この世界では合同クエスト達成コンパを合コンといいます。~三年目~
合同クエスト達成コンパ、いわゆる『合コン』で知り合った女剣士と、お付き合いをしている。
三年経って分かったことは、彼女が非常に慎重だということ。
ダンジョンに入ると、お宝に辿り着くまで床石のみならず壁や天井まで隅々トラップチェックしないと気が済まないらしい。
その結果モンスターに遭いやすくなっているのだが、レベル上げにちょうどいい。
しかし一緒にいられる時間が長くなるのは嬉しいことだが、帰りが遅くなって疲弊しているところを盗賊にでも襲われたりでもしたら大変だ。
「探知スキルをカンストしたのですか」
「うん、これでトラップも宝箱もすぐに分かるよ」
あ、そんなスキルだけで本当に大丈夫なのか、という顔をしている。
女性が剣士になるには、相当な努力と経験を積まなくてはならないと聞く。
彼女が用心深いのは、きっとその時に味わった幾多の苦難のせいだろう。
できれば魔術師として後方支援するだけでなく、心も安心して任せられる存在になりたい。
だから無理にの能力を信用しろとは言わないほうが得策だろう。
「習得方法、教えてあげようか」
「剣士にも習得できるのでしょうか」
「体内マナ量にもよるけど、できると思うよ」
あ、習得できるかも分からない相手に教えるメリットをすごく考えてる。
別に教えたからっていかがわしいことを要求するつもりはないのに。
いや、手取り足取り教えつつ、ほんの少しでもスキンシップを図れたらいいな、とは思っているが。
いや、そろそろキスぐらいできたらいいな、とも思っているが。
「では、お願いします」
「うん、お願いされます」
色々と考えがまとまったようだけど、不安だな。
表情からどんな心配しているのかは分かるようになったけれど、どんな答えに導いたかまでは未だに分からない。
読心スキルを手に入れてみようか悩むところだけれど、彼女の本心が丸わかりというのも怖い。
この三年間、愛の言葉を何度も伝えているはずだが、彼女からのリターンは一向にない。
俺のことをこれっぽっちも好きじゃなかったら、どうしよう。
「なぜ泣いているのですか」
「いや、その、これはあくびが出ちゃって・・・・・・」
しまった。
「あくびですか」
ほらもう、気を抜いているように見せかけて何か企んでいると思われた。
そんなことないのに、そもそもあくびなんてしていないのに。
しかしよくよく考えてみれば、これほど疑りぶかいのによく俺と付き合ってくれている。
多分彼女が俺と付き合おうと思ったのは、恋愛感情からではない。
何か疑わしい部分があって、それを確かめるために付き合った、というところだろう。
まだ疑いが晴れないのか、それとも惰性で一緒にいるだけなのか。
ああ、冷静に分析すると、また泣けてきそうだ。
「私と一緒にいるのにあくびとは、いい度胸です」
「ご、ごめん、別にそういう意味じゃ」
「どういう意味です」
どうやら悪いことを企んでいると勘違いされてしまったようだ。
しかしジト目で見上げてくる彼女も可愛い。
「お詫びにそこのダンジョンで探知を教えつつ、合成素材取るの手伝ってください」
「あ、はい」
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たしかに、このダンジョンならモンスターも大したレベルではないし、教えやすそうだ。
それにしても、いつも完成されたアイテムしか狙わない彼女が、合成素材を探しているとは珍しい。
「何を合成するの?」
「教えません」
「えーと、素材の名前は?」
「教えません」
「あの、教えてくれないと、探知が教えにくいというか」
「トラップとモンスター探知だけ教えてください」
どうして頑なに教えてくれないのか。
そこまで隠されると余計に気になってしまう。
アイテム探知は不要でモンスター探知が必要ということは、素材はその辺に転がっているものではなくモンスターからドロップされるものだろう。
モンスターからドロップされるものといえば、武具やお守りになるものが多い。
まさか悪いことを企んでいるだろう俺へのお仕置きアイテムか。
お仕置き。
悪魔の角とか翼とか尻尾とか生やしたりして。
ちょっといいかもしれない。
「はやく」
「ああ、まずトラップを探知するにはね」
ああ、この時間いいな。
本当は今日勇者ギルドの面々と魔王幹部の一人を倒しに行く予定だったけれど、皆が気を利かせて休ませてくれたおかげで、俺は今とても幸せだ。
ありがとう、皆。
「では、やってみます」
マナ測定水晶で見る限り、彼女の体内マナ量は問題ない。
剣士になるより、魔術師になったほうがよかったぐらいの量だ。
