明日へのプロローグ3 僕、俺、私は視ているゾ
6話目でございます。予定していたより長くなってしまった・・・
構成の甘さを実感しています。
楽しんでいただければ幸いです。
周囲に溢れる音の中、聞きなれた妹の声がする。戻ってきた安心感が胸を温かくする一方、先程の女神ラヴィエル様に掴まれた首、嗤っていた黄金の双眸が紛れもない現実であったのだと僕を凍えさせる。
「―――祝福だけは与えてあげる。でも魔力は与えない。この意味を貴方は身を持って知るわ。私に気に入られなかった罪を嘆いて生きなさい。」
僕はラヴィエル様を怒らせてしまった事、魔力が貰えなかった事――『罪』という言葉が頭の中を支配していた。真っ暗になる。頭も心も。目に映る景色も・・・・・・
そして僕は意識を失った。
「よおカレン坊。気がついたか?」
カレン兄の声がする。嗚呼、僕は気を失ったのか。だから『いつものばしょ』に来ているのか。
ここは寝ていたり意識がないときにカレン兄と会える場所だ。ここで僕はカレン兄と鍛錬を続けてきた。
小さな公園くらいありそうな室内、綺麗な板張りの床、壁には木剣、木刀、木槍が掛けられている。
鍛錬場の一番奥、一段高くなっており、緑色の干草で編まれた床の上に座った姿勢で方膝を抱えながら僕を待っていた。
「何故?と問わないあたり、ちゃんと考察できているみたいでよかった。さて。何が起きたか覚えているか?」
多少ぶっきらぼうな発言だけど、そこに優しさや心配という気持ちがあることを僕は知っている。ずっと一緒だったから機微がわかる。
うん。覚えているよ。だけど、あれはなんだったの?カレン兄は理解しているみたいだけど。
「その辺も含めて話したい。一気に話すから遅れるなよ。」
「・・・まずはカレン坊の現状についてたが、簡潔に言うと魂が疲弊して気を失った。原因は二つ。自称転生神ラヴィエルの神気を浴びたこと。それと魅了に拠る精神攻撃を受けたんだ。
普通の人間が上位存在の気を浴びれば普通は気が触れる。俺も過去に浴びたことがあるから解るんだ。
魅了については俺が邪魔をしてなんとか対抗できたけどダメージは残ってしまった。というところか。
すまなかった。お前を守るといったのに後手に回りすぎた。」
少し考える時間がほしいな。
それと気にしないでカレン兄。ラヴィエル様が魅了を掛けてきた理由はわからないけれど、助けてくれたのは間違いないんでしょ?感謝こそすれ、非難なんてできないよ。
「本当にお前ってやつは・・・。俺も気持ちが固まった。全て話す。俺が何者なのかもな。」
よろしくおねがいね。大分僕のほうも整理できてきたよ。
小さい頃からやたら「鍛錬を怠るな。一日休めば追いつくのに三日だぞ」とか「理解は常に後。状況の整理だけは忘れず最悪と最善を用意しておけ」なんて、お説教していたのがここにきて実感できたよ。
自称転生神ってことはカレン兄は他の転生神を知って・・・いや、会った事があるんだね?だから『神気』っていうのを知っている。それと転生神を知っていて僕と一緒にいる。つまりカレン兄は転生して僕と一緒にいるって事か。
あのときの胸が熱くなったのは、カレン兄が抵抗したから。
「最高に合格だ。俺のことは後で話す。まずはラヴィエル、転生神についてだ。確かに俺は転生するに当たって転生の女神、輪廻転生の女神と会った事がある。
ファタルに於いて『邪神』と呼ばれている―――輪廻の邪神リリエルだ。
故あってリリエルに転生させてもらったんだ。この辺は俺の過去にも繋がるんだが―――」
ちょ、ちょっとまって!そうしたらカレン兄は邪神リリエルの使徒って事じゃないか!僕を騙していたのか!大切な家族だと思っていたのになんでだよ!
