明日へのプロローグ6 派手さはいらない
9話目です。今回も長めです。
残酷なシーン、グロテスクな表現が含まれております。ご注意ください。
ごゆっくりお楽しみください。
あとがきでお会いしましょう。
「お前ら・・・・・わかっているんだろうな?」
俺は身体中に滾る力を理解していく。[リリエルの伴侶]と[気の獲得者]、[フォリエルの加護]。そして[結界術師]。
[リリエルの伴侶]はお互いに存在を感じ交信することが出来るもの。さっきから彼女の悲しみに泣いている声がするが、今はごめんな。目の前を片付けた後で話そうな。
[気の獲得者]で自分だけではなく周囲に満ち溢れる命の光が手に取るようにわかる。
問題の[フォリエルの加護]。俺の身体全体に滾る力の塊はこいつが原因だろう。リリエルに関係した神様だろうと予測はしている。傍らに転がっている母さんの愛刀についての情報が、教会術師達が持つ剣の情報が。勇者コウキの持つ聖剣についても理解してしまう。
同時に扱い方を知らない武器に関しての情報。
戦う為の力をこの加護は与えてくれている。
そして[結界術師]。カレンが授かった祝福。結界魔法。ただ殺すだけの力ではない。誰かを守るための力。
ラヴィエルが碌でもない奴だとわかっているが、この祝福はカレン坊らしい優しい戦う力だ。そこだけは評価してやろう。
刹那、思い返す。――――
―――――転生して14年。見守り続ける傍ら、あの空間が俺の全てだった。そこは正に俺が前世で唯一続けていた剣道場だった。
彼が物心つくまでの5年間、前世では得られなかった答えが得られるかもしれないと、疲労を感じないことをいいことに常に休み無く剣を振った。前世では30年近く剣を振っていた。何も得られなかった。
だから今世こそは。と思い無心で剣を振り続けた。自分の為に。完全に転生したときの為に。
しかし幾ら振れど答えは出ず、何も得られなかった。
それに気がつき、彼と会える時は彼を鍛えるようになった。同時に魔法の練習も一緒に始めた。
俺は練習しながら、教えながら考えた。剣の道とは何を指していたものなのか。俺は何の為に剣を振るうのか。
考えた。剣とは何か。何の為の技か。太刀筋の意味を。体捌きの意味を。
考え続けた。
そして、剣とはどんなに綺麗ごとを並べようと―――人を傷つけ殺めるためにあるもの。術とは―――如何にに効率よく敵を殺す為の技術であるということだった。
それが無数にある答えの中で俺が辿り着いた答えだった。
剣の道とは理であった。しかし理であると分かっても、その先の真理に辿り着こうとも肉体の無い俺には「何も出来なかった」。故にそこから真理へと進むことは「許されなかった」。
気がつけば彼は赤子から少年になり、青年に変わろうとしていた。道を諦めた俺はこれから先の、彼と一緒に見る世界が楽しみで仕方なく、胸に燻った「何か」は消えていった。
しかしこの先彼と一緒にという夢は散った。離れていってしまった。
たかが女神一人に愛されなかったからという非常につまらない理由だけで。
ならば揮おう。
一切の容赦はせず、剣の真理へと、この世界の真理を見つけるために。―――――-
目下、敵は勇者コウキ。ほか教会術師六名。キーラちゃんとクレアちゃんの救出。
武器は傍らの母さんの愛刀と気功。残念ながら魔力は変わらず、結界術も未だ使用不可。だがいける。
「おい貴様!なんで神聖魔法を!おい答えろ!」
「兄さんの傷が治ってる・・・・・・」
「かれんきゅん!!!」
キーラちゃんとクレアちゃんの声が聞こえる。どうやら教育という洗脳は中断したみたいだな。
「大丈夫か?怖かったろ?少し待ってるんだぞ。」
「おい!聞いているのか!」
彼女達に視線を向け言葉を掛けるが、二人は驚愕した表情をしていた。
「兄さん、雰囲気も口調も・・・・・・眼が・・・・・・」
「あ~んかっこいい/// 優しいかれんきゅん!決意したかれんきゅん!」
キーラちゃんは大丈夫だな。そっか、、目の色変わっているのか。忘れていたな。
・・・・・・えっと。・・・・・・なんかやばい子がいるんですが?