実家は農家で継がされそうなのを逃げてきた、と合コンでこぼしていたのを聞いたが、それだけで剣士を選ぶだろうか。
「すぐ右の部屋にトラップ反応がふたつ、あと突き当りの丁字路にもひとつ」
「正解。初めてなのに凄い凄い」
「でも、まだ広範囲探知できません」
「剣の腕も少しずつ上げていったでしょ、これからだよ」
最初からダンジョン内すべて探知できたら、習得に三か月かけた俺の立つ瀬がない。
それでも覚えがいいから、一か月もあれば習得してしまうだろうけど。
できれば教える立場を維持したいところだが、彼女はいつも以上にやる気みたいだし、どんどん教えていこう。
「次の角を左に曲がると、闇属性のリザードマンが三体待機しています」
「狩る?」
「狩ります」
では闇属性への耐性を上昇、光属性の加護で体にまとわせて、パワー強化は気分が悪くならない程度に、あとはあれとこれとそれとあれもそれもこれも。
仕上げにレア素材がドロップしやすいように幸運値も上げておこう。
「いつものことですが、色々つけすぎて何が付与されたのか分からなくなります」
「ごめん。気分が悪くなったらすぐに言って」
「そういう問題ではありません」
バフと一緒に呪いもかけられたのではないかと心配しているのだろうか。
これまで幾度となく共に戦闘してそんな悪行をしたことはないというのに、少しも信用されていないのが悲しい。
今日も初めてプレゼントしたワンピースを着てくれているが、それも特性がおいしいだけで、思い入れがあるかどうか。
せっかく彼女が勇ましく戦う姿が拝めるというのに、涙がにじんで見えやしない。
あ、今、もしかしてパンツ見え・・・・・・。
「あの」
「どどどどうかした?」
落ち着け、俺。
涙でほとんど見えなかっただろうが。
「次から、もう少し幸運値を上げてもらっていいですか」
おや、彼女から魔法のおねだりとは初めてではないだろうか。
それも幸運値を上げろとは、相当レアな素材を要求していると見える。
レアアイテムは己の力で手に入れるものだと言っていたのに、そんなに急いで合成したいアイテムなのだろうか。
今日は珍しい一面が沢山見られて幸せだ。
そして彼女に頼られて嬉しくない彼氏がいようはずもない。
「もちろん」
「ありがとうございます」
今から幸運値爆上げ祭りの開催だ。
「夕方までに、終わるかな・・・・・・」
あ、早く帰って合成したいとおっしゃる。
合成屋はどこも早い時間に店仕舞いしてしまうしね、うん。
一緒にいられる時間を惜しんでほしいけれど、やりたいことがあるのなら仕方がない。
悲しいけど、俺泣かないよ。
「この先行き止まりなのですが、床に見慣れない魔法陣があります」
「本当だ。これは・・・・・・魔王幹部が潜伏するアジトへの転移陣じゃないか!」
前にこのダンジョンに潜った時にはなかった。
相当な魔力を流し込まなければ発動しないようだが、少し気を引き締めてダンジョン探索したほうがいいかもしれない。
とりあえず別のルートを通ろう。
「行きましょう」
「え!?」
「アジト、行きたいです」
そんな遊園地へ行くみたいにキラキラした目で言わないでほしい。
「手に入れたいアイテムは、魔王幹部の持っている魔石ひとつあれば作れるんです」
それって魔王幹部の核になっている魔石で、倒さないと絶対手に入らないやつ。
魔法陣を見ても、四人いる幹部のうち、どのアジトに転移するか分からない。
たとえ高位剣士の彼女であっても、連れていくのは危険すぎる。
もしも幹部最強といわれる『火炎のファントム』に当たりでもしたら。
「あ、こういう仕掛けですか」
トラップをあれほど恐れるわりに、どうしてそこを怖がらないのか。
どうしてもう発動させているのか。
どうしてそうまでしてそのアイテムが欲しいのか。
「待っ・・・・・・」
こうなったら何がなんでも彼女を守って、帰ってから理由を聞きだそう。
そしてちょっと叱ってあげなくてはならない。
女の子なんだから、危ないことに手を出しちゃだめだと。
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のちに男魔術師は、女剣士が付き合って三年目のプレゼントとして最高級のお守りを作ろうとしていたことを知って歓喜の踊りを舞うこととなる。
なお、転移先には不幸にも火炎のファントムのアジトだったが、勇者ギルドの面々がトドメを刺すところであり、そこを譲ってもらった女剣士のおごりで飲み会を開いたという。
読んでくださってありがとうございます。
今回は男魔術師の視点で書かせてもらいました。
書いてて気づいたことは、似た者同士だったということです。
そして三年目にしてようやく女剣士がデレ始めたということです。
次こそは決めろよ、男魔術師。