいないようだが、それも時間の問題だろう。

たとえ相手が誰であっても、譲るつもりはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