3 悪役令嬢脱却への道 1
穏やかに静かに暮らす。
そう昨晩決意したばかりだったのに、さっそく朝からひと悶着あった。
学院に行くためにドレスを持ってきた侍女に、制服を着るからと告げた後の問答の面倒なこと。侯爵令嬢にあるまじきと最後まで抵抗されたものの、何とか今しか着れないものだからと押し切った。
パーティーに着ていくようなドレスを学校に着ていくのがおかしい。周囲からの冷めた視線を羨望のまなざしだととって、モデルのようにねり歩いていた過去の記憶を葬り去りたい。思い出すだけで辛い。
大体、昨日のお気に入りのドレスにしたって、その昔しつこいローズに辟易して王子が何とかかけた言葉だったのだ。しかも、「そのドレス、とてもきれいだね」である。褒めてる対象は私ではない、衣装だ。
ドレスがきれいなのは、莫大な費用をかけて一流の職人が作り上げたのだから、当たり前である。それなのにローズは有頂天になった。
恋は盲目とはよくいったものだ。
が、もう私は以前の彼女ではない。王子に恋する16歳の悪役令嬢ではないのだ。
制服にしたのは、以前の感覚を引きずっているからか急にコルセットが苦しくなったからだし、対処できない事態に遭遇した際、走って逃げられるようにである。
侍女に言わせれば、制服は毎日の衣装を用立てる財力がない下層階級が着るものらしいけれど、自分の未来がかかっている。知ったことではない。