「―――!!!落ち着いて聞いてくれ。頼む。俺も転生してカレン坊と生きてきて、彼女が邪神だなんて驚いていたんだ。理由は俺にも分からないんだ・・・すまない。」
カレン兄の姿はとても小さく見えた。一緒に生きてきた中でこんな姿を見るのは初めての事で、彼が言っている事に嘘はなく、彼本人も困惑や不安を隠せていなかった。
僕が生きてきた14年。家族よりもずっと長く一緒にいたからこそ、自分でもある彼を責めることはこれ以上できなかった。
ごめんカレン兄、ちょっと熱くなりすぎたかも。
「本当にすまない。騙す気なんて微塵も持っていないことだけは信じてくれ。だから聞いて欲しい。
俺は―――この世界の人間じゃない。そして最も愚かで最も弱い人間だ。―――」
カレン兄の独白を僕は黙って聞くことしかできなかった。今でも理解し信じきるには時間が足りていない。
こんなにも強く優しい性格の彼が、別の世界(地球という惑星らしい)にて全てに嫌気が差して自害したこと。
地球では魔法や神様は存在せず、人間だけが生活し、科学が基盤になっている世界であること。
消滅するはずだった魂を救い上げたのが邪神リリエルだったこと。
そしてその邪神リリエルの伴侶であること。
消滅ではなく、自分の罪を背負い、清算する為に転生を選んだということ。
自分がファタルに於いて異物だとし、素直に転生なんてせず、転生先の宿主(僕)との共存共生を選んだこと。
魔力や筋力といった能力は神様から貰うものではなく、鍛錬や実戦で自らの力で得られるものだということ。
正直足場が崩れそうなほどに僕は動揺していた。
この世界ファタルでは祝福を授かる際に、授けた神様から祝福とは別に能力値を上げてもらう。貰わなければ祝福や魔法やスキルを使うことが出来ないとされているからだ。それが『常識』だった。
彼の話をそのまま受け取れば、努力すれば誰でも魔法やスキルを使うことが出来る。祝福とはそれらを拠り強力にしたり、獲得するまでの成長速度を加速させるものでしかなかった。
祝福とは言葉通りの意味でしかなかった。
「―――これが俺、南條華蓮という人間が見聞きしてきた情報だ。嘘はない。」
ははは・・・・・・困ったな。カレン兄がこんな大きな問題を抱えていたなんてね。カレン兄が言うとおりなら・・・ラヴィエル様は一体何者なんだろうか。他の神様達についても分からなくなった。邪神達についても。
それでも揺るがない事実がある。
カレン兄がいてくれたから僕は『スキル』や『魔法』が使える。鍛錬を続けてきたけど、僕自身の魔力量や体力が成長途中だから少ししか使えないけれど。・・・僕たちの秘密だ。
一人で鍛錬をする様は家族にも奇異の目で見られていたけど、全てが真実なら続けてきてよかった。
これからはもっと頑張らないとな。
なによりもカレン兄が僕の家族で、僕自身であることだ。どんな気持ちで過ごしてきたのだろうか。きっと彼なら僕の肉体を奪うことも出来た筈だろう。それをせず常に僕を優先し、見守り、時には叱り見守り続けてくれていた。例えそれが罪を清算する為とはいえ・・・なんと誇り高い魂なのだろうか。
一人で背負い決して表に出さない。転生させてくれたリリエルが邪神とされている世界。悲しみも不安もあっただろうに。それすら押し込めずっと彼は『生きてきた。』
魂だけの存在でも確かに存在し、生きてきたんだ。たった一人で。
本当に―――自慢の兄さんだ。
だから誓おう。一人の男として、誇り高い彼の魂に恥じぬよう、もう一人の自分に。
これからは僕もカレン兄を守る。僕らは二人で一人だ。
カレン兄は目頭を押さえ声を殺し、涙を流していた。粛々と今までの溜め込んだ想いを流すかのように泣いていた。
「―――ふぅ。すっとしたぜ。余計な言葉は不要だな。ありがとう。」
!?!?カレン兄・・・眼が・・・
カレン兄の瞳が変わっていた。普段は僕と同じ黒髪黒目なのに金色の虹彩を放っていた。
「あん?・・・眼?何?金色!?WTF!?」
きっとこれがカレン兄の素の性格なんだろう。新鮮で面白い。
「面白がってるんじゃないよ。まったく・・・・・・ん?ふむ。なるほど!?なるほどじゃねぇよ俺!まったく意味が分からんぞ!チートは駄目だと言っただるぉ!!干渉できないんじゃないのかよ!!!ていうか誰!?『フォリエルの加護』ってなんだよ!加護の内容やべぇやつじゃん!あーもう!絶対に説教してやるかなら!」
「それよりもだ!カレン坊。祝福の内容についてだが理解しているか?」
温度差よ。ちなみにフォリエルも邪神の一柱だよ・・・・・・ほんとうにどうなっているんだろう。
うん。それは大丈夫。『結界術師』だよ。教会術師に多くいる祝福だね。
だけどきっと使えない。祝福と付随して手に入れた初級の結界魔法。初級なのに消費する魔力量が全然足りないんだ。もし発動するとなれば、僕を三人連れてきてやっと一回発動できるくらい。
「分かっているならいい。普通に考えたらおかしいってことはわかるな?」
今となっては理解できる。もし本当にこの祝福通りなら、教会術師の魔力量はとんでもないことになる。当然使用する結界魔法は中級上級と続いていくが、それに比例して消費する魔力は増加する。
単純に僕の保有する魔力が少ないという問題、それに伴って連続での発動はできないが、現状初級の魔法なら基本属性全てを使用できる。
全属性といっても魔法は多岐にわたる。この場での基本属性とは「火」「水」「風」「地」「光」「闇」の六属性である。
さておき、初級魔法なのに僕が三人分というのは俄かに信じがたい現実である。故にどれだけおかしいか理解しなくてはいけない。
「よろしい。問題はこの先、目下は目覚めてからだな。想定しうる最悪の状況だけ説明する。
おそらくカレン坊は・・・・・・生きてはいけない。優しくて素敵な家族とクレアちゃんがいたとしてもだ。俺の行いでラヴィエルの魅了を回避したわけだが、おそらくそれが原因になるかもしれない。」
な。何を言って・・・・・・
「まぁ聞け。俺からしたら自称神を謳っている連中への信仰度合いが、この世界の人たちは強すぎる。
ましてや、キーラちゃんにクレアちゃんの祝福の内容を思い出してみろ。」
彼女たちは―――『聖女』だ。
「そうだ。聖女だ。カレン坊と生きてきた中で知りえた情報だから既に知っていると思うが、『この世界で特殊で特別な祝福がある。それは神の代行者であり、代弁者である。それらは―――勇者、聖女、巫女』だよな?
おそらく彼らは神から神託を受けることがある。
わかってきたな?」
う、うそだ・・・・・・嘘だ!ありえない!
「あくまで最悪の状況を想定しているだけだ。正直俺も苦しいんだ。お前の幸せは俺の幸せでもある。
だから神託は受けず、俺らの両親もキーラちゃんもクレアちゃんもお前を愛し続けるという変わらぬ日常もあるだろうな。それが最善の状況だ。
しかしな。現実ってのは後手に回った段階で最善は遥か遠くに逃げていくんだ。
だから思考を止めるな。
あくまで考えうる最悪の状況だ。」
そうだった・・・・・・こんな事になったのはラヴィエル様から不幸を買ったからだ。カレン兄は僕をずっと守ってくれる。そのために精一杯考えてくれているんだ。誓ったはずだろう。彼に恥じない様にと!
気を強く持て!大丈夫だ。いける。
「よし。いい子だ。祝福は貰えた。神様に嫌われた。故に敵対もあると思っておけ。
目覚めたら状況の確認と整理をわすれるなよ。やばそうなら兎に角逃げろ。その際、スキルと魔法の使用を躊躇うな。
カレン坊の気持ちは痛いほどに分かる。だけどどうか目を逸らさないでほしい。前世の俺のようにならないでくれっ!頼む!」
わかったよカレン兄。ありがとう。
そろそろ目覚めそうだね。―――行ってきます。
「ああ。また会おう、カレン坊。」
意識が浮上していくのがわかる。
音が、匂いが、僕を覚醒に導くなかで、空気だけが冷たかった。
眼を開いて見てみれば・・・・・・侮蔑の視線を投げつけてくる大勢の人間と、懐疑の視線を向けるキーラとクレアが僕を取り囲んでいた。
おーい!あとがきさんまってくれぇ!
・・・・・・とんでもねぇ待ってたんだよ(ニチャァ
ということで皆さんどうも。黄色い翁でございます。
リリエル出してぇ!ヒロイン出してイチャコラさせたい!と暴れ散らかしております。欲望はとどまることをしらないね!
現地カレン強くない?と思った其処のあなた!
強くないんですよ。一般人で練習して手に入れたスキルは使えはするけど弱い。
多少の攻撃方法を持っている一般人なのです。ぱんぴーってそんなかんじでしょ?
今回のお話はどうでしたか?ちょっと重めですが楽しんでいただけていたら幸いです。
さて、カレンと華蓮。どうしても彼らの語り合いは外せませんでした。
書き始めた段階での予定だともっと大量の(話数的)時間を過ごすはずでした。
しかし、W主人公で進めようとすると現状の私では到底表現しきれない為に大幅カットした次第でございます。それに転生ものなのに憑依ものに変わってしまう恐れもあった為・・・え?現段階でも十分に憑依ものだって?
んな細けぇこたぁいいんだよ!
故にカレンの時間を削りました。
見逃せない点もあったと思います。
フォリエルって誰ぞ。眼の色が。やっぱりチートかよ。。とかね?その辺は幕間で表現できればなと思っております。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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それではまた会いましょう。