外伝21 中央教国 1
季節は巡り、春へと変わる。
私たちはこの大陸の聖地、中央教国内の12神教の総括である中央教会へとやってきた。
一生に一度は必ず行う巡礼という習わしによって、富裕層は大体成人した年に、一般市民はお金がたまってから、中央教会の加護の神殿へと参詣する。
ただ、殿下やシシー様はおそらく政治的問題で今までそれどころではなく、私も事件の直後だったこともあり家を離れるのを父が不安がったために行えずにいたのだ。
聖女の認定も同時に行う予定でもちろんエリーさんとリィンも一緒に、そしてすでに済ませているセルジュ様と兄も私たちを心配し同行してくれることとなった。
「わぁ、すごい!!」
初めて訪れたエリーさんが息をのむ。
私ももちろん初めてだけれど、ゲームで見たことがあるため、彼女ほどの感動はない。
神殿を取り囲むように広場では色とりどりの天幕が立ち並んでいる。
そこでは献金用の各国に対応した両替所、供物用の様々な捧げものをかたどった人形、供花などを売っており、これらはすべて教会関係者が商っているものだ。
宗教が商売などときくと胡散臭いものを感じるが、価格から考えて儲けはほぼないと言っていいだろう。
どちらかというと身一つで遠路はるばるやってきた者たちの路銀を根こそぎかっさらおうとする不届き者たちへの苦肉の策だと思われる。
今回の私たちの最大の目的はなんと言っても、エリーさんの聖女認定だった。認定といっても能力はすでに合格しているので、正式に教会のお墨付きを頂くための儀式ともいえる。
時間が許すなら、参詣を済ませた後、見学に行くつもりだ。
もちろん私が詣でるのは土の女神様。月の女神様には心の中で感謝をささげ、代わりに私の分のお布施もまとめてリィンに託すことになっている。
神殿内は大陸中から人が集まっているのに、まるで音を出すのが罪であるかのようにとても厳かな雰囲気に包まれ静かだった。聞こえるのは入口に掲げられた鐘の音だけ。
人々はまず大広間に入り、そこから<巡礼の道>と呼ばれる12本の回廊を通ってそれぞれの加護への神殿へと進んでいく。
その入り口をまさにくぐった時のことだった。
訪れたものを歓迎するように鳴っていた涼やかな鐘の音が、一転、私がくぐった途端に不協和音を奏でた。
今までにない音に私に視線が集中する。
「……嘘、でしょう……」
教会に近づけば、私が2つの加護を持っていることがばれる確率が高くなるとは思っていたけれど、本丸は奥の学術研究院と大聖堂であり、手前はいわゆる観光地に近い扱いだからと気を抜いていた。
リィンに忠告を受けてからは魔力を制御しているし、直接再検査でも受けない限り、大陸中から集まっている人の中で絶対にわかるはずがないと思っていた。
「……えっと……わたくし、用事を思い出しまして……」
誰もが私を見ている。目の前の出来事が信じられないような顔をして。
今ならまだ誤魔化せるかもしれない。
そうだわ。土の女神さまへのお布施は兄に託したら……。
視界の隅に、色を失い慌ててばたばたと奥へかけていく司祭様たちが見える。
「どう見ても間に合わないわね……」
この後訪れるであろう出来事を予想して、私はため息をつくしかなかった。