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4 悪役令嬢脱却への道 2

食堂に入ると、バーガンディーの私も含めて紫、青、オレンジ、緑など、前世では考えられないような鮮やかな髪色が行きかっている。その中で黒い髪のリィンはひときわ目立っており、すぐに見つけられた。


「ごきげんよう、リィンさん」


昨日はうっかり前世の癖で呼び捨てにしていたが、ここではごく親しいもの以外、御法度だった。気を付けなければ。


「……フォーロマン様?! お召し物が制服でしたので、気が付かず、申し訳ありません」


「いいのよ。一度着てみたかったの、こちらの服。昨日の出来事がいいきっかけになったわ。似合うかしら?」


「はい、とても。ドレスもお似合いでしたが、制服はフォーロマン様の美しさが一層際立ちますね」


ぐっ。さすが攻略対象。たとえ悪役令嬢に対してもそのスキルが発揮されるとは。しかも1枚絵にできそうな笑顔でだなんて。

制服も気に入ってるから、昨日のことは本当に気にしないでね、という念押しのつもりで声をかけただけなのに、思わぬダメージを食らってしまった。

慣れぬことに咄嗟に返事もできず固まってしまっていると、


「なにをしている」


昨日と同じひどく冷たい声がかかった。


「……あら、ナイトスター様、ご機嫌いかかがでしょうか」


現れたのは美貌の公爵令息セルジュ・ナイトスター。

ナイトスター家の長男で、またの名を氷の貴公子。氷というのは白銀のその髪と相まってめったに笑わずいつもクールだから。彼に関しては、特に理由に思い当たらないがこちらを蛇蝎のごとく嫌っている。

まぁ、お世辞にも良いと言えない性格のローズだ。覚えていないだけで何かしたのだろう。ちなみにローズは貴族と美しいものが大好きなので、セルジュ様に悪い印象はない。

3年生で王子の友人であり、いつも彼に付き従っているため、殿下のルートでは王子と共に主人公の罪状を述べ、断罪してくる。つまり、攻略対象外ではあるが関わりたくない人間ナンバー1である。

昨日も昼食時、ローズが平民をいじめていると思ったらしく声をかけてきた。リィンが誤解だとフォローしてくれたが、周囲も含めて彼の説明に納得した人間は一人もいないだろう。まだ入学して少ししかたっていないというのに、日ごろのローズの行いがしのばれるというものだ。


「リィンさんとお話ししていただけですわ。制服姿をほめていただきましたの」


「相変わらず着飾ることに余念がないと見える。だが、貴女には他にすべきことがあるのではないか?」


水晶のように澄んだ青い目を眇め、こちらをバカにしたように告げてくる。徐々に打ち解け、ヒロインには最終的に笑顔すらみせるようになるというのに、私にはこの顔である。まぁ、仲良くするつもりなどないからいいのだけれど。

それはともかく、彼の言う「すべきこと」とは、勉学のことだろう。

ええ、わかっているわ。

入学してからというもの、教科書を開いた覚えは一切ない。その記憶を肯定するように、午前に受けたどの教科も言葉は理解できるのに言っている意味が分からないというレベルだった。

自分の設定を改めて振り返る。

努力が嫌いで、座学は下から数えたほうが早く、魔法なども初歩レベルが辛うじて使えるのみ。その割に気位だけは誰よりも高く、地位と美貌に胡坐をかき、すべてを他人任せという本当にどうしようもない人物――ここまでダメ人間にしなくてもいいと思うのよ……。

否。ひとつだけ、ダンスだけは得意だった気がするが、前世の感覚を思い出した今、うまく踊れる気がまったくしない。


「ちょうど、ナイトスター様にご相談したいことがありましたの。もし、よい家庭教師をご存じでしたら、ご紹介いただけないかしら?」


「――……は?」


あら、美形の間抜け顔。ある意味貴重だわ。


「わたくし、ずっと療養しておりましたから、他の方より遅れていることは重々承知しております。ですので、いろいろと教えていただける優秀な方を探しているところなのです」


前半は本当だ。

ゲームの設定なのかは知らないが、幼いころはベッドの上にいた記憶しかない。10歳を超えてやっと外出の許しが出たくらいだった。この経験が少なからずローズの情操部分に影響を与えていることは否めない。

後半は意趣返しも含んでいたが、昨日から考えていたことだった。

平民落ちした時のために、侯爵令嬢という地位に忖度しない、まっとうな感覚の人物に教えを請う必要がある。学院の教師はだめだった。そして父に頼むのもだめだ。その結果が今のこの状態なのだから。


「……セルジュ、行くよ」


セルジュ様が口を開きかけたところに声がかかる。殿下だった。

少し離れたところにいて、こちらに近づいては来ない。


「お目にかかることができ光栄でございます、殿下」


最上の礼でもって挨拶をすると、一緒にいるのが私で、しかも制服を着ていることに殿下は一瞬目を見開いたものの、すぐに興味をなくし元の表情に戻った。王族は入口に警備が付く特別室での食事となる。そこへ向かう途中だったのだろう。セルジュ様が慌てて、殿下に付き従う。

その姿が扉の向こうに消え、やっと食堂に騒々しさが戻ってくる。私もリィンに別れを告げて、いつものサロン席へと向かった。疲れる時間だった。


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