はっ!?もしかして洗脳でやられたのか!?尚更さっさと終わらせないとやばいな。
「邪教徒が無視をするんじゃない!僕は勇者だぞ!僕のモノに声を掛けるなよ!」
うるさいな。そろそろ相手してやるか。あとは―――
「聞こえているよ。暁光輝君。顔の回復は終わったみたいだね。それに僕のことはどうでもいいんだろう?本当は君と境遇は同じ筈なのに話も聞いてくれない。なのに自分の話を聞けと煩い。終いには僕の大切な妹と許婚をモノ扱い。なんて傲慢。君さ自己中って言われていなかったかい?」
「ふざけるな!そんなこと言われていない!―――!?!?その言葉!お前も僕たちと同じ転移者か!」
やはり気がついたか。転移者じゃないけどな。それに「僕たち」ね。
勇者コウキは一つ息を吐き落ち着きを取り戻す。
「なるほどね。結界術師のくせに複数魔法を使い、神聖魔法も使用する。ただの邪教徒じゃないわけだ。君がチート持ちってことにも説明がつくね。始末するって言うのは一旦止めよう。僕も無傷では終われないだろうからね。」
さっきボコボコにされたくせにな。だけど俺はお前を始末する。例え見た目高校生くらいの年齢の子供でも許せないんだよ。お前がキーラちゃんとクレアちゃんを苦しめカレン坊を殺した!事実は消えない。その罪を命で支払ってもらおうか。――いかんな。我慢しろ。耐えろ。今は情報を集めろ。
「僕に提案がある。ラヴィエル様も僕を通して君に興味が沸いたみたいだ。どうだい?邪神側からこっちに来ないか?聖女の彼女達も一緒でいい。非常に惜しいけど手も出さない事を誓う。今ファタルで何が起こっているか君も知らないはずがないだろう?その為に手を貸して欲しい。」
控えている教会術師達に動揺がはしる。「勇者様それはいけません」と進言している。
しかし当の本人は「ラヴィエル様から神託だ。文句があるのかい?」とパワハラスマイル。
答えは決まっている。二人は救出。お誘いは丁重にお断りだ。
しかし、この世界で起きていることだと?ポラリスにいて何も聞こえてこなかったが・・・・・・。
「すまない暁君。僕のいたポラリスでは何も世界のことは聞こえてこなかったよ。」
「なんだって!?君は邪神の使徒なんだろう!何故しらない!」
怒ってるけど本当に知らないしな。ていうかリリエルが邪神だったとして『ちがうもん!邪神じゃないもん!―――』違うらしいですよ。幼児退行されておられる。。。はてなんて答えるかな。
「え?本当に知らないのかい?なら何故・・・・・・。いいだろう。僕達がこっちに来た理由を教えてあげよう。それは―――」
要約すると、ザイル帝国からみて西側に巨大山脈を越え、海峡を越えた先に神聖国家レガリスがあり、そこで日本の高校に通う彼らはクラス32人全員が召喚されたらしい。
召喚を行った教皇と聖女達から、邪神達を崇拝する邪教徒達が邪神復活させる活動をしているから阻止してほしいこと。それらの頭目である魔族の王、魔王を倒してほしいとお願いされたらしい。
勇者はコウキともう一人いるらしく、クラスメイト達とはそれぞれ各国で情報収集と邪教徒の始末、対魔王戦に向けて戦力増加を図る為に旅をしていること。
ポラリスに寄ったのは大森林にいると噂されている魔族を倒すためであり、いきなりラヴィエルから神託を受け、今に到るとのこと。
うわぁ。同情するわ。彼等は利用されているんだろうなぁ。お互いに世界に踊らされているものな。気持ちは揺るがないけどな。
