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48 聖夜の事件 1

いよいよ聖夜がやってきた。

何よりも大事な日だ。私ではなく、エリーシアにとって。

この日のイベントで、ヒロインのEDが確定するのだから。

殿下だとは思うが、設定が大幅にゲームから外れてしまっているため万が一ということもある。

誰であっても私の行動は変わらないのだけれど、ゲームの一ファンとしても純粋に興味があった。

エリーさんは誰と踊るのかしら?

私のそわそわを勘違いしたらしいシシー様が、


「ローズ様はご存じ? 聖夜のジンクスを」


「聞いたことがありませんわ。どういうものなのでしょう?」


「聖夜に想いあった男女が学院の庭園でダンスをすると、神の祝福が訪れ二人は永遠に結ばれる、というものですわ。ロマンチックですわよね」


「まぁ、初めて聞きましたわ」


……はて。

去年、リィンと庭に出た時は誰一人いなかったのに、どういうことだろう。たまたまアイドルタイムにでも遭遇していたのだろうか。


「そういえば、ローズ様は去年、セルジュ様と踊られていないとお聞きしましたわ。今日は張り切ってらっしゃるでしょうね」


彼女がフフッと笑う。

セルジュ様と言えば、気になることがあった。ここ最近、ふとした拍子に塞ぎ込むようなそぶりを見せることが多くなっていた


「あの、シシー様は、セルジュ様をどう思われます? 何か、元気がないように思われるのですが」


「あら、ごめんなさい。わたくし、気づきませんでしたわ。いえ、でも確かにそう言われるとそうですわね。公爵領のお仕事で何かあったのかもしれませんわ」


色々ありますから、と彼女は続ける。

先頭に立って領を導いている彼女らしい言葉だった。

たしかに、セルジュ様も兄も、卒業を前にしていよいよ本格的に領主としての仕事に携わるようになっている。

領土の問題ならおいそれと訊くわけにもいかない。それに、兄の方が相談には向いている。あとで兄に声をかけておこうと決めた。


「そうそう、殿下もローズ様のことを気にしてらっしゃいましたわ。ぜひ踊って差し上げてくださいませ」


シシー様は普段と変わらない笑顔でそんなことを言った。

ゲームでもそうだが、仲が悪いようには見えないのに、シシー様はなぜそんなに簡単に殿下を譲ろうとするのだろう。あくまで親が決めた関係であり、ビジネスライクなものなのだろうか。


「あの、シシー様は――」


私が疑問を口にしかけたところに、王宮の兵がやってくる。

私たちは先ほどまでシャル様にお呼ばれしていたのだ。

どうやら第2王妃がシシー様をお呼びらしい。


「申し訳ございませんけれど、のちほど参りますとお伝えいただけます?」


シシー様がちらりと私の方を見て、兵に告げる。

特に事件などは起こっていないが、必ず、私の周りには誰かがつくことになっていた。彼女はそれを気にしているらしい。

兄は一足先に夜会の会場を見回っており、騎士でもなく、ましてや平民で獣人のリィンが用もなく王宮に入ることはできず、セルジュ様が一緒についてくださっていたのだが、用事があると今すこし席を外していた。


「シシー様、わたくしのことなら大丈夫です。どうか先にご用をお済ませください」


「ですけれど」


「ここは王宮ですから、怪しい者は入ってこられませんわ」


さすがにシシー様に王妃より私を優先させるわけにはいかない。


「……わかりました。終わりましたら、すぐに戻ってまいります」


シシー様の姿が扉の向こうに消える。

そこへ、


「フォーロマン侯爵令嬢ですか?」


掛けられた声に振り返ると、いきなり口を押さえられた。


「っ?!」


腕を掴まれ、柱の陰へと引き倒される。

口元の手に噛みつき、蹴り上げ、なんとか逃れようと懸命にもがく。

だがいくつもの腕に拘束され抵抗もむなしく、後頭部に衝撃を感じた瞬間、私は意識を失った。

その後のことは、はっきりとは覚えていない。

男たちに見張られたまま、馬車でどこかへ運ばれていたようだった。

どのくらいの時間が経ったのか、時々意識が浮上するたびに魔力を流しておいたが、それもやがて尽きてしまい、再び深い闇の中へ意識は落ちていった。

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