15 アスター男爵邸での出来事 1
休暇に入り、私と兄は領地へと帰った。
年を越し、暖炉の火なくして過ごせないほどに季節は一層進む。舞踏会ではまだ夜も肌寒い程度だったのに。
私は相変わらず勉強の日々で、とくに最近出される課題が難しくなっており、それをこなすのに必死だった。また、兄とはしばしば街へ一緒に出掛け、その度に父を悔しがらせている。
兄は兄で父の仕事の補佐を任されるほどになっていた。忙しいという割に二人ともとても楽しそうだ。
リィンも一族の元に帰るのかと訊いたところ、あちこちを移動しているので難しいらしく、学院の寮で過ごすらしい。戻ったら渡そうと、いろいろお土産を用意している。
そんなある日、父が知らせを持って帰ってきた。
アスター卿の体調が思わしくないというものだ。
大切な方を二人も続けて亡くし心が弱っていたところに、ここにきて寒さがたたったのだろう。
それに、流行り病で亡くなったのだとしたら、奥様とは別れの挨拶すらろくにさせてもらえなかったのではないだろうか。きっとすぐに棺にくぎを打たれ、地中深くに葬られたに違いない。
それを思うと胸が痛む。
少なくともゲームではレオ様の養父についての話は聞かないので分からないが、兄が養子に行かず一人身になったことで余計に心身ともに弱ってしまったのなら、話をゆがめてしまった私に責任がある。
何とかしてあげたいのだが、と悩む父を前に、一つだけ思い当たることがあった。
リィンとヒロインのイベントだ。
ヒロインの両親は編入の3年前に病気でこの世を去っており、彼女は天涯孤独だった。そんな彼女にリィンは魔法を使って、家族と再会させるのだ。とは言っても、死者を生き返らせるのではなく、故人が大切にしていた場所や物に宿っている意識というものを伝える術らしい。
姿は見えずとも穏やかな光と彼を通して伝えられる愛情のこもった言葉に、彼女は感謝し、心からの涙を流す。そんな心温まるイベントだった。
これができるのなら、アスター男爵の心も少しは慰められるかもしれない。
まずはリィンに確認をとってみるのが先だろう。
場合によっては、一緒にアスター領に向かってもらうことになる。
取り合えず、さっそくその旨を伝える手紙をリィンに送った。
本で読んだのだけれど、と適当なことを書いたため怪しまれるかと思ったが、リィンからの返信は早く、術は可能なこと、そして同行の用意もすぐに整えられることが書いてあった。
さっそく準備をし彼のもとへ向かう。
父は領地があるため離れることができず、父の名代として兄が付き添ってくれることになった。
馬車はフォーロマンの紋章入りの立派なものにした。
滋養のあるものを食べてもらおうと特産品も携えた。先ぶれも出し、正式な訪問であることを告げる。
王都へ1日、そこから3日ののち、やっとアスター領に到着した。
アスター卿は本宅でなく、レオ様が療養していた屋敷に逗留しているらしい。
だが、そこで私たちを出迎えたのは、予想もしていなかった人だった。
「久しいな、フォーロマン嬢」
……なぜ、セルジュ様がここにいるのだろう。