特に日本は平和な国だし、子供だから気がつかなかったのかな。教皇たちの言葉に「戦争を仕掛けてきている」等の言葉が含まれていないことにさ。この世界で異種族間の戦争がなく平和にって聞かされ・・・・・・ているわけ無いか。君達の行動が戦争の火種になっているって事も。
この大森林に魔族ねぇ・・・・・・大正解。魔王についても存在している。ポラリスで生まれ育ったのならあの人は有名だよ。
魔族だけじゃない。森の民もいる。どちらにせよ現在大森林の中だ。このまま勇者達を進めるわけにはいかないだろ。
父さんと母さんが大森林に逃げろと言った理由も分かる。両親については不明だがな。
それらを踏まえれば答えは出ている。情報収集はもうやめだ。
母の愛刀を拾う。
「――――ということなんだ。だから君にも力を貸してもらいたい。ラヴィエル様からも今度寵愛を受ければいい。そうすれば邪教徒なんて呼ばれずに――」
「断る。」
「は?」
「断ると言った。ラヴィエル?知らんなそんな神。キーラちゃんとクレアちゃんを苦しめただけで信仰にすら値しない。
それに世界をもっと見ろ。大きな戦争は起きておらず、異種族同士手を取り生活しているだろうが。暁光輝、いや。勇者コウキ。お前達がこのまま進むのならここで止めるのが同郷の誼ってもんだ。」
「君、いや、お前ぇ。僕らと同じなら―と思って優しくしてやったのに!」
「はっ!優しく?馬鹿を言うな。なんと独善的、傲慢。俺は忘れない。僕を殺し、二人を害した貴様を許しはしない。情報提供痛み入るよ。覚悟は出来ているか?」
勇者コウキの顔は歪み、その瞳はどこまでも濁っていく。
「おい!お前ら!あいつを殺す!ラヴィリス様には僕が説明する!あいつは邪教徒!魔法詠唱準備!前衛、僕と一緒にいくぞ!」
これが神に選ばれた勇者コウキの本質か。
・・・・・・いいだろう!我慢は止めだ!反撃の時間といこう。俺達の力を見せてやる。
「はあああぁぁ!」
勇者達が打倒さんと気合を入れ迫ってくる。
剣は所詮、剣の間合いで戦うものだ。斬撃を飛ばそうが、瞬間移動して背後から殺そうが結局は一緒だ。
一足一刀。これで十分である。最低限の動きで敵を効率よく斬る。これが俺の辿り着いた理である。
「死ぃねぇえええ!」
身体強化を掛けた勇者コウキが全力で遠い間合いから、ものすごい速度で接近する。
大上段に構え、全力の唐竹割であると察する。防いだところであの聖剣はそれを無視し俺の命を屠るであろう。
・・・・・・が、斬りあいにおいて基本は一対一。身体強化しようが起こりが分かってしまえば意味が無い。[フォリエルの加護]が更に身体の動きを最適化、補佐してくれる。
先頭を行くは勇者コウキ。ならば一対一。
故に、気を全身に行き渡らせる。構えは抜刀の構え。体は正面正対、右足を半歩前、この刀なら・・・・・・いける。―――間に、入った―――
鯉口を切り、右薙ぎの抜刀。腰を左に捻り更に一歩前へ。刀は鞘を走り、鈍色に光るその狂気を顕にするがそれは刹那。
鎧に覆われている勇者の右脇腹から左脇腹へ奔り抜け、体は勇者コウキとすれ違い後ろへと抜ける。
手には斬った感触。まだだ。―――
「巧く避けるじゃないか!後ろががら空きだ―――へ」
勇者はこちらを振り向くが、上体ごと崩れ落ちる。鎧ごと裁たれ、泣き別れた勇者コウキだったものが二つ転がっていた。
辺りを赤く染め上げる。血液の臭いが蔓延する。それに混じって臓物の臭いが立ち込める。
俺以外の時が止まっている様だった。全員が息を呑み固まっていた。
まだ終わっていない。
一人、また一人と前衛剣士たちの頭と身体を分断していく。
