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43 魔法の大会

最上級生による魔法大会が始まった。

4年間の学習の成果を披露する模擬戦である。

とは言え、通っている子息子女には家格が付加するため、初めから優勝者は決まっているようなものだった。

例年ならば。

今年は違う。

公爵VS侯爵、決勝戦はセルジュ様と私の兄・フリードの対戦だ。

ゲームでも同じだった。

ここでお兄様、いえ敢えてレオ様と言おう、レオ様はいつもの通りやる気もなく適当なところで敗退するつもりだったのだが、応援に来たヒロインに触発されうっかり本気を出して決勝まで勝ち進んでしまう。

最終的に、公爵令息にあと一歩というところで負けることとなり、ついつい熱くなってしまった自分に驚きつつ、ヒロインに頑張った慰労としてデートをねだる、という流れだった。

そこに登場し、散々負けたレオ様をバカにするのがローズであるのも忘れてはいけない。

もちろん今の私がそんなことをするわけがないけれど。

王都にある野外劇場を借りて大会は行われる。

武器は一つだけ持ち込みを許可されているが、あくまで魔法学院。

剣ならば刃先をつぶし、決して武力のみの戦いにしてはならない。


「試合開始!」


固唾をのんで在校生たちが見守る中、合図と同時に中央の舞台に精霊の光があふれだす。結界が張られているとはいえ、いきなりの全力に会場がざわつく。

兄はショートダガーを持ち込んでいた。セルジュ様の水弾を、氷の槍を、その風ではじき、あるいは巻き込んで空へと散らせる。

そして、自らの投げた短剣を今度は風を操り、自然の法則を無視した動きで飛ばしていく。

一方のセルジュ様も、大剣でつむじ風をぶった切るという力技を見せ、水で、氷で、兄を追い込んでいく。

どちらかというと防御に特化した風魔法を華麗に攻撃に変じる兄も、魔力少な目と言いながら大技を連発するセルジュ様も圧巻の一言だ。

ゲームでもあった戦いだが、実際目にすると迫力が違った。


「す、すごいですね。これが上位の方々の魔法……」


隣でエリーさんが呟く。観覧している皆がそう思っていることだろう。

これが、上位貴族なのだ。

有事の際には陣頭に立ち、指揮を執り、その魔力で持って国を守る。

ちんけな魔力でも私が上位貴族として安穏としていられるのは、ひとえに私が女だからだった。血と魔力を男子に繋ぐ、貴族の女はそのために存在しているから。まぁ、私の場合は父が娘に激甘なため、のんびりしていられると言うのもあるのだけれど。

それにしても気になるのが2人の表情だった。魔法を放ちながら何か言いあっているようなのだが、如何せんここからでは全く聞き取れない。


「今、オールドローズ様のお名前が出ませんでしたか……?」


「……ええ、聞こえた気がするわ」


相変わらず、何を言っているかまではさっぱりわからないのだけれど。


「リィンさんは、わかりましたか?」


エリーさんが私を挟んで座っているリィンに話しかける。


「えっ?! い、いいえ、全然! 何を言っているかなんて全く!」


リィンが何とも言えない顔をしている。

と、そこへ突然、緊迫した空気を破る試合終了の鐘が鳴る。

どうも魔法に耐え切れず、結界を維持していた魔石が壊れてしまったらしい。

レオ様のルートではないからだろうか。盛り上がった割に引き分けという、なんとも消化不良の結果に終わった。


「お二人とも、おめでとうございます!」


試合後、健闘を称えに訪れた私の声に、兄とセルジュ様が振り返る。

女生徒の悲鳴があがりそうな笑顔を浮かべ、2人ともが胸に迎え入れるように手を伸ばした。


「えっ……」


気持ちは兄へのところだけれど、さすがに次期公爵を蔑ろにするわけにはいかない。

かと言って、婚約者でもない男性に抱きつくのは、やはりおかしいだろう。

とりあえず、左右でそれぞれの手を取り、場を何とか誤魔化す。


「途中で終了になってしまったのは残念ですけれど、とても素晴らしい試合でしたわ」


一緒に観戦していた2人にも同意を求めて振り返った私は、思いのほかリィンとエリーさんが近くにいるのにぎょっとする。


「はい、勉強になりました」


「そうか、それはなによりだ」


皆、にこにこしている。

しているのに、何だろう、この空気は。

なぜか気まずい。


「あらあら、労をねぎらいにまいりましたのに、先を越されてしまいましたわね」


そこへ、この空気とは裏腹なのんびりとした雰囲気で殿下とシシー様が現れる。

ふと殿下と目が合ってしまった。嫌な予感しかない。


「どうだろう、シシーと話していたのだけれど、これから2人の慰労会を行うというのは?」


さわやかな笑顔で言ってのける。


「でしたら、わたくしはここで……」


「どこに行くのかな、オールドローズ嬢?」


「いえ、用事を思い出しまして」


「そんな寂しいことは言わないでほしい。僕は君で楽しい時間を過ごすことを心待ちにしているというのに」


「今なんとおっしゃいました?」


「君と楽しい時間を過ごすことを心待ちにしているよ」


思わず漏れた本音をさらりと言い直したわ、この男!

絶対に帰ってやる、と鼻息荒い私をシシー様が見つめていた。

しまった。

婚約者がほかの女と楽しそうに――楽しいのは彼だけだが――話しているのを見て、良い気持ちの訳がない。

慌てて言い訳しようとする私に、シシー様が本当に嬉しそうに笑う。


「よかったですわ。ローズ様、殿下とのお茶会にお誘いしてもほとんど応じていただけませんでしたから、てっきり殿下とあまり仲がよろしくないのかと心配しておりましたの。杞憂でしたのね! エリーシアさん、今日はローズ様と楽しくお話できそうですわね」


「はい! 私も楽しみです!」


2人の天使にほほえまれ、NOとは言えない雰囲気になってしまった。そして、その横では悪魔が笑っている。


「……参加……させていただきます……」


うつろに呟く私を見て、悪魔がどこまでも楽しそうに笑っていた。

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