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Side : セルジュについて

「姉上、訊きたいことがあります」


わたくしの名前は、ルイザ・ランダストン。ナイトスター家の長女。

結婚して夫の領地に住んでいるけれど、用事があって実家に帰ってきたところに、春休みでこちらに戻っていた見目ばかり育った不愛想な弟に呼び止められた。


「以前、私におっしゃいましたね。もし、こ、心から信頼に値する人物がいれば、その人に我が家の事実を伝え、その証を示せ、と」


「信頼……あぁ、あのことね」


好きな方ができたら、と言ったつもりだったのだけれど、この石頭には通じなかったみたいね。獣は疎まれる存在。弟は知らないだろうけれど、過去の一件以来貴族の間では特に。この唐変木、いまいちそれを分かっていないようだったから、その血を受け入れる覚悟があるか、ちゃんと相手に事前に確かめなさいという至極まっとうな忠告だった。が、なぜ今頃その話を蒸し返すのか。


「……あなた、もしや触れさせたの?」


途端にあの鉄仮面が目を伏せ、ほほを染める。それが答えだった。

人生で見る初めての弟の顔に衝撃を受ける。


「そ、それで、どうだったの? 相手の方、気味悪がったの?」


「いえ。興味深げに……とても触られました」


「あらあらまぁまぁ」


思わず笑いがこぼれた。

わたくしには一切名残はないけれど、それでもほんの僅かばかり、耳が生えたであろう場所に触れるとぴりぴりとした感覚を覚える。幼いころは侍女に櫛を入れられるたびに、歯をくいしばって耐えたものだ。弟ならばかなりの刺激になっただろう。


「それで、お相手の方、どなたなの?」


こうなったらとことん話を聞くまでは家に帰れない。

どうしましょう。夫に泊まる連絡をした方がいいかしら。


「……フォーロマン卿の長女、オールドローズ・フォーロマン侯爵令嬢です」


「――……冗談でしょう?」


幼いころは社交場に出ていらっしゃらなかったし、遠目にお見かけしたことしかないけれど、少なくともあまりいい評判は聞かない。実際、かつて弟の口から辛口の批評を聞いた気がする。


「冗談ではありません」


「あなた、ああいう外見が好みだったの?」


記憶を掘り起こす。

彼女はとても美人だった。たしか、豊かな赤紫の髪に、目は菫色だったかしら。目鼻立ちもはっきりしていて、華がある。そのわりに体躯は若干華奢だったような。


「違います!」


「胸が、大きかったわね」


「そういう部分で女性を評価しません!」


じゃあなんなの、と目で続きを促す。

これはいよいよ泊りが決定しそうだ。俄然楽しくなってきた。


「確かに、彼女にはあまりよくない評判がひろまっています。ですが、それは真実ではなく、本当の彼女は思慮深く、努力家で、慈愛にみちていて、あの我儘な振る舞いも義兄思い故の理由ある行動だったのです。彼女に接して、その表面しかみていなかった己の愚かさに気づかされたのです」


まぁ、どんな女性を相手にしても一言二言しか感想を漏らさなかった朴念仁が、こんなに長いこと話すなんて。

これは泊りよ! それ以外考えられないわ!


「わかったわ。夕食のあと、詳しくお話を聞きましょう。場合によっては協力できるかもしれないわ」


とりあえずさっさと食事を終わらせて呑みながら、と考えたところで唐突に思い出した。


「そういえば、あなた最近お酒の趣味が変わったそうね?」


ナイトスター家はわたくしを含めてみな酒豪だ。付き合いでワインは嗜むが、酒というよりぶどうジュースに近いため好んでは飲まない。それなのに、地下の酒蔵にワインがやたらと増え、その割には種類が偏っており不思議に思っていた。が、やっと判明したわけだ。

去年から出回るようになった侯爵領産の「薔薇の貴婦人」。

確か彼女はまだ未成年だが、ラベルのシルエットは記憶にある彼女の姿そっくりだった。そして彼女の髪の色もまた葡萄酒を彷彿ほうふつとさせる。


「そういうことなの? だから飲んでるの? これだから男っていやらしいのよ……!」


「そ、そういう不純な理由ではありません! ただ、私は彼女を想って……」


間抜けにも墓穴を掘った。


「想って、何なの?」


「いえ、何も」


顔以外取り柄がないと思ったけれど、可愛いところもあるじゃないの。


「……そうね、まずお茶会を開きなさい。フォーロマン嬢だけでなく、学友の交流を深めるという名目がいいのではないかしら。シシー様にもお声がけして、フォーロマン家のお兄様も一緒なら彼女も気後れせずに――」


一泊どころか、当分戻れそうにないわ。ごめんなさい、あなた!

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