「ヒイィッ!」
こちらに気がついた魔術師達が逃走を始めるが逃がすわけがないだろう。
『祖は山吹の濁流 不動を揺らし 縛と為せ―――グラン・メルト』
俺は土属性中級魔法グラン・メルトを放つ。逃げる魔術師達の足元が泥濘、全員が沈んでいき見えなくなる。
―――ふぅ。終わったか。
魔力は今のでほぼ使い切ったか。未だ成長途中の肉体だからな。カレン坊と共に歩みたかったな。
俺は辺りを見渡し警戒を解く。彼女達は大丈夫なようだ。
しかしその瞳は一人は脅え、一人は・・・・・・うん。やっぱりおかしいな。問題が無ければいいのだが。
兎に角クレアちゃんが心配だ。様子を見ないとな。
「二人とも!大丈夫か!?どこもおかしくはないか?特にクレアちゃん!俺のことは分かるかい?」
二人に駆け寄り容態を確認する。
「兄さん・・・・・・うん。大丈夫だよ。」
「はぁぁぁんカレンきゅん!ありがとう♪いけ好かない勇者を殺してくれて♪ラヴィリスの声も聞こえなくなったしありがとう♪それに凄く!すごーくかっこいい!その金色のお目目に決意した男の顔!はぁぁん・・・・・・」
二人とも無事みたいでよかった。
それにキーラちゃんはやっぱり・・・・・・。
それよりクレアちゃんがやばい。洗脳は受けていないのか。邪神めいた発言をしているし・・・・・・っていうかこれが素のクレアちゃんなのか!?あのお淑やかな性格は何処!
カレン坊。お前の許婚やばいよ。絶対ヤ■デ■だよ!?本当のこと知ったら殺されるんじゃないか?
いや。殺されても仕方ない、な。その時は―――
「それよりも。兄さん・・・・・・教えて。―――あなたは誰ですか?」
はいどうも黄色い翁です!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
戦闘シーンって難しいですね。なるべく詳細に動きが想像しやすいようにがんばります!
それから文章の長さについて、皆さんどうですか?
各話大体4000字程度なんですが・・・多いですか?それとも少ないですかね?
その辺も教えていただければ新章からの目安にさせていただきます。
文体や内容に関してはお察しレベルの私、翁。
ですので、こういう構成やパート入れたほうがいいよ~くらいの優しさで教えていただければ幸いです。
さてさて。勇者達の話を出しました。
ある意味テンプレですね!私らしく彼らとの絡みも描いていきますので応援よろしくお願いします。
流石に32人全員は無理かもしれませんが。
神様が実在し、信仰された世界ファタルなのになんで皆平和なの!?
と思った鋭いあなた。
正解です。ただ間違いでもあります。
『■■ワ■ド・■・■■ス■』
が情報開示の限界ですね!
私が影響を受けた作品の一つでもあります。勘のいいガキはどこにいるかな?
それとクレアちゃんね・・・天使な性格設定で良心設定だったんだけどなぁ。おかしいなぁ(遠い目
追加でご報告です。構成の順番を入れ替えまして、次話は幕間です。
最後に。ぐっだぐだですいません!分かってはいるんですが。いざ筆を取るとズレが出てきてしまって実力不足を痛感しております。不慣れですが頑張りますので温かく見守ってくれれば幸いです。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
もし続きが気になる!面白かった!と感じていただけましたら、ページ下部の評価ボタンとブックマークをよろしくおねがいします。
またお会いしましょう。黄色い翁でした。