6 悪役令嬢脱却への道 4
教室に足を踏み入れた途端、どよめきが起こった。オールドローズ様、クラス間違えてますよ、そう声をかけようか迷っている雰囲気が伝わってくる。
それらを無視し、リィンの前に立った。さらにどよめきが起こる。
「リィンさん、こちらを受け取ってくださる?」
私の合図に侍女が持っていた荷物をすべて机の上に置く。どさっという音と同時に机が悲鳴を上げた。袋に入っているのは、この1年で使う教科書一式と相当分のノートとペン、インクなどだ。
かなり重かっただろうに、私が半分持つと言ったら逆にひかれた。今まで侍女にもつらくあたっていたのだろう。泣けてくる。
「わたくし、昨日中庭で魔法の練習をしておりましたの。ところがコントロールを誤って茂みにぶつけてしまったのですわ。リィンさん、あちらで何か探し物をしてらっしゃいましたわね。もしかして教科書などをお忘れになっていたのではなくて? だとしたら、申し訳ないですわ。きっとわたくしの魔法で破損してしまいましたもの! ですから、もってまいりましたの」
リィンが余計な口を挟まないよう一気に言い切った。
「ただ、特注のため、ほらご覧になって。すべてに我が家の紋章が入っておりますでしょう? もしこちらを拾った方がいらしたら、きっとわたくしに持ってきてくださると思うの。ですから、今後、紛失するようなことがございましたら、まずわたくしに尋ねてくださる? きっとわたくしのところに届いておりますから!」
教室中に響き渡る声で暗に告げる。彼の持ち物はオールドローズのものである、と。そして、何かあった場合はすぐに伝わり、ひいてはそれは侯爵家に喧嘩を売る行為になる、ということを。
それにしても1年でよかった。2年生からは選択授業が主になるため、彼の教科を調べるところから始めなくてはならず、すぐに準備できなかったもの。
「あの、えっと……」
リィンの目が泳ぐ。私の言いたいことは伝わっていると思う。ただ、申し出を受けてよいものか思案しているのだろう。
「あら、受け取っていただけませんの? もしや、わたくしのしたことが迷惑とでもおっしゃるつもりかしら?!」
「いえ、決してそのようなことは! ただ、あの、僕は……」
「では、受け取っていただけますわね。よかった。それでは、ごきげんよう」
有無を言わせず押し付け、とっとと教室を立ち去る。何事かと集まっていた人垣が一斉に割れた。
かなり強引な手段だったが、これで少なくとも彼の持ち物に手出しする人間はいなくなるだろう。