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Side : リィンについて

「きゃぁっ」


角を曲がったと同時に、飛び出してきた影にぶつかった。小柄な少女だ。倒れそうになるのをすんでのところでなんとか支えた。


「失礼いたしました、レディ。お怪我は?」


「わたくしは大丈夫ですわ。わたくしのほうこそ前を見ておらず……。お怪我はございませんこと、騎士様?」


「お気遣いありがとうございます。わたくしはこの通りなにもございません。レディもご無事のようで何よりです」


無礼者、とお叱りを覚悟したが、少女は気にした様子も見せない。

むしろ、こちらが着ている「狼の門」の服に感動を抱いているようだ。色こそ違うが「狼の門」は職員も制服の着用が義務付けられている。いついかなるときでも「狼の門」の一片を担っているという覚悟と責任を忘れることなかれ、だ。

暑くなってきたので上着の着用を迷ったが、やはり着てよかった。

一方の少女も魔法学院の制服を着用しているところから見て下級貴族――男爵あたりだろうか。

ならば、尋ねてもよいだろう。


「レディ、お伺いしてもよろしいでしょうか。ティーラウンジはどちらの方角に?」


「ラウンジでしたら、わたくしもちょうど向かうところですの。よろしければご案内いたしますわ」


「お心遣い大変ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


姫を守る騎士のように従うのを見て少女がほほを染める。案内役を買ってくれるのだ、このくらいのサービスはしてもいいだろう。

手入れの行き届いた花園を抜け、芝生の広場を通り過ぎる。放課後、のんびりと少年少女たちが思い思いに憩いの時間を過ごしているのは「狼の門」では決してみられない光景だ。


「……そうか」


学院に入ってからずっと違和感を覚えていたが、その理由が分かった。

制服だ。

制服姿の生徒が圧倒的に多い。

自分が学生の頃は、平民はもとより懐事情により制服を着ている貴族たちはドレスを着ている貴族たちから準平民とかエセ貴族と揶揄され馬鹿にされていたはず。

それがどうだろう。今や、ドレスを見かける方が珍しいくらいだ。


「いかがなさいまして、騎士様?」


「いえ、制服姿をよく見かけると思いまして……」


こちらの言葉にころころと少女が笑う。


「薔薇姫さまのおかげですわ。率先して自ら着用してくださり、そうして春のお茶会でも……。おかげで憧れる者たちが皆こぞって……」


「薔薇姫……?」


「い、今のは聞き流してくださいませ。わたくしたち、あの方をこっそりそうお呼びしておりますの」


少女が失言したかのように手を口元に充てる。だが、目を潤ませ「あの方」を語る様子は恋する少女そのものだった。


「――着きましたわ、騎士様。こちらです。それではごきげんよう」


少女に別れを告げ、目当ての人物を探す。こういう華やかな場所で黒い制服はよく目立つ。

ラウンジの一角で数人の生徒たちと談笑している。驚いた。貴族がほとんどを占める学院に獣人というだけでも異様なのに、それが笑っているなどと。

近づいてさらに驚く。彼のすぐ隣に座っている人物。

つややかな葡萄酒色の髪は今にも香りそうで、澄んだ貝紫の瞳に美しく弧を描いた紅色の唇、洗練された所作からも上級の令嬢だとわかる。それが何の憂いもなく獣人に笑いかけていた。

そして彼もまた、彼女の言葉を一言一句聞き漏らすまいと、耳がまっすぐに彼女の方を向き、尾が彼女の一言一言に相槌を打っている。

大切な友がいるため離れがたい、と勧めた転入を頑なに固辞された理由が今ようやくわかった気がした